第37話

「おはようございます、朝葉様」

「おはよう、トワロ」

朝葉は今日も機嫌良く、トワロに挨拶をした。

「今日は王宮から呼び出しがかかってますよ」


トワロは笑顔で言った。

「え、そうなの? ちょっと怖いなあ」

朝葉は冒険者の服に着替え、装備を調えるとトワロとともに王宮に出かけた。


王宮に着くと、謁見の間に案内された。

「おはようございます、朝葉様」

「おはようございます、王妃様」

王妃はドレスを身にまとい、優雅に挨拶をした。

朝葉は、王妃はいつ見ても綺麗だな、と見惚れて居た。


「本題なのですが、砂漠の先のダンジョンの地下一階にゾンビが現れたそうです」

「え!? ゾンビですか!?」

朝葉はひるんだ。

トワロが朝葉に言った。

「朝葉様、ゾンビはやはり怖いですか?」

「ちがうよ、トワロ。ゾンビは食べられないじゃない!」

トワロは通常運転の朝葉に、がっくりと肩を落とした。


「冒険者に怪我人が出ています。一刻も早く討伐して頂きたいのです」

「・・・・・・分かりました」

朝葉は渋々頷いた。

「すぐに出発します。それでは失礼致します」

トワロは朝葉を連れて、王宮を出た。


「あーあ、ゾンビはさすがに食べられないよね」

「朝葉様、がっかりしていますね」

「うん。こんどは何の調理ができるか楽しみにしてたんだもん」

朝葉とトワロは砂漠の先のダンジョンに向かった。


ダンジョンに着くと、怪我をした旅人がダンジョンから逃げ出した所だった。

「朝葉様、いきますよ!」

「うん」

トワロと朝葉がダンジョンに入ると、肉の腐ったような嫌なにおいがした。

「あれ、ゾンビじゃない?」

「三体居ますね」


トワロは炎の魔法を使った。

「ファイアウォール!!」

三体のゾンビに火が付いた。

朝葉は動きの止まったゾンビの急所をスキルで探索した。

「胸が急所だよ!」


そう言って、朝葉は剣をゾンビの胸に突き立てた。

「ぐぅぅ」

次々にゾンビを倒す朝葉。

「やった!?」

「動きませんね」


次の瞬間、ゾンビは灰になり、こぶし大の黒い石が転がり落ちた。

「暗黒魔法の魔石ですね」

トワロは黒い石を見て行った。

「持って帰りましょう」

「え!? 大丈夫なの!?」

朝葉が尋ねると、トワロは頷いた。


「王妃様から、術式のかかった袋を預かってます。それに入れて持って帰ります」

そう言うと、トワロはカバンから白い布製の小袋を取り出した。

トワロは黒い石を小袋に入れ、カバンにしまう。

朝葉は、ため息をついた。

「石だけじゃ、調理できないよ。つまんない」

「まあ、そう言わずに王宮にもどりましょう」

「……そうだね」


朝葉とトワロは王宮に戻った。

「ただいま戻りました」

「おかえりなさい、朝葉様、トワロ」

謁見の間で王妃がふたりを出迎えた。


「王妃様、こちらが魔石です」

「頂戴します、トワロ」

王妃は袋の中の魔石を見て、頷いた。

「朝葉様もお疲れ様でした」

「いいえ」


「この魔石には、呪術がかけられています。魔族が動き出したのかも知れません」

「ええ!? 魔族って強いんですか!?」

「はい、強敵です」

王妃は憂鬱な表情を浮かべて、朝葉に言った。

「ですから、朝葉様には騎士の修行も力を入れて欲しいと考えております」

「……分かりました」

朝葉は緊張しながら、頭を下げた。


「とはいっても、今までとやることは変わりません」

王妃は朝葉とトワロに言った。

「冒険者の館や王宮で依頼を受けていれば大丈夫ですよ」

「はい!」

朝葉は元気に答えた。


「それでは、下がって良いですよ」

「はい、失礼します」

朝葉達は王宮を後にして、バンガローに戻った。


「トワロ、お茶でも飲もう」

「ありがとうございます、朝葉様」

ふたりは紅茶と、イチゴのジャムをのせたクッキーを食べながら、ため息をついた。

「緊張した」

朝葉が言うと、トワロも頷いた。

「そうですね」


「魔族か。強そうだね」

「そうですね」

「私もトワロみたいに、光魔法以外の魔法も覚えられるかな?」

「やってみる価値はありますね」


お茶の時間を終えると、トワロは王宮へ帰っていった。

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