第30話 姉小路家の別荘にて

「姉小路の別荘よ! 私は帰って来た!」

 生徒会長の「やったわ、無事別荘まで着いたわ。」は、「姉小路の別荘よ! 私は帰って来た!」と聞こえた様な気がしたが、きっと気のせいだろう。

 某少佐とも無関係に相違ない。

「よぉーっし、各人手荷物を自分の部屋に運んでから、玄関ホールに集合。やる事は多いぞ。」

「ええ。」

「はい。」

「うぃっす。」

 全員の声が、唱和……しなかった。

 食事自体は、高速に入る前に、ファミリーレストランで、すませた。が、明日からの食料を自動車から、別荘に運び入れるのに意外と手間取った。

「ふぃーっ……すっかり遅くなっちまった。女子から、風呂使ってくれや。俺は、車をガレージに入れて来る。多賀、付き合え。」

「はい。」

 こうして、僕と伸綱は、二人だけで、自動車に乗り込んだ。

「多賀、お前さんが、欲しがってた『情報』だ。」

 伸綱は、20数枚の紙束を、宗竜に渡した。

「ありがとうございます。」

 メールで済む内容だが、顔写真が添付されていたので、止めておいた。

 また、『予知』して貰う場合、情報の内容を生徒会長に、知らせる必要がある。そうしたくなかったので、止めておいた。

「結構な数になりますね。13年前まで遡りますか。」

「そりゃそうさ。お前さんの言う通り、過去エリー嬢ちゃんに敗北して、苦い経験をした連中を全てなんだからな。」

「と言う事は、生徒会長は、自ら語った通り、『生まれつきの能力者』だった。それが、これだけの数に及ぶ訳ですか。……お返しします。」

「おっ……すげぇな、もう覚えたのかい。」

 伸綱が、急いで紙束を隠した。

「あら、こんな所で密談ですか。」

「おっ……エリー嬢ちゃん。風呂はいいのかい?」

「ジャンケンで、順番を決めました。直子さんが、一番です。」

「それって、『予知能力』で、相手が何出すか分かってたんだろう。ワザと負けたのか。」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。

「そんな事より、なんの話をしていたのです。私だけ、除け者ですか。」

 僕と、伸綱は、肩をすくめて、正直に話す事にした。

「生徒会長に、『能力で攻撃する人物』の分析を試みてました。」

「流石、多賀君。で、結果は?」

「生徒会長、今資料を貰ったばかりです。分析は、これからです。」

「資料?」

「生徒会長に、苦汁を飲まされた人物を、一覧にしたものです。」

「そうですか……そうは言われても、私には心当たりが、ありません。何しろ、未来は視えても、過去は視えないものですから。」

「それを言うなら、過去は、『視る』ではなく、『思い出す』ものだろう。」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。

 そこに、着信音が鳴る。

「あら、メールね……直子さんが、お風呂終わったそうです。お先に、お風呂頂きますね。」

 スマホを、操作する生徒会長。

「どうぞどうぞ。」

「生徒会長、お先にどうぞ。」

「では、ごきげんよう。」

 こうして、この場を後にする生徒会長だった。


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