第17話 可能性は無限大。そう貴方のiPh◯neならね

帰宅。あの後、榊原に色々先輩との関係を聞かれたりティファニーに会わせてほしいと土下寝されたりしたけどなんとか帰ってきた。

部屋に帰って明かりをつける。

まぁいつも通りの部屋。

白い壁に木枠の……。2階なので見晴らしがちょっといい。それくらいの部屋。あとカピバラのぬいぐるみがベッドに置いてある。

ベッドに寝転んで、桐原先輩から受け取ったスマホの電源を入れる。

LINEだけインストールしてある。

仕事が早い。

LINEには桐原先輩と明石さんと明日葉さん。あと榊原からの登録申請。

とりあえず誰に連絡しよう……。

……いや、期間は一週間。

時間はないし榊原だ。

友達登録。

ポコンと軽快な音。

『お!ティファニーちゃん!登録してくれてありがとな!よろしく!』

この文を見ただけで罪悪感がある。榊原の純粋さが憎い。

というか、女装したのがバレるのを隠すためにネカマになるのって冷静に考えなくてもやばいんじゃ……。

『こんにちは。よろしくお願いします』

出来るだけ距離を取りに行こう。

そうすれば察しのいい榊原のことだ。素直に諦めてくれるはず。

『そうだ!矢部とは仲直りできたぜ!あの時はありがとな!これもティファニーちゃんのおかけだ!』

『僕は何もしてない』

あ。一人称間違えた。

『そんな謙遜しなくていいんだぜ!ティファニーちゃんは家では僕っ子なんだな!可愛いと思うぞ!』

家と外で一人称変わるか?

いやでも助かるからいいか。

『ありがとうございます』

まぁここまでは定石みたいなものだ。当たり障りのないやり取りでお互いの距離を掴んでいく、

僕は出来るだけ距離を取っていけばいいだけ。

『ところでティファニーちゃん!デート行こうぜ!』

距離の詰め方が瞬間移動レベル。

『嫌です』

普通の人でもそうなるだろ。

『じゃあお出かけしようぜ!』

言い方がマイルドになっただけじゃないのか。そもそも僕はもう二度と女装しないぞ。

『いそがしいです』

『そっちに合わせる!いつでもいいぞ!』

『ずっとです』

『そんなぁ!』

しょんぼりスタンプを投げてくる榊原。

『じゃあ素直に諦めるぜ!』

あれ、物分かりがいい。元からしつこい印象はなかったけどめんどくさいくらいには思ってたからこんなにあっさり引き下がると拍子抜けする。

『そのかわり話そうぜ!LINE登録してくれたってことは話したい事とかあるのか!?矢部のことか?』

ティファニーも一応矢部だと思うけどこの場合は僕の事だろう。いや、ティファニーも僕だけど。

ややこしくなってきた。

『話す話題が思いつかないです』

距離を離す目的と僕の心が完全に一致してしまった。

『そうなのか!?じゃあ俺がインタビューするか!』

予想してないくらい光属性の返答してきた。

『最近どうだ?』

父親か。

『どうと言われても……まぁまぁです』

『……そうか』

終わった。……終わったな。

いや、別にこのまま終わってくれればその方がいいかもしれない。

特に榊原が傷付くこともなく、なあなあに終わるのが一番いい。

それが一番いい。

ピコン!

僕のスマホに通知音。

榊原からだ。

『やっぱティファニーちゃんって矢部の姉妹だな』

『姉じゃない』

『ティファニーちゃん妹って言ってなかったか?』

『僕が妹って意味じゃない』

『理解した』

理解した。じゃないんだよ。ボケなのか普通に間違えてるのか分からないくらい普通に会話してくるな。

『で、なに?』

とりあえずさっさと用件を聞いておこう。

「おう!ティファニーちゃんが塩対応すぎて泣きそう』

『そっか』

『矢部も冷たい』

めんどくさい奴だな……。

『フラれた?』

『いや、フラれる前に終わった。やっぱ俺には矢部しかいねえよ』

浮気から帰ってきた男みたいな事言い出すな。

『……』

『なぁ、やり直そうぜ俺たち』

『そもそも付き合ってないだろ』

『じゃあ付き合おうぜ俺たち』

『やだよ』

なんだこのノリ……。

『なぁ矢部』

『なに?』

『ティファニーちゃんってさ、実在するのかな』

『……は?』

……これ深読みした方がいいパターンのやつか?

『どう言う事?』

『矢部って天使じゃん?で、そんな矢部にそっくりで妹属性までついてるとかよ。存在していいのか?天使が現実にいるか?いねぇよなぁ!』

聞くだけ損した。というか変なネタ入れてくるなよ。

ここでいないって言ったらどうするんだろ。

いないよ。よく分かったなって。

僕の女装でしたー!って。

「なんだと!?じゃあこれから女装矢部がいつでも見られちゃうわけか!?」

……言いそう。いや、言うな。

ほんとは隠す必要ないのかもしれない。

いや、というかそもそも一回だけ、ぬか喜びさせるって……そう決めてたわけだし。

僕が恥ずかしかっただけで、僕が女扱いされたくないだけで、僕が女だったらって、それがティファニーになっちゃっただけ。

……榊原は受け入れるんだろうなぁ。

だから変態でも友達なわけだし。

「……ふふ」

なんか部屋で一人でニヤニヤしてアホみたいだな

『榊原、今からコンビニ行かない?』

『お、いいぞ?いつものファミマだな?』

『うん』

……やっぱLINEで話片付けようなんて虫が良かったんだと思う。

直接会って話をしよう。

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