第12話 ココアのように甘い勘違い、コーヒーのような苦い結果

落ち着いた雰囲気の店内。

いつも思ってるけど、喫茶店によくあるくるくると回るあのプロペラみたいなやつはなんなんだろう。

テーブル席で僕の隣には先輩。

僕と向かい合うように明日葉さん。

その隣に明石さん。

ココアを注文した。美味しそうだったから。でも、他の3人が揃いも揃ってコーヒーを注文したので僕だけ子供舌みたいな空気になってしまった気がする。

コーヒーくらい僕にも飲める。ミルクと砂糖を入れれば。

「それで?ティファニーちゃんは男って事で良いんだよね?」

「……はい」

よく考えたらなんで僕がこんな罪悪感を覚える必要があるんだろうか。

先輩が言うなって言うから言わなかっただけなのに。

「ほんとに高校生?」

そこかよ。

「はい」

そこはキッパリしてる。

「お待たせしました。コーヒーとココアでございます。ごゆっくりどうぞ」

ドリンクが来た。ココアの甘い匂いとコーヒーのローストされた匂いが美味しそう。コーヒーも匂いだけは美味しそうなんだけどな。

「たぶんね。ティファニーちゃんも被害者だと思うわけよ。ティファニーちゃんが頑なにひらひらしたのとかピンク色を嫌がってたの、今なら全部わかるよ。だから問題は、泉。だよね」

先輩はコーヒーを、ストローで落ち着いて飲む。

「詳しくは説明しませんが、重要人物なのは変わりありません。素性は極力知られてはいけないのです」

「なにそれ……。だから女の子の格好させたって事?」

「いえ、それとこれとは別件です。悩んでいたので」

僕の悩み……?女と勘違いされる事。

僕は確かに先輩にそう言ったけど、なんで女の子の格好にしようと思ったんだろう。

「泉ってそういうとこあるよね。もうちょっと分かりやすく説明してくれない?とりあえずティファニーちゃんは総長の妹じゃないわけでしょ?」

「……その通りです」

「じゃあ、この子はなんなわけ?」

「話せません。総長代理と、幹部のみに開示されています」

「……なにそれ。総長に近い人って事?」

「はい」

総長とか、総長代理とか。ずっと気になってはいる。

「総長とかってなんなんですか?先輩も隊長って呼ばれてましたよね。なにかのグループなんですか?」

「話すの?泉」

明日葉さんが何かを心配している。

「矢部様。私達はY総会です」

この前出てた七不思議じゃん。

「そのでっかくて、でっかい組織ですよね」

明日葉さんがなぜかにやついてる。何故。

「その通りです。Y総会は一言で説明すると、不良を束ねた組織。そう考えてください」

「それはもうアウトローくらいじゃないの?」

明日葉さんが口を挟む。

「しかしアウトローも少数ではありません」

また知らない用語。アウトロー?

「それが僕となんの関係があるんですか?僕は不良じゃないですし、先輩達も悪い人じゃないと思うんですけど」

ココアを飲む。あまい。甘くてちょっと苦い。ちょっと大人になったような気がする。話の内容的にも。

「まずY総会はいくつかの組織が集まってできた集合体のようなもので、それらは大きく分けて、総長派、代理派、アウトローに分けられています」

そうなんだ……。

「僕そんな組織の仲間なんて今まで知らなかったんですけど」

「当然です。幹部と総長代理しか知らないはずですから」

え、なんでそんな重要人物達しか知らないの怖い。

「そこまで言われると気になるんだけど。この子はなんなの?ほんとに。見た感じ別にケンカが強いってわけでもないしさ。なに?」

明日葉さんに僕も同意する。

「先ほども言った通り答えることは出来ません」

なんなんだ……。結局これといった答えが何も出ない。

「じゃあ、僕が女装した理由はなんなんです?」

「それは私の思いつきです」

どう言うことなの

「どう言うことよ……。この子の悩みとか言ってたけどなんなの?」

明日葉さんが代弁してくれる……。

「可愛いと言われたくないと」

そう。それがどうして、女装になるのか。

「ですので可愛い事に興味をもってしまえばいいのではないかと思いまして」

発想がポジティブだけどやり方が脳筋。

「それ先に説明してあげなよ……」

「?デートをしましょうと先に言いました。明日葉が、デートすれば可愛くなる事に興味が出ると言っていたので、実行に移したまでです」

デートってそう言う意味だったの……?

「それは……!」

明日葉さんが言葉を失ってる……。

そしてこっちを可哀想なものを見る目で見ないで欲しい。

そうです僕は美人とデートと言われて釣られました。

……殺してください。

「泉……あとでじっくり話しようね……?」

「今でもいいのでは?」

「今はいいの。今はね。なんか……ごめんねティファニーちゃん……」

いやもう男ってバレてるからティファニー呼びも恥ずかしいんですけど……。

「そういえば本名は?ティファニーではないでしょ?」

「矢部そ」

「ティファニーです」

先輩?

「明日葉。下の名前を知ってしまえばそのうち答えにたどり着いてしまいます。それはとても困るのです」

そこだけは絶対に譲らないんだ……。

と言うかせめてもう少し男っぽい名前にして欲しい。

「そう……。要するに……ティファニーちゃんの正体はどうしても言えないわけね?」

「はい」

「で、女装させたのは可愛い事に興味を持てば嫌じゃなくなると思ったと」

「はい」

「そのためにデートって言ったのね?」

「はい」

明日葉さんが頭を抱えこんでしまった。

「泉ぃ……。アンタといると退屈しないわ」

「?光栄です」

「ほめてない」

「そうですか」

なんだこれ。

「とりあえず泉。デートの意味は後で教えてあげるからティファニーちゃんに謝りな」

「分かりました」

先輩がこちらをじっと見つめてくる。

「デートには他の意味があったようですね。他意はなかったのですが勘違いさせてしまってごめんなさい」

椅子に座りながらとはいえしっかり腰を折って謝ってくる。

そこまでしなくてもいいのに。

「ティファニーちゃん、高校生にもなってデートすら知らない子でごめんね……」

明日葉さんのフォローが刺さる。

「ダイジョウブデス」

僕はデート目当てで来た卑しい男なので……。

恥の上塗りだ……。さっさと帰りたい……。

「すみません。ちょっと用事を思い出したので……。ぼくかえりますね……」

少なくともこの場にいるのは気まずすぎる。

「分かりました。お疲れ様です」

なんというかこう。先輩の言葉はこのタイミングで聞くと冷えた氷みたいに刺さる。

他の2人にも挨拶をして喫茶店をでた。

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