第11話 直接本人から言うより他人に可愛いって伝えた方が効果があるとビジネス本にも買いてあった

「なぁにしてるんだぁ?」

聞き覚えのある声。いつもよく聞く声。

明石さんは僕を後ろにする様に前に出てきた。

僕の前にいた男は明らかに挙動不審になってる。

今まで明石さんと揉み合ってた男は、僕の幼馴染。榊原剛さかきばらつよしに抑え込まれていた。

チャラ男よりも頭二つ分くらいでかい。その上、服越しでも分かる筋肉。

そして、よく知ってる声の安心感。

「な、なんだよお前……」

明らかに男達もびびってる。

「今助けを呼んでる親友の声が聞こえたんだよなぁ……。そしたら困ってる女の子達がみえてよ……。矢部は見当たらないからよぉ……。そっちは連れに任せて俺は困ってそうなこっち来たんだよな」

まずい。それはだいぶまずい……。下向いてよ……。もうこの状態なら多分大丈夫だし。榊原がいればいつだってなんとかなる。

というか連れって誰だろう。クラスメイトだったら相当やばい……。

「とりあえずよ。女の子たち困ってるだろ?離れろよ」

離れろよ。に絶対的強者感がある。

「なんだおまえ。しゃしゃってんじゃねぇぞおい」

チャラ男が突っかかってる。無謀な。

「なんだ?やるか?やるなら付き合ってやるぞ?」

榊原とは思えないくらい攻撃的な発言。普段のバカみたいな発言からは想像つかない。

「……チッ。もういいわ……。おい行くぞ!……とっとといけやキョロ!」

「す、すいません!」

さっきの僕を捕まえようとしてた人キョロっていうのか。

めちゃくちゃ当たられててかわいそう……。

「……。ふぅ、ご無事ですか?お嬢さんたち……」

白馬の王子様みたいなノリやめろ。

「ありがとうございます。貴方は榊原さんでしたね」

「おや、ご存じでしたか。わたくし、剛田高校一年、榊原剛さかきばつよしと申す者……。お嬢さん方お名前は……?」

キャラがぶれてて途中で侍が混じってるんだよ……。

「明石です!ご協力ありがとうございました!」

柊明日葉ひいらぎあすは。助けてくれてありがとね」

霧原泉きりはらいずみです。感謝します」

視線を感じる……。僕も自己紹介しなきゃいけない流れなんだろう。

でも矢部でもバレそうな気がして来た……。どうしよう……。

「き……」

「き……?」

「霧原ティファニーです……!」

ごめんなさい霧原先輩……!でも先輩なら分かってくれる!

「あれ、矢bむぐ……」

明石さんが漏らそうとしたのを誰かが押さえてくれたらしい。

「ティファニーさんどこか具合が悪くていらっしゃる?まさか先ほどの連中に何かされたのでござるか!」

俯いてるから具合悪そうに見えるのか。……まずい。

「あの……、男を見ると死ぬ病で……」

我ながらそんなわけないだろって嘘が出た。

「え、でもさっきは男のこと見てたような……」

「普段男はジャガイモに見える訓練をしてるので……」

誰かがめちゃくちゃ笑いをこらえてるのが分かる。ちょっと「フッ……!!」って言ったの聞こえたからな。

「そ、そうなんですか……。オレは自慢じゃないですけどジャガイモに見えると思いますよ!」

信じてる……。まぁ助かるからいいけど。

「これはきっと恋なのでありますよ……」

なんか明石さんが言い出した。

「助けてくださった方が一目見た瞬間、ジャガイモに見えなくなってしまったなんて、それはもう他の男と違う風に見えてるからに他ならない!つまりこれは恋なのであります!!」

「グゥッ……!」

明石さんがこれってことはずっと笑いこらえてるの明日葉さんか。なんかもう死にそうな声出てるけど。

「ま、マジですか……。じゃあ、ぜひ連絡先交換してください!!」

連絡先交換したら僕が出ることになって最悪なんだよ……。

「…………ティファニーさんは今顔が上げられませんので、私が交換しましょう。後日連絡する、という事でどうでしょうか」

先輩……!フォローのようでいて遠回しにめんどくさいこと提案しないで……!!

「い、いいんですか!?じゃあお願いします!」

ピロンって音が聞こえる。死刑宣告に近い。

「じゃあ、俺連れと一緒に探してる人いるんで!!そうだ!この辺でちっちゃくて可愛くてハムスターみたいな男の子見ませんでした?」

○すぞ。

「いや、もう見た目は完全に美少女なんですけど、ツンデレっぽくてデレるとめちゃくちゃかわいい子なんですけど」

デレた記憶とか一ミリもないし○すぞ。

「フフ……ヘッ……ヘヘ……!ちなみにがひ………!けんは……?」

笑いすぎて呼吸おかしくなってるのになんでそんな質問してくるんですか明日葉さん。モデルが出しちゃいけないタイプの笑い声だよ。

「見た目は……黒髪のショートで、顔は完全に美少女で全体的に小さくて……ティファニーさんと似たような感じですね!」

「フフーーーー……!ンッ……!!」

もう分かった。絶対分かってて聞いたな。ちょっと色っぽい声出てた。

「そのような少年であれば先ほど逃げていくのを見ました。追っている人間も見えませんでしたので、逃げ切れたのではないでしょうか」

先輩ナイス……!!

「あー!そうなんすね!じゃあ山条ちゃんに連絡しないと……!ありがとうございました!ティファニーちゃん!またな!!」

くそ……どうしてこうなった……。

「……ふぅーーー。もう顔あげても大丈夫だよ。ティファニーちゃん?」

笑い終わったのか明日葉さんが声をかけてくれる。

「それじゃあ、詳しい話は喫茶店で聞こっか?」

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