第4話 妄想が力になるとすれば53万ある男

「ふふ……!楽しいね!!学校案内してくれて嬉しいな!ううんいいんだ!僕も山条さんと仲良くなれてよかった!……なんて事になっていたのか?」

次のコマには元通りくらいのテンションで榊原は帰ってきた。

もう放課後だけど。

「イチャイチャしてるくらいなら助けに来な!築地は2時からやってるぜ!それだけの事をして初めてイチャイチャしなよ!!」

僕が山条さんに学校案内してる間に榊原は大倉先生にこってり絞られてたらしかった。

勝手に捕まって助けるも何もないと思う。あとなんで築地の話をした。

「いちゃいちゃはしてないよ。とりあえずおかえり榊原」

「ただいまでござる」

「じゃ、また明日ねバイバイ。山条くん帰ろ」

「え、うん」

山条くんは動揺してるけどなにか榊原に用事があるんだろうか。

「待ちなさいよ!」

「なに?」

「今から矢部の家行っていい?」

「なんで?」

なんで?

「まだ七不思議、話してないもん!」

聞きたくない。少なくとも家では特に聞きたくない。

「バイバイ」

榊原を無視して帰る。

「待ってええええええ!!もっとこう親友を労われよ!いま先生にいぢめられてて傷心中じゃろがい!!矢部の家でお茶菓子でも食べてゆっくり慰めてくれる展開じゃろがい!!そしてあわよくば矢部の部屋に入るところじゃろがい!ふーん矢部の部屋、いい匂いするな……JKの部屋と同じ匂いがする。ん?ベッドの下に何か……ごそごそ。こ、これは……?な、何見てんだよ!そこには赤面した矢部!ふふ、おいおい矢部こんなのが好きなのかよ!かわいい顔してこういうシチュが好きなのか……じゃあ……ためしに……。あ、そこ……!ってどこにもいなーーーい!!」

なんの反省もしてないバカは放っておいて帰る。

「そういえば帰ろって言ったけど山条くんの家はどっちなの?」

「矢部さんの家と同じ方向だよー」

「ふーん、そうなんだ。じゃあ一緒に帰れるね」

「うん!!」

それにしても山条くんは学校案内中もニコニコしててかわいかったな。男に対して可愛いは合ってるんだろうか。榊原に染められてるのかもしれない。

「それにしても面白い学校だね!他のクラスの人もいい人達そうだったし、楽しくなりそう」

「そうだね」

「三年生の教室通ったら、先生に迷子の中学生だと思われたのはびっくりだったけどね」

「うん」

山条くんは身長が僕より低いので中学生と見間違えられても仕方ない。

「二人で保護されそうだったもんね」

それが一番解せない。山条くんはともかくなぜ僕まで中学生扱いされているのか

そして話が続かない。こういう時、榊原がいると便利なんだよね。勝手に話して勝手に盛り上がっていくから。

「山条くんって前はー……」

「?前はー?」

こういう時どう言えば良いんだっけ。

「どこで生きてたの?」

「どこで生きてたの!?」

なんか聞き方を間違えたのはわかる。

「ボクなんか矢部さんに恨まれてたのかな!?」

「ち、ちがっ……」

必死で首を振る。

「ふふっ冗談だよ。どこに暮らしてたの、かな?」

頷く。コミュニケーション能力の差を感じる。たすけて榊原。

「前は、関西の方に住んでたんだ。生まれは関東なんだけど、親の都合でね。だから関西弁とかは期待しないでね」

関西にいたからコミュニケーション能力が上がったんだろうか。

関西すごい。

「なんでこんな辺境に?」

「へ、辺境……?」

また困惑させてしまった……。

「田舎って事なのかな……?そんなに田舎じゃないと思うけどね。剛田市に来たのも親の都合だよ」

苦笑しながらフォローしてくれる。イケメン力が高い。

「じゃあ、また親の都合で引っ越すかも……ってこと?」

「……かもね」

あ、なんか、へんな空気になってしまった……。

「え、なぁにこのラブホに行く前のカップルみたいな空気……」

来てくれて助かったけど帰ってほしい。

「二人とも顔をあげなyo。ぼくのかおをおたべ!」

どこからともなく湧いてきた榊原が渡してきたのはあんまんだった。

くるのが遅かったわけだ。普段なら2分もあれば追いついてくるのに、コンビニに寄ってたのか。そしてお前の顔じゃない。

「元気100倍あんまん!」

ちなみに榊原が食べてるのは肉まん。

「ねぇー、ねぇねぇーどぉしてぇー?どおして帰っちゃったのぉ?矢部ぴってばひどいよぉ〜。うさぎさんは一人ぼっちになると死んじゃうんだぞぉ〜?」

お前はゴリラだろ。

ちかよるな、すりよるな。最近榊原の顔、ひげがじょりじょりするんだよ……。

「やだぁ矢部のほっぺた赤ちゃんみたいにすべすべー。うらめしいー。あ、ところで山条ちゃん今から矢部の家行くか?」

は?

「え、行っていいの?」

「おういいぞ!」

「ほんとに!?」

誰も許可してないんですけど。

「計画通り……。これで矢部は山条ちゃんの手前断ることは出来ない……」

こいつ……。

「……仕方ない。でも榊原は帰って」

「おれはつけものか!?」

のけものの間違い……?

「榊原くんは人間だよ!」

榊原が人格否定されたみたいになってる。

「別にきてもいいけど今日親いないよ。お茶くらいは出すけど」

「えっ……それって……」

もじもじするな。

「でも最初から3人はハードルが高いな……。はじめては二人っきりってアタイ決めてるの」

何言ってるのかわからないけど多分ろくな事ではない。

「あ、じゃあちょっと家に寄ってから行くね!またあとで!」

走り去る山条くん。

意外に速いけど転びそう。

榊原はそっと僕の両肩に手を乗せた。

「七不思議、楽しもうな……?」

詰んだ。

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