第3話 エレクトリカル花子さん

「と言うわけで学校案内に行ってみよー!」

「わー。よろしくね榊原くん」

山条さんに学校案内をするため、僕と榊原は授業を免除された。榊原がでかい声で立候補して、大倉先生に榊原のお守りをしろと言われたのが何故か僕だった。

「任せろよ!!学校の案内をさせたらオレの右に出るやつはいないぜ!!」

それはすごい。ところで、榊原と山条くんの2歩くらい後ろについて廊下を歩いててふと思った。

「なんで僕もついていくわけ?」

必要?

「矢部がいないと顔が汚れたアンパンマンみたいなテンションになりそうだから!!」

依存しすぎだろ。榊原にとって僕はなんなんだよ。

「あと折角だから両手に花を楽しみながらいちゃいちゃするのを眺めてたい。イチャイチャする時はイチャイチャタイム!!って言ってくれれば陰でひっそり見守るようにするから気軽に言ってくれよな!」

なんだその羞恥プレイ。しかもいなくなるわけじゃないのがタチ悪い。

「というわけで左手をご覧ください」

トイレ。

「かわやでございます」

なんで紹介したんだよ。

「ちなみに矢部がよく使うトイレです」

気持ち悪い補足を入れるな。

「ついでに一番奥は怖いらしく奥から一個手前の個室トイレをよく使っております」

「やめろバカ」

「そうなんだ。何が怖いの?」

山条くんも深掘りしてこないで欲しい。

「個室の三番目には花子さんがいるっていうのを信じてるんだ」

「信じてない」

「でもこの前オレが三番目のトイレをリズミカルにノックしてたらマジギレしてきただろ」

「信じてない」

誰もいないと思って入ったトイレでリズミカルにドアノックしてるやつがいたら誰でもキレるだろ。

「なんでノックしてたの?」

山条くんが食いついちゃった。

でもたしかにあの時はとりあえずキレたけどそういえば何してたんだ。

「いや普通に花子さんを呼ぼうとしてた」

無言で榊原を殴った。

「ぐふっ……!」

そんなに効いてないだろ。

「違うんだ!聞いてくれ!あの時オレは確かに花子さんをよぼうとしてた!でもそれは矢部がきた時にドッキリでしたー!っていうためだったんだ!」

本人出してドッキリでしたはないだろ。

「僕がトイレに行くのを待つな」

「だめかー……。じゃあトイレはもう終わりかな!」

そもそもトイレの案内がいらない。

「じゃあ山条ちゃんとりあえずこの地図をあげよう!」

山条くんをナチュラルにちゃん付けで呼ぶな。

「ありがとう!いろいろ書いてあるね」

「普通の学校内部はそれ見れば大体わかるので、今から我が校の七不思議スポットを見に行きたいと思いまーす!!」

「帰る」

「待つんだ矢部!七不思議は怖いものだと思うのは早計じゃないか?」

…………。

「……くだらないから帰るだけ」

別に怖くないし。

「なるほどな……。だがいいのか?転校生を置き去りにして……」

いうが早いか榊原は山条さんを羽交締めにするとトイレを顎で示した。

「ひゃぁぁぁ……!榊原くん何するのっ……!」

男とは思えないような声を出す山条さん。

「山条ちゃんには悪いがこのトイレをノックしてもらうぜ。リズミカルにな!!!くく、恨むなら矢部を恨め……!!」

さいていだこいつ……。もし本当に出たらどうするんだ……。

「人を巻き込むな……!」

「巻き込まれるかは矢部次第だ……。どうする?七不思議スポット。行くか?」

卑怯すぎる……。

「本当に怖くないんだな?」

「…………半分は怖くない」

「もう半分は……?」

「うちのホラー研究会がめちゃくちゃ興奮してた」

じゃあめちゃくちゃ怖いじゃないか。ホラー研究会は知らないけどそんなの研究してる連中がまともなわけがない。

「大丈夫。何があってもオレが守るから……。な?」

「…………分かった」

「良いんだ……」

山条さんが何故か引いてる。何故

「ていうかそもそも山条くんは怖いの平気なの?」

羽交締めを解かれた山条さんは首を振った。締めるといっても実際のところ抱え込んだ程度のものだったとは思う。榊原はそういうやつ。

「別に怖くないよ。矢部さんこそ女の子なのにボクのためにありがとうね。何かあったらボクが守ってあげるから!」

「僕は……」

女じゃないと言おうとしたら止められた。

「待て矢部」

「なに榊原」

「お前が今言おうとしてる事は分かる。だがそれを言わないほうが楽しい。そうおもわないか?」

…………。

「思わない」

「学食おごるから……。どうせ明日にバレるから今日だけ!!」

「さっきから最低だぞお前……」

「最低と言われても良い。今は自分のプライドよりも見たい大切な物シチュエーションがあるんだ……」

こいつ……。

「何かボクに隠そうとしてる?」

やはり言ったほうがいいのでは?

「隠し事だなんてとんでもないぜ!見たままを信じたほうがいいぞ。矢部は美少女で可愛い。だろ?」

「うん……まぁ、そうだね」

「違ったら学食をおごる。それでどうだ?」

こいつ学食を二人分おごることになんの躊躇もない……。

「えーほんと?じゃあいいよ」

わーあっさり。

「矢部さんにも言いたくないことあるよね。だから今は聞かないよ。その代わり」

スッと僕の手に山条さんの手が滑り込む。

「これは許してくれる?」

恥ずかしい事をしてくる……!!

「やだイケメン……。キュン……!!」

榊原のリアクションはアレだけどこれはすごい。

なんだこのアイドルスマイル。

輝くオーラが出てる……。

手を繋がれてももはや何も言えない。

「アタイと結婚して!!」

「榊原くん男でしょ……」

「じゃあ抱いて!!ワンナイトでいいから」

「やめろバカ」

要求が生々しいんだよ。

「はっ!!いやちがうんだ矢部!これは浮気とかじゃない!けして!そういうのじゃないんだ」

「そもそも付き合ってないんだよ」

「えっ、そんな……」

えっ、じゃないんだよ。

「浮気したからもう知らないってわけなのね……。ふふ……そうね。アタイが悪かったんだわ……。さよならっ……!!!ぅぁぁああああ!!!」

どこかへ走り去っていく榊原。

「うるせえぞ榊原ぁぁあ!!」

そして職員室から出てきてキレる大倉。

「じゃ、行こっか?」

この状況で動じない山条さんって強いなとは思った。

七不思議はやらなくてもよさそうだ。

学校案内は普通にした

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