第41話 <学園祭があるよ!>

「何だろう? 私、なにかしちゃったかな?」

「思い当たる節が?」

「ないよ! でも、きっと急なお仕事だと思う」


 ある日、授業を終えてさぁ帰ろうかと準備をしていたら、私とイリヤが生徒会室にお呼び出しされた。

 最近何も問題行動を起こしてなかったはずだから、お説教ではないと信じたい。というか、お説教なら絶対に教官室に呼び出される。

 私もイリヤも生徒会役員だもの。となるとお仕事以外では呼ばれないでしょう。

 と、思っているのだけどイリヤの懐疑的な目線が痛い。心に謎のダメージを受けつつ生徒会室の扉をノックする。


「失礼しまーす」

「あれ? リリとイリヤじゃない」

「セレイナ様まで? 生徒会に入っていたのですか?」

「そう。あのバカ姉に無理やりね」


 セレイナが苦笑いでソファを指さす。と、そこには……


「待って待ってエーちゃん! ほら! 呼んでいた二人も来たことだし、エーちゃんが大好きなリリちゃんだよ! それに、何より私が可哀想!」

「うるさいっ! リリからプレゼントしてもらった容器にあんな落書き……許しませんから!」

「まさかリリちゃんからのプレゼントとは思わなかったんだよー! あ、た、助けて~!」


 般若のような形相でイレーネ様を追い詰めるお姉様と、必死に助けを求めてくるイレーネ様。

 話を断片的に聞くと、どうやらイレーネ様がお姉様に何かしたんだろうね。


「助けた方がいいのでしょうか?」

「ほっといていいよ。終わるまで外にいよう」


 そんな無慈悲なセレイナの一言により、私たちは部屋の外に出て扉を閉めちゃう。

 直後、部屋からは魔法の炸裂音が響いてきたんだけど……大丈夫かな?


◆◆◆◆◆


 騒動が一段落し、髪の毛がボッサボサになっているイレーネ様。それと、落ち着いた様子で紅茶を飲んでいるお姉様の二人を前に、私たちはソファに座っている。

 けほんっ、と咳払いをして黒煙を吐いたイレーネ様がとある紙を差し出してきた。


「これは?」

「うん。今年の学園祭で我らが生徒会提供の劇についてだよ! 題目はズバリ、『無能で見下されている私ですが、お姫様に惚れられたことで人生大逆転します!』でいくよ! 時代は女の子同士の恋愛物語じゃあぁぁぁぁぁ!!」


 いつになくテンションが高いイレーネ様。すっごく意気込んでいることだけは伝わってくるわ。

 というか、これまた某小説投稿サイトによくあるような題目を選んだわね。異世界でもこういうのが流行っているの? 今までそんな話聞いたことがないから驚きなんですけど~。


「なんか、名前長くありませんか?」

「それ、お城の書物殿から引っ張り出してきた原本をイレーネが細部を書き換えたものだそうですよ。なんでも何世代か前の勇者様が、別の世界の物語を書き記したものだとか」


 いやそれ思いっきり創作物やないかーい! 小説投稿サイトに投稿してた作品でしょ!

 ああいう作品は私もよく読んでいたけど、まさか劇にして人様に見せる日が来るとは思わなかったよ……。

 っと。そういえば気になっていたことを聞くのを忘れていた。


「お姉様。学園祭って?」

「あ、そうだったわね。お父様が来た時リリはお留守番してたから知らないのよね」

「……お父さん来てたの?」

「え? 知らなかったの?」


 思い当たる節がある。

 私がイリヤを連れ出して冒険者の仕事で外泊を伴うペルスティア領の端まで行ったことがあるんだけど、その時だな。思い返せば去年のこの時期だったかも。


「お父さん許すまじ……」

「リリ。顔が怖いですよ」

「あはは……とにかくね。学園祭ってのは、七日間にわたって行われる一大イベントなの。最初の四日は、生徒たちで店を出したりパフォーマンスを披露したり。で、後の三日は魔法や剣術の腕を競い合う競技祭になってるの」


 つまり、文化祭と体育祭のようなものと。

 それってすっごい面白そう! やるからには全力でやってやります!


「おっ、リリちゃんがすっごいやる気に満ちている! ……気がする」

「やりますよ! 成功させましょう!」

「いいねぇ! そんなリリちゃんには最高の役を回すよ!」


 最高の役? それはつまり、主人公かお姫様ってことかな!?


「リリちゃんは……主人公! のお姉さん役をお願いするね」

「「はぁぁぁぁぁ!?」」


 私とお姉様が同時に変な声を出しちゃった。


「まさかのそっち!?」

「イレーネ? リリのどこが性悪なの?」

「エーちゃん怖い! 魔法陣組もうとするのやめてよ! 主人公のお姉さんは高い演技力が必要だからリリちゃんにしか頼めないだけなの! 高く評価してるの!」


 今度ばかりは本気っぽく力説するイレーネ様に、お姉様も理解したのだろう。すぐに座って軽く謝っていた。


「ふぅ。あ、私は監督兼主人公の母親役。で、エーちゃんが物語に登場する魔女の役で、セレイナはお姫様役ね。肝心の主人公はイリヤちゃんに任せるよ」


 ……は?

 まだ内容は分からないから正しくないかもだけど、ほとんどの場合このパターンって私がイリヤを虐めて、イリヤが私に復讐してお姫様……つまりセレイナと結ばれる私にとっては百合NTR物語……。

 意識飛びそう。


「さぁさぁ忙しくなるよ! 私は台本を書き上げるから、皆は他にも協力してくれそうな人に声を掛けて! 人手はまだまだ必要だからね! 今年も生徒会が最優秀演劇賞を獲るぞー!」


 い、いいもん。これは物語の中だけだからね。

 ……だよね? やりすぎな台本で本当に嫌われたりしないよね?

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