第28話 <お誘いを受けました!>

 午後の筆記試験は、特に問題なく終えることができた。

 事前にイリヤと復習したことが大きかったのかもね。内容もセレイナが出やすいって教えてくれたものが大半を占めていたし。

 回答時間をいっぱいに使うことなくすべての問題を解き終えた。自分でも結構いい点数を取れているとは思うな。

 後半はただペンを弄ぶ時間が過ぎ、時間になったから用紙を提出して退室する。

 ただ、ユウゴとは変わらず微妙な雰囲気というかギスギスしていた。できるならこいつと一緒のクラスにはなりたくないけど……そうはいかないんでしょうね……。

 部屋を出て、受付があった場所まで来て解散。

 ケインたちは家の用事があるからと別れ、セレイナは皇妃様の命令で来ていた騎士団の人たちに連れて行かれる。ユウゴはいつの間にかいなくなっていた。

 さて、私たちはどうしましょうかね。


「ねぇリリさん。イリヤさん。よければ少し付き合ってもらえません?」


 どうしようか考えていたらエルサからお誘いを受けた。

 まぁ、特に予定もなかったしいいかな。ご一緒させてもらおう。

 エルサに続いて試験場に移動する。実技試験は見学が可能なんだって。

 ちょうど武器の試験が終わった頃で、次は格闘術の試験らしい。

 試験会場では多くの人がゴーレム相手に戦っている。その大多数は苦戦しているなぁ。あれが普通で、私たちが異常なんだけど。


「あっ、見つけた。あそこを見てリリさん」


 エルサがとある少女を指さした。

 その子はゴーレム相手に自分から攻め込んでいる。エルサと同じように懐に潜り込んでパンチしようとしているみたいだ。


「あの子、すごいね」

「でしょ? 私の家で働いてくれている庭師の娘さんなの。あの子と仲が良くて小さい頃から一緒だったのよ。それで、お父様に頼んであの子の在学資金を一部出してもらえることになったの」

「そうなんだ! 私とイリヤみたいな関係なんだね」

「そう! もしよかったら、あの子も私たちと同じグループに入れてもらえません?」

「もちろん! 歓迎するよ!」

「私もです。こちらからお願いしたいですね」

「ありがとうね」


 新しいお友だちが増えるみたい。早速学校生活が楽しみになるね!

 なーんて話をしていたら、鈍い音が聞こえた。

 まさかと思って見てみると、あの子がゴーレムにヒビを入れている。セレイナみたいに砕いてはないけど、どゆこと?


「あっ、そういえば秘密を教える約束でしたね」

「あー、そうだったね」

「強化魔法は、つまるところ魔力を練り上げて体に膜を張るように展開することで疑似筋肉のようなものを作る魔法なの。なら、筋肉に直接魔力を通せば内側から強くなるのよ」

「な、なにそれ……」

「ギャスティック領の秘伝よ。農民の方々や職人の方々も魔力を少しでも扱える方は同じ技術を教えているの」

「どうりでギャスティック領の品は安くて高品質のものが多いと思った」

「魔法はリリさんだけの専売特許じゃないのよ? 私たちも中々やるでしょ?」


 恐るべし大公家の力。

 他にも何人かがゴーレムに自分から攻め込んでいた。あのうちの何人か……というより半分以上がギャスティック領の人なんでしょうね。

 制限時間が来て次の試験に移行する。次は魔法の試験だね。

 でも、さっきはすごかったな。あの子に興味が湧いた。

 魔法の試験で大半の人が使うのは初級の魔法だ。貴族が少し上の魔法を使うくらい?

 うーん……やっぱり私たちが異常なのね。なんと平和な試験なんだろう。

 だって丸太が蒸発することも地面が融解することも、上位魔法が撃たれることもないんだから。これは反省案件?

 と、あの子の番だ!


「キルアはかなり強いわよ。恐らく、この中では一二を争うくらいには」

「そうなんだ」


 果たしてどれだけの力を秘めているのか。

 私たちが見てる前で詠唱が始まった。さてさて、何を?


「紅蓮を響かせ・炎の猛虎よ! “アークブレイズ”!」


 貴族の子どもたちよりも強い中位の魔法。

 荒れ狂い、うねる炎の波が丸太をかっさらって消し炭にしてしまった。

 他の受験生たちが唖然としていた。気持ちは分かるよ。

 あの子……キルアちゃんだったかな? あの子は間違いなく私たちと同類だ。いろいろ魔法を教えてあげると面白いことになりそうだね。

 その後、しばらく試験を眺めていたけどキルアちゃんを上回るような力を持っている人は見なかった。

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