第1話 <新生活始まります!>

 次に目が覚めると、どこか薄暗い部屋だった。木目のある天井だけが見えている。


「шмуфттф」


 何語かな? さっぱり分からない声が聞こえ、私の体が持ち上げられる。床が見えて、見覚えのある毛色をした猫が目にはいった。さては、助けた猫ちゃんだな。転生しても一緒とは、なかなか感慨深いですなぁ。出会いはトラックに轢かれる三秒前だったけど。

 んで、ここどこよ? 見渡そうにも、思うように首が動かない。


「ΩΩξξθιξηβγγκθ」


 また言葉が聞こえ、体が動く。正面に見えたのはすごいイケメンの男性とめっちゃ美人の女性。あと、大きな目がクリクリしてて可愛らしい女の子。あぁ、眼福や~。

 赤ちゃんとして転生しただろうから、思うにお父さんとお母さん、それからお姉様ってところかな? これは将来、顔には困らなさそうだぜぃ。

 とにかく、眠い。赤ちゃんは寝ることが仕事だっていうし、うん。おやすみなさ~い。


◆◆◆◆◆


 転生から四年が経ちました。正確には、明日で四歳のお誕生日だけど。あれから、この世界のこととか私のこととかいろいろ分かったよ。

 まず、私の名前はリリ=ペルスティア。アドミオン帝国西端に広大な領土を持つ、ペルスティア辺境伯家の次女です。

 アドミオン帝国は、リリカリア大陸というこの大陸で最も大きな国家です。大陸の半分以上を支配し、北に多数の国々、南で魔王の国と領土を接する帝国。東に神聖王国、私がいる西は海と面してる。

 このアドミオン帝国にも貴族制はあるらしい。ただ、地球のそれとはかなり違ってた。

 国のトップである皇族、次に大公家があり、その下に公爵家がある。ここまでは同じだけど、その下に位置するのが違うんだよな~。

 地球であれば、その下に侯爵、辺境伯、伯爵……と、続いていくものだけど、この世界では侯爵と辺境伯の家柄が逆転しているの。なんでも、辺境伯家は隣国と万が一戦争状態に突入した際、真っ先に戦う義務があるから優遇されてるんだって。今は魔王がいるから戦争なんて起きないだろうけど。南を治め、魔王軍と戦ってる公爵家の方に感謝しなくては。

 あっ、何が言いたいか分かりづらいね、ごめんなさい。まあ、私が言いたいのはこれだけ。すごく大事なことだから。

 つまり! 我が家はお金持ちで家柄もよく、すっごい美人のメイドさんたちがたくさんいるの! しかも、お嬢様だからすごい甘やかしてくれるし、おんぶに抱っこを今でもしてくれる勝ち組コースに早くも乗りかけているのだ!

 ……今、どうでもいいとか思った者は正直に名乗り出なさい。一回しばくだけで許してあげるから。

 こほん。まあ、とにかく第二の人生を楽しく生きてます。まあ、嬉しいけど困ったこともあって……、


「リリちゃーん!」

「リリちゅわーん! ご飯ですよー!」

「リリー! はやくー! あたしが食べさせてあげるからー!」


 そう。両親とお姉様が私を愛しすぎているのだ。とても嬉しいけど、どこかむずかゆい。

 ご飯に呼ばれたので、一応鏡の前で姿を確認する。今まで窓全開で黄昏れてたから、髪とか乱れてるかもだし。乱れてたら、お姉様に一時間近く拘束されるから気をつけないと。

 鏡に映る私の姿を、改めて見ていく。

 お母さん譲りの美しい繊細な白銀の髪。お父さん譲りの深紅に燃える紅蓮の瞳。多分お母さんに似たんだろうけど、お姉様同様、大きな目がクリクリしてとても愛らしいとメイドさんたちに人気だ。

 身だしなみを整えたらいよいよ食堂へ。あまり待たせると後が怖い。

 すでに席についている三人の人物。説明不要の両親とお姉様。

 白銀の髪を背中まで伸ばす美人さんがお母さんで、名前をティナ=ペルスティア。紅い双眸が力強い男性がお父さんで、名前をアルフレッド=ペルスティア。お父さんに似た金の髪を持ち、お母さん譲りの翠の瞳が愛くるしい人がお姉様で、名前をエスナ=ペルスティア。お姉様と私は、いろいろと対照的なのよね。

 さて、そろそろ始まる気がする……。なにがって? 私の取り合い。

 空いている席に座ろうとすると、途端に三人が横を取り合う。


「リリの隣はあたし! リリだってきっとそれがいいと思うよ!」

「あらあら。リリちゃんは私が世話するわよ?」

「む、たまには僕とも……」


 ほーら始まった。毎日毎日飽きずにこのやりとりが繰り返されちゃってまぁ。

 こう、ずーっと続くと、私も慣れた。そして、当然のように避難先も用意している。

 大人のメイドさんたちに交じり、力んだように立っている女の子。年も私とあまり変わらないというのだから、驚きなんてレベルを遥かに超えている。

 だって、四歳だよ!? 私は前世も含めると二十歳超えてるけど、普通四歳の女の子をメイドにしちゃう!?

 この子はイリヤ=コレット。ペルスティア家に仕えてくれている、騎士の名家コレット家の女の子。私やお母さんにも劣らない美しい銀色の髪と紫紺の瞳がとてもきれいで、はい。正直に言って一目惚れでした。

 コレット家当主のグラハムさんがよくうちに連れてきていて、私ともすぐに仲良くなった。お父さんたちも、イリヤちゃんを家族のように想っている。

 本人たっての希望でメイドさんになったらしいけど、私としては少し寂しい。友人という対等な立場から、主従関係になってしまった気がして。

 でも、私は遠慮しない。メイドさんなら、ご主人様の命令は絶対なのです。

 喧嘩する三人を横目に、私はイリヤの腕に抱きつく。


「イリヤとたべる」

「「「…………」」」


 こうなった私は止められない。そのことを理解しているから、お父さんたちはちょっと悲しそうに引き下がる。今晩、同じベッドで寝るから許して?

 さて、お父さんたちは説得できた。あとは、もう一人。


「あの、リリ様。イリヤに声を掛けてくださるのはありがたいのですが……」


 そう。グラハムさんがいつも渋る。騎士の鑑みたいな人だから、主従関係に厳しいのだろう。が、私はついに必殺技を編み出した!

 くらえ! 前世でもたまに家で使ってた奥義! 父親程度ならイチコロの上目遣い! 少量の涙を添えるのがコツね。


「だめ?」


 ふっふっふ、グラハムさんが困っている。そしてこの後、お父さんが説得してグラハムさんが折れるまでがいつものやりとりだ。

 これが、私の第二の人生の日常。あの女性――多分神様かな? あの人には感謝だね!

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