大人

HHH

大人

昔から互いに親密にしてた家族の父が亡くなった。新年そうそう心筋梗塞で倒れ一度は意識を戻したものの容態が急変したらしい。

親密といってもそんな言葉で収めて良いものか分からないくらい親密だった。そこには私の父。家族との歴史がある。



私の父は私が中学二年の時に亡くなった。喘息の発作が悪化し呼吸が出来なくなり死んだ。今でもあの時のことは鮮明に覚えている。病院につき最初に行ったのは遺体との面談だ。薬品が染み付いたような匂いがどろどろとする病院特有の廊下をぬけ霊安室へと向かう。部屋に辿り着くと冷凍庫の中から父の遺体が出てきた。それはとても死んでるとは思えなく今にも動き出しそうだった。目蓋を触り捲った時「ああこれは遺体か」と感じた。また、海外で服も着たままだったのが更に生きている様な奇妙な感覚を際立てていた。その父からすれば父さんに当たるおじさんはひたすらもう動くことの無い息子の名前を呼びながらひたすら泣いていた。このおじさんは普段絶対に涙を出さない人で頑固親父の典型だった。そのおじさんが泣いてるのを見て自分が置かれている現状をふわふわと実感したのである。ともかくそんな歴史があるのだ。私の父の話はまだ長くなるので割愛させてもらう。また話す機会はあるかもしれない。その時はまた付き合って欲しい。




色々あり帰国した私たちに最初に声をかけてくれたのは例の家族たちだった。その家族の父(以降はAとよぶ)は私の父ととても仲良く日本に帰ってきては飲みまくったり遊んだりするほどだった。当時どんな会話があったのかは今となっては分からないが恐らくお互いにもし自分が亡くなった時の話をしていたのであろう。私たち家族が腐らないように積極的に絡んでくれたのだ。食べに行ったり遊びに行ったり。子供心ながらとても有難かったのを覚えている。なんせ家の中が暗かったからだ。Aは酔っ払った時「俺を父さんのように思って相談してくれよ」と言っていたので本人も意識していたのであろう。

Aには二人の娘がいた。性格には覚えてはいないが今は高校生と小学4年生だ。この二人は本当に赤ちゃんの頃から見ているのでイメージはいつでも「幼い」だ。そんな二人に父の死が訪れた。自分も経験者なのだがそれを置いといて最初に思い浮かんだのは「不憫」だ。

まだ小さい子供たちが親を亡くす。これがどれほど悲しいことなのか。小学生などまだ「死」すらよく分からないだろうに。そう思った。そこで自分たちに何が出来るのかそう考えた時私は自分が父親になったような気でいることに驚いた。なるほど。Aもこんな気持ちだったのかもしれないと。



程なくてして話す時間が出来た。長女の方だ。私はまだ小さい子にしか見えない。



「今回大変だったね。」



「......」



そうに決まっている。もしかしたらちょっと上からな目線で話したことに腹を立ててるかもしれない。何を話すべきなのか分からなくなった。私はこんな男だ。この娘より長く生きているのに助言も何も出来ない。

重く暗い空気が流れる。時間が凝り固まったように中々動かない。ただ相手が喋るのを待つだけの情けない男だ。



「......」



するとふとふいに娘が口を開いた



「大丈夫です。私は父さんの娘なんで」



驚いた。ここまで大きくなっていたとは。

私なんかが助言しなくても大丈夫。もうこの人はしっかりと前を向いている。。



「....」



恥ずかしいことに上手く言い返せなかった。でもそれはそれで良かったのではないかと今は思う。何も出来ないし何もしなくて良い。ミスタードーナツでも買ってあげよう。それくらいで良いのだ

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