カメムシ

@takkunchan

カメムシ

カーテンのたわみとたわみの間にカメムシがいた。一匹である。

 どうしようかとしばらく考えを巡らせた。これがクモの類であれば、気づかないふりをしていただろう。もしくは、ハエの類であれば、すかさずティッシュ箱を持ってきて、窓ごとハエを打ちつけるだろう。

 問題は、ここにいる虫が、カメムシであるということだ。カメムシは羽根のある昆虫であり、ティッシュで包み窓から逃がそうとすれば、こちらの方に飛んでくるかもしれない。それは絶対に嫌だった。

 ましてや、ハエのように叩きつけることもできない。部屋中に異臭を漂わせることになってしまうからだ。深夜の2時に、窓ごとカーテンを叩くという行為も、さすがに躊躇われるので、この方法は無しだ。

 考えたあげく、インターネットの力に頼ることにした。

 検索窓に「カメムシ 撃退」と打ち込み、一番上に表示されたタイトルを確認し、飲みかけの水が入ったペットボトルを持ってくる。

 ペットボトルの蓋を外す。

 カーテンの生地にペットボトルの口を沿わせ、カメムシに近づけ、ペットボトルの中に落とそうという算段だ。

そんなにうまくいくのか? という疑念が頭をよぎる。そんな都合よく落ちてくれるのだろうか? ペットボトルが当たった刺激で、カメムシを興奮させやしないだろうか?

うまくいかない理由を探せばきりがなく、かといって他に有益な解決方法も無かったので、ペットボトルでの捕獲を断行することにした。

インターネットの記事の指示に従い、2割ほどの水が入ったペットボトルの口をカメムシに近づけたら、意外にすんなり落ちてくれた。すかさずキャップを締める。捕獲は完了した。

カメムシは水の上にそのまま落下した。急激な環境の変化に動じながらも、その状況を柔軟に受け止めているようだった。

カメムシは器用に手足を動かし、泳いでいる。刹那、ちょっとした罪悪感を覚えたが、すぐにどうでもよくなった。日常生活上、経験することのない臭いを嗅ぐことの方が、はるかに耐えがたい。

それから単純に、まじまじと、カメムシを見つめている行為そのものに気持ち悪さを感じてきた。

そのままペットボトルごとゴミ箱に捨てればいいものを、なぜか捨てられず、いったん台所に置くことにした。

カメムシは、そのか細い手足で、つるりとしたプラスチックの壁をよじ登っていた。


2日目

夕食を済ませ、何食分かの皿をまとめて洗う。スポンジに手を伸ばそうとしたとき、ペットボトルの存在に気づいた。

その中には気持ち悪いカメムシがいた。

いつも通りに皿を洗った。


5日目

スーパーで買ってきたジャガイモの汚れを落とそうと、蛇口のレバーを押す。ペットボトルが目に入った。カメムシはまだ生きていた。動いている様子はなかったが、しきりに触覚を動かしている。


9日目

お湯を沸かそうと、電気ケトルを台所まで持っていく。ケトルに半分くらいの水を入れ、冷蔵庫の上に戻した。


1?日目

喉が渇いて、たまたま台所にあったペットボトルの存在に気づき、飲もうとしてびっくりした。

まだ蓋も開けてないし、ペットボトルに触れてすらいない。


1?日目

一通り皿洗いを終えた後、カメムシは、ペットボトルのかなり上の方にいた。片手でゆっくりとペットボトルを持ち、もう片方の手で慎重にキャップを緩める。

すると、カメムシが速度を上げて口の方まで登ってきた。水が傾くのも気にせず、キャップを思い切り締め、上下左右に激しく振った。


2?日目?

暑かったので台所の小窓を開けた。水面の近くには、カメムシがいた。


3?日目?

皿洗いをする前に、水面で仰向けになっているカメムシを見つけた。

とりあえず、スポンジに洗剤を付けた。


??日目?

ペットボトルはまだ、台所にある。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カメムシ @takkunchan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ