第60話 そして一歩進んだ日常を(エピローグ後)



 カシャっと音がして、敦盛のベッドがカーテンで隔離される。

 瑠璃姫は再び椅子に座ったが、話が始まるでもなくお互いに無言。

 ただ静かに、瞳を見つめ合って。


(相変わらず、黙ってればマジで美少女なんだがなぁ……)


 何ともなしに、左手を延ばす。

 彼女は何も言わず、己の右手の指を絡め。

 ――彼女の、敦盛より少し低い体温。


(キスしたいって、今までなら思ったんだが。まったくそういう気になれんぞ)


 でも、それを心地よく感じる自分も居て。

 彼は口元を緩めた、何も畏まって話す必要など無い。

 確かに重要な事だが、ぶつかり合う為に話すのでは無く。

 ただ、歩み寄る為に。


「俺はさ、この先もお前と一緒に居たいんだ」


「うん、アタシも。どんな関係であれあっくんと一緒に居たい」


「だがな、もう二度とあんな事はごめんだ」


「アンタを騙してアタシとセックスさせたコト? それとも監禁?」


「両方だ、今回は丸く収まったが。……次は無い」


「でしょうね、でも安心しなさいあっくん。もし次があるなら――それはアタシが壊れた時か、アンタが他の女に心を奪われた時よ」


「ふぅん、それならしゃーねぇか」


「あら、案外素直に受け入れるのね」


「俺達は普通に見えて、普通の関係じゃなかった。――それでもテメェが好きなんだから、受け入れるしかねぇだろ」


「じゃあ、アンタの女性不信が終わったら。アタシをカノジョにしてくれるの? それともペットとして飼ってくれる?」


「俺としては、普通に好きになって愛してくれて。それで恋人になって欲しいんだが?」


「普通じゃないって言ったのあっくんでしょ、そもそも本気で言ってる? 最初から普通の関係じゃなかったじゃない」


「そうじゃねぇよ、――お互いに譲り合わないかって」


「へぇ、成程……ペットとご主人様や、勝者と敗者みたいな高低差がある関係じゃなくて、対等にってコト?」


 話が見えてきた、と楽しそうな顔をする瑠璃姫。

 敦盛もまた、少しワクワクしながら提案する。


「こっちの提案は二つ」


「聞いてあげる、一つ目は」


「――――普通の高校生の恋人みたいにイチャイチャするッ!」


「……はい?」


 思わず瑠璃姫は首を傾げた、なんというかもっと厳しいものを予想していた。

 少しの期間、距離を取ろう、とか。

 許可を出すまで話しかけるな、とか

 心の整理が付くまで、女性不信が治るまで接触を絶つのかと。

 だが彼は、さも当然だと言わんばかりに。


「はい? じゃねーよ、テメェ俺の趣味知ってんだろッ、お互いに弁当作りあってみたりさァ、放課後はデートしてだな」


「そして路地裏にアタシを連れ込んで、獣欲の赴くままに犯すのねっ!」


「するかバカッ、ピュアピュアなおデートだよッ! セックスなんてしーまーせーんー。おでこにチューまでだッ!!」


「あっくんが壊れたっ!? っていうか最悪、縁切りまで覚悟してどう心中するか考えようとしてたわよアタシっ!?」


「いや今更それはねぇべ、俺もお前もお互いにもう離れられねぇだろ。なら今の関係を楽しむしかなくね?」


「…………アンタ図太いわ、アタシが思うより百倍図太いって」


「女性不信っつーても、ちょっとセックスしたくないだけだし? なら、高校生らしい青春したいじゃん?」


 むふふと鼻息荒くする敦盛、瑠璃姫は頭痛を堪える様に頭を押さえ。


(ふはははははッ、テメーの思い通りにしてやるもんかッ!! 散々好き勝手してくれたんだ、もう遠慮はしねーぞ、俺の趣味にも付き合って貰うからなッ!!)


 そして彼女は気づく、先程この幼馴染みは何と言ったか。


「…………アンタ、譲りあうとか言ってたわよね」


「そうだな」


「つまり、そのピュアピュアとかいうこっぱずかしい恋人プレイを受け入れれば。アタシの望みも聞いてくれると?」


「プレイ言うな、まぁその通りだが。あと一応言っておくけどな、俺ら恋人じゃねぇからな? あん時の告白はノーカンだからな?」


「ピュアピュア青春デートするのに?」


「ピュアピュア青春デートするのに、だ」


 そこがラインか、と瑠璃姫の瞳はギラッと輝き始める。

 恋人ではないが、恋人同然の繋がりは維持したい。

 それはつまり、恋人どころか妻の座が内定したのも同じで。


(ふぅ~~ん、へぇ~~、そう、そうなのあっくん……。くふふ、やっぱりあっくんもアタシを求めてくれてるんだっ!!)


 ならば、ここは攻める時。

 拒絶されないギリギリの線を見極めて。


「じゃあ退院したら、一緒に寝てくれる? 勿論アタシからセックスは求めないわ」


「ほう?」


「ここはアンタの趣味を尊重して、風呂上がりに髪を乾かすのも任せて良いわ!」


「いやそれ、前もしてなかったか?」


「じゃあ、トイレの後に股間を拭いてくれる?」


「はいアウト、あと二回な」


「朝、アンタの息子を「レッドカードで退場」…………ほっぺにキスして起こす。ぐぬぬぬぬぬっ」


「いや悔しがるなよ、そんなポイントでッ!?」


「ぶっちゃけ、アタシとしてはぴゅあぴゅあより。エロ漫画みたいなドロドロの精液だらけの性春したいんだけど?」


「お前も精神科で見て貰うか? つーか、言ってる事が前の俺と同じなんだが?」


「あっくんがアタシを壊して染め上げたのよ?」


「それを言うなら、テメーが俺を変えたんだが?」


「……」


「……」


 にらみ合う二人、けれど指は仲良く絡め合ったままで。


「――――俺は普通の恋人みたいなプレイがしたいッ!!」


「――――アタシは力付くで支配される屈辱的なプレイがしたいっ!!」


「は? やんのかテメェ」


「そっちこそ、その体で挑もうっての?」


「もうボケたか瑠璃姫、俺が何回お前に勝ってると思ってるんだ」


「アンタこそ忘れたの? アタシは負けるほど欲情するわよ?」


「ああん? そんなもん、俺が勝ったら膝枕で優しく子守歌を歌わせるに決まってるだろうがよ!」


「何その羞恥プレイっ!? しかもセックス無いのっ!?」


「当たり前よバカ野郎! セックス目的で召喚されたのに健全デートするだけだったサキュバスみたいな反応してんじゃねぇよ!!」


「なんでそんなに具体的なの? やっぱ頭に精子が詰まってるんじゃない?」


「マジでやるか顔と乳と腰とケツと太股と金と脳味噌しか取り柄のない女めッ!!」


「それ誉めてるの貶してるの?」


「………………俺にも分からなくなってきた」


 うんうん悩み始めた敦盛の頬に、瑠璃姫はそっと口づけをして。


「ま、ゆっくりやって行きましょ。アタシ達らしくね」


「…………まぁそうだなァ」


「だから覚悟しておきなさいっ、今度は本当にアンタが夢中になるようなカワイイ女の子になって。それこそお給料三ヶ月分のプレゼントを躊躇いなく貢がせてみせるから!」


「はいはい、期待しないで待ってるよ」


 瑠璃姫の屈託のない笑みに、敦盛は苦笑しながら頷く。


(今のままでも十分カワイイって思うあたり、やっぱ手遅れなんだろうな俺…………)


 将来、どんな関係になるか分からないが。

 この調子なら、そんなに悪いことにはならないだろう。


「なぁ、瑠璃姫」


「なによ、あっくん」


「好きだ」


「あら奇遇ね、アタシも好きよ」


 二人は指を絡め合ったまま、幸せそうに笑い合ったのであった。






 ――――――完。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋愛禁止ペットとして飼われる事になったけど、それは俺と恋人になる為の罠だった 和鳳ハジメ @wappo-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ