私の美しい人

ナリミ トウタ

私の美しい人

うつつ照子

長い黒髪が美しい小柄な女性が大きな胸を強調したパッケージ写真が目に入る。


再生ボタンを押した。

ただ眺めた。

中盤になり女が惜しげもなく裸体を晒し、媚びるような声を男に投げ掛ける。男はそれに応え媚びるような声が違う声色に変わる。

ブチッ


動画を消した。世の中のほぼ男性、たまに女性がお世話になるR18指定の生身の男女が情を交わす動画。その動画に対して私は何も興奮も女が男の手によってよがる姿に優越感もない。


そもそも、そういう欲求がもとより薄いのだろう。それに内容が元より得意ではなかった。嫌嫌と言っていた女が男に堕ちるそんな流れが都合が良すぎて、あまりに男性優位過ぎて嫌だった。互いの感情はなく、ただの暴力にしか見えなかった。蹂躙されるのが男でも私は同じ感情を抱いた。何が嫌なのかは明白だった。片方の思いだけで同意もなく相手の気持ちを踏みにじり、身体だけを繋げる人間が私には愚かしく写ったのだ。そこに男女の差はない。


それなのに何故観ていたか。

理由はたった一つ。組敷かれていた女は私がこの世で一番大切にしたい愛している女性だからである。





「ただいまー!」


「おかえり」


「ねーねー!陽子聞いてよ~」


今日も背中にあたたかい体温を感じた。あの白くて美しい手が私のお腹を定位置に収まる。


「聞くから料理しているときは後ろから抱きつかないで。危ないでしょう?傷が付いたらどうするの?」


「ちゃんと気を付けてるから大丈夫だよ。それに陽子って抱き心地がよくてやめられないんだもん」


お腹を回す腕に少し力を入れられた。本当に嫌でも意識する。


「それって太ってるって言いたいの?」


「違う違う。何だかね、陽子に抱きつくと凄く安心するの。一日の疲れが吹っ飛んじゃうというか……出来ればずっと抱きついていたいような気持ちになるの」


「そう……」


「もードライなんだから。そういうところも好き」


やめてと言ったのに照美は料理している間、私に抱きついたままだった。照美にとってはただの友人同士のスキンシップでしかない。

ルームシェアして関係が変わるのが怖くて、終わりが来ないようにするために思いを伝えることも殺すこともできず、こんな叶いもしない思いを抱き続ける私が一番愚かなのだろう。


AV女優うつつ照子。23歳。本名、坂口照美。それが私に引っ付き続ける女の子の本当の名前。彼女は週間ランキングには必ず上位にいる人気AV女優。

美しい癖のない長い黒髪、可愛い系の顔立ちに小柄な身体、豊かな胸を持ついかにも男が好きそうな守ってあげたい系の可愛い女の子。女である私も彼女を可愛いと思うのだから男からしたら、もうたまらないというやつなのだろう。

そんな欲望に塗れても表立って照美を好きと言える男たちを私は羨ましくて妬ましくて仕方がない。



そんな彼女とルームシェアをすることになったのは半年前の話だ。


「今日も上手くいかない…」



当時の私は駆け出しのイラストレーターで知り合いに仕事を回してもらったり、融通のきく理解あるバイト先に恵まれたりなど、なんとか暮らせる程には稼いでいた。


しかし致命的な大きな失敗ではなくともなかなか発注したイラストが通らなかったり、お客さんから心ない言葉を掛けられたり等々、気持ちを切り替えになかなか難を示していた。


そのためアパートのベランダで弱音を吐き嘆くことか習慣になってしまった。


「癒しが……癒しがほしいよ……」


簡単に言えばめちゃくちゃ疲れていた。


「何、辛気臭い声を朝から出して」


「佐波さん、おはようございます」


隣の部屋に住む佐波 玲さん。見た目の良さから惹き付けられる女は数知れず。絶えず女を取っ替え引っ替え。来るものは拒まず、去るものは追わずを提言したような人間。見た目は最高ランク、でも家事などは全くできない。そこが世の一部の女性には母性を擽られるようだ。しかし定職にはついていないため女たちから貢がれて生活している世の男性を完全に敵に回している男性。簡単に言うと職業ヒモである。


大学生になるに伴って実家から飛び出し、アパートに越してからのお付き合いで、よく相談に乗ってもらっている。



「おはよう。朝だけは元気なあなたが朝の挨拶もなよなよしているなんてだいぶ重症ね」


「重症ですよ……でも何ですか?その言葉遣い。昨日までそんな丸い口調じゃ無かったじゃないですか……」


「僕はね、生まれ変わることにしたの」


「生まれ変わる……?何言っているんですか?」

「ま、失礼な子ね。でも僕と陽子ちゃんの仲だから許してあげる」


「そんな気持ち悪い言い方しないでください……」


「まあ、聞いてちょうだいよ」


「どうぞ」


「僕ね、昨日、本命の人に実はゲイって告白して、受け入れてもらったの」


「は……?」


「だから、受け入れてもらったの」


「誰に……?」


「本命の人」


「松風さんに……?」


「そうよ」


しれっと隣人は恋をする乙女のごとく私に昨日の嬉しかったことを報告書してきた。


「ええー!!!良かったじゃないですか!!おめでとうございます!!!」


「ちょっとあんた、声が大きい!近所迷惑でしょう!」


「あ、すみません……つい、」


「いいわよ。そんなに自分のことのように喜んでくれるのは陽子ちゃんだげだもの。それにご近所さんにはいい目覚ましだわ」


「それは嫌だな」


「何でよ」



私たちは顔を見合わせて笑った。ご近所さんには朝から騒がしくさせて申し訳ないとは思ったけど本当に嬉しい出来事だった。


佐波さんはヒモだけど、私には兄のような姉のような人だった。

ゲイであることを家族に受け入れてもらえず、周りの環境に恵まれないせいもあって愛情が不足して、失われていた愛情を補うように、ゲイであることを拒絶するように女たちと毎日遊び歩いた。そんな人だった。




佐波さんにはずっと好きな男性がいた。


その人の名は松風 爽太さん。佐波さんの高校からの同級生だった。切れ長の涼しげな目を持つ、いかにも仕事が出来ますという感じの普段は少し怖そうで、でも笑うと少し可愛い人だ。仕事だけじゃなく家事やら何やら専門知識の分野まで何のそのな何でも出来る超人だった。佐波さんに少し分けてあげてほしい…。そんな見た目にハイスペックが服を着ているような男性を周りの女性は放ってはいない。あんないい男以上の人間がこの世にいるわけがない。以上が佐波さん情報だ。



彼に言い寄る女性も数知れず、しかし、松風さんは一人一人と向き合いながらも全て丁重に交際を断っていた。佐波さんと違い浮いた話はなく、ずっと一人でいる人だった。たまに佐波さんの様子を見に来る菩薩のような人間でもあったため、佐波さんの世話を焼いた時にたまたま私は顔を合わせてしまった。そこから佐波さんだけではなく、松風さんとも交流が始まった。




「島村さん、玲と付き合ってて何かと苦労しない?大丈夫?」


「苦労……?は特にありませんし、お互いの愚痴を言い合って騒いでいるだけなので佐波さんの修羅場と鉢合わせたことないので別に……」


「え?」


「?」


「島村さんって玲と付き合ってないの?」


「は?」



初めの頃、松風さんは私たちの関係を完全に勘違いしていたのだった。

とんだ濡れ衣だ……。



「爽太は今日はブラックで良かったよね」



ひょっこっりとキッチンから顔を出して呑気なことを言うこの男。

思わず、この誤解の元である佐波さんを睨んでしまったのは仕方のないことだ。



「何、この空気」



百パー、アンタのせいだよ。


佐波さんは空気を読めるような、読めていないタイミングで現れたが、この後、何とか松風さんの誤解を解くことに成功した。


松風さんが去った後、あの時の佐波さんは酷く落ち込んだ。

さっきから手で顔を覆ってゴロゴロどんぐりのように床を転がりづづけてる。こうなると少し面倒臭い。



「爽太、なんで、どうして……」


「今まで自分が何をしてきたのか胸に手を宛てて考えてみてください」


「陽子ちゃん、厳しい……」


「愛の鞭です。佐波さんが少しは誠実になったら松風さんも少しは見てくれるかもしれないですよ?」


「そうかなあ……」



佐波さんは女を絶えず取っ替え引っ替えするわりには松風さんについては永遠と悩んで苔が生えそうな程に落ち込んだ。


この姿を松風さんに見せてみたらいいのにと少し考えてしまった。


そんな二人の少し面倒くさい、じれったい日々を見てきた私からしたら二人が結ばれたのは奇跡に等しい出来事だったのだ。

取っ替え引っ替えされた女性たちには申し訳ないけど、幸せそうな佐波さんを見て本当に嬉しかったんだ。




「ところで陽子ちゃん、引っ越しの準備は進めてる?」


「引っ越しって何のことです?」


「え、何を言っているの?」


「そちらこそ何を言っているんですか」


「だって、大家さんが亡くなって老朽化もしてきたし財産分与の関係で今月にはアパートを取り壊すって話だったじゃない。だから大変申し訳ないけど別のどこかを借りてきてほしいって大家さんの息子さんから連絡あったでしょう?」


「……?そうでしたっけ……?」


「まさか……面倒くさいからって回覧板見ずに回したわね!」


「回覧板って先々週の?」


「そうよ」




幸せな空気をいっぱい吸って満たされた気分は一転、サアーと血の気が引く音が聞こえた気がした。

というか、そんな大事なことを回覧板で連絡するな。



「はあ。陽子ちゃんって、本当にうっかりさんよね」



うっかりでこの失態を片付けないでほしい。

そんな心が忙しい朝を迎えた日だった。





「あー、どうしよう」



画面をスクロールして物件を探す。

オンライン内見じゃなくて本当は店頭に行って内見の予約をしたいところなんだけど、絵の仕事の方の締め切りが迫っているため今はスマホだけが頼りである。

本当、良い時代に生まれて良かったーーー。

絵を描く合間に探してはいるけれど、なかなかピンとくる物件が見つからない……。

ここのアパートの環境が本当に良すぎるせいもある気がして色々求めすぎているのかな。

妥協してバストイレ別は諦めた方がいいのか……。




ピンポーン



「はーい」



宅急便を頼んだ覚えはないし、クライアントや仲介会社やバイト先の人は家には直接来ないし、佐波さんならベランダから私を呼んでから訪問するはずだし、誰だろ……。



「陽子~~元気?」



ドアを開けた先には美しい黒髪を風に揺らしながら手を振る照美が立っていた。


「え、照美?何で?」


「何でって友達なんだからそんな冷たい言い方寂しい~!私が陽子の家に行くの歓迎してくれないの?」


「だって、照美が家に来てたのは私が卒業する前までだったから驚いて……」


「なーんだ。それだったら許してあげる。お土産に美味しいフィナンシェ買ったから一緒に食べようよ!陽子、創作に夢中になって、ちゃんとご飯食べてなかったりするでしょ?少しは胃に食べ物を入れなきゃ!じゃあ、おじゃましまーす!」


「待って、待って、図星だけど理解が追い付かない!」




照美は可愛い笑顔を浮かべながらも家の中に入っていくのに呆気にとられた。

家主は私だけど、本当に照美の笑顔に弱いことを改めて自覚した。

同い年なのに何であんなに可愛いんだろう……。



「陽子はココアでいいよね~」




今まで教えていないのに何でココアを置いてある場所が分かるの……。





「照美、物凄く申し訳ないけど、話をしている余裕がなくて……」


「何?ココア好きじゃなかったけ?」


「いや、好きだけど……」


「じゃあ、問題ないね」


「問題大有り!……締め切りが近いからその……」


「大丈夫。そのために来たんだから」


「どういうこと?」


「佐波さんから陽子の仕事の進捗が上手くいってないって聞いたから、ご飯を作るために来たの。だから安心して仕事に集中してね」




というか、佐波さんといつ連絡を交換してたんだろ…。

佐波さんから見てそんなに窶れていたのかな……今度聞いてみよう。




「でも、照美仕事があるでしょ……そんな無理はさせられない」




AVを撮るなかで自らの身体を削りながら仕事をしているのだ。

撮影がどんな感じかは知らないけど、身体への負担は大きいはず……そんな疲れ果てた身体に鞭を打つようにしてまで私の面倒を見てもらう必要はない。




「陽子は優しいね」


「そんなわけじゃ……」


「有給をもらったから暫く休みなんだ~働き方改革様々だよ」


「なら、尚更休まないと……」


「うん。でもね、陽子と一緒の方が気分転換になるの。制作の邪魔は絶対にしないから、ここにいさせて?お願い」




照美は私が少し困ったような時に必ず「お願い」と言う。

私が照美のお願いに弱いのを知っているのか、自然とその言葉が出るのかは分からない。

でも、内容はいつも些細なもので、私には何も害がないからつい、お願いを聞いてしまいたくなってしまう。


そんな魔力が照美自身にはあると思う。







ペンを走らせる。


パソコンの画面に表示され、手元では見えないが確実に形成されている。


今回は前回提出したものの手直しなので時間はあまり掛からない……。とは思われるだろが完成の有無はクライアント次第なので、自身ではいいとは思ってもやり直しは必要だ。


悩ましいけど、やりがいはある。




コンコン




「陽子、晩御飯出来たよ。少しは休憩しない?」


「え?もうそんな時間……」



とりあえず、今出来ている絵を保存する。


データが飛んだ時のために今の状態のバックアップも忘れずに……。




「今日は筑前煮を作ったんだよ」


「照美の筑前煮は本当に美味しいから嬉しい」


「そう言ってくれると嬉しいな~。まだ仕事するでしょ?だからいっぱい食べて」


「いっぱいは無理かな」


「え~」


「ふふふ。いただきます」


「どうぞ。めしあがれ」




照美の作る筑前煮は美味しい。


出汁の味が利いていてゴロゴロと大きめに切られた野菜に味がしみ込んで、鶏肉は柔らかくて甘めの味付けが優しくて温かくなる。


可憐な見た目と手入れされているネイルとは違い料理が凄く上手。


それでいて、ただの友人である私にもこんなに世話をやいて献身的だ。


彼女を将来人生のパートナーとして迎えることの出来る伴侶は間違いなく幸せだろう。


にこにこと笑顔を浮かべ、鈴を鳴らすように甘い柔らかい声を出す彼女が愛おしくて、同時に私には手の届かない存在なのだということを思い知らされる日々だった。




「ちりめん山椒も作ってくれたの?」


「そうだよ~前に陽子が京都のお土産でもらったちりめん山椒美味しかったけど遠くて買いに行けないって言ってたでしょ?私も京都までは買いに行けないけど、代わりに作ってみたの。どうかな?」


「美味しいよ。山椒のピリッとした感じやちりめんじゃこの塩加減がちょうど良くて凄く美味しい」



「良かった~!家でいっぱい作って来たから陽子の分、置いていくね」



「ありがとう」





何気ない日常の話題にも関心を向けて、気遣いが出来て、天は二物を与えず、なんてことわざがあるけど、照美には全く当てはまっている気がしない。


神様、少し不公平過ぎではないだろうか。でも悔しいことに美味しくて箸が止まらない。




「ねえ、陽子」


「何?」




あんなにニコニコと声を弾ませながら話していた照美が少し緊張した面持ちで私の名前を呼んだ。


照美にしては珍しくて、こちらも少し緊張してしまう。




「佐波さんに聞いたんだけど、家探しているのって本当?」



身構えていたのに話題に出たのは私が二・三日前に佐波さんから聞いた話題だった。


結婚を前提に付き合っている人がいるから会わせたいとか、そんなことを想像していたから少し拍子抜けだ。



「うん。本当だよ。ここも老朽化して危ないし財産の関係もあるから取り壊そうって話が私が知るよりも前から出ていたけど、確認するのを怠ったせいでギリギリになっちゃって……本当にどうしょうかな~って悩んでいたとこ」



「だったら、暫く私の家に来ない?」


「え?照美の家に?」


「うん。ちょうど使ってない部屋が一つあって、次の家が見つかるまでの間どうかなって思ったの」




なんだか、歯切れが悪くて照美らしくなかった。


でも私は少し浮かれていた。一生伝える気はないとはいえ、世界で一番好きな女の子と一緒に少しの間でも暮らせるのなら、この不幸をチャンスに変えられる気がした。


でも、親切心で提案する照美に対して下心しかない私が浅ましくて少しだけ罪悪感を覚えた。だとしても、私の答えは決まっていた。




「お願いしてもいいかな」



「え?」



「照美が本当に問題ないなら、少しの間、お世話になっていいかな」




声は震えていなかったろうか。


努めて平静に私の下心が照美に気づかれませんようにと思いながら音にした。


答えは決まってはいたけど、やっぱり少し不安はあった。


でも、このチャンスを逃したくはなかった。




「うん……。うん。もちろんだよ!明日から荷造りしないと!あ、でも今日からでも……」




さっきとは打って変わってまた素敵な笑顔だった。


小さい子がおままごとの順番を考えるように百面相する姿がなんだか可愛かった。




「今日の夜には提出する絵が出来るから明日ね」



「大丈夫!私が出来るものからやるから!任せておいて!」


「いや、大丈夫だから……」



「えーーーー」




嵐のような怒涛の流れで隣人の恋が実り、住み慣れたアパートの取り壊し、ルームシェア生活のスタートを切ったのだった。



そして、照美が住むマンションが、ここら辺の誰もが名前を知るタワマンで悲鳴をあげそうになった。





そして照美よりは家にいることの多い私が家事を買って出ることは自然な流れだった。


帰ってきた彼女の帰りを迎え、二人で映画を観たり、ショッピングを楽しんだり、心が満たされた生活を送っていた。


今までのような一人暮らしに戻れる気がしないくらい毎日が楽しかった。


一生照美には恋愛的な意味で好きだと言えないけれど、好きな人の帰りを待ち、たわいもない話をして、笑って、好きなおかずを食べ、眠りに就く生活を手放せる気がしなかった。


いつかは来る終わりがあるのに甘い甘い何かに覆われて、ずっとこのままだったらいいのにと叶わない願いを抱いてしまうくらいには。






でも、人間は手が届かないと分かっていても本当に欲しがりだ。






その日はバイトもなく、依頼された絵を提出して、クライアントからの返事待ちのため時間が余っていたし、天気も良くて気分が乗っていたから掃除をしていた。




「あれ?こんなところに段ボールなんてあったけ?」




レコーダーの後ろに隠れるように置いてあった段ボールはホコリが少しかぶっていて少し表面が凹んでいて使い込まれた雰囲気があった。


私のではないから照美の物だろうけど、触ってはいけないと言われたものではないから掃除をするためにも少しだけ移動させても問題ないだろう。


段ボールは少しだけ開いていた。



「照美に何か言われたら謝れば大丈夫だよね。中身がホコリ被っていたら大変だし、少しだけ……」




本当は照美のものとはいえ、中身を見てはいけないのだろうけど何かと理由を付けて好奇心に負けて開けてしまった。


最初に目に飛び込んできたのは豊満な胸を強調し、笑顔を浮かべる照美だった。




「あ……これって……」




照美が写っているパッケージを恐る恐る手に取ってその下を見ても照美の顔だった。


書かれている名前は照美の芸名である「うつつ照子」。照美が出演しているAVのブルーレイディスクが詰まっている段ボールであったのだ。


照美よ、居候の身で文句を言うのはアレだけど、隠すのならせめて寝室とか、もっと見えない場所に隠してほしい……。


今までこういうことに興味がなかったから照美がどういうものに出ているのか、そもそもAVってどういうものなのか見たことがなかったし、自分にとって大切な女の子が仕事とはいえ、こんなポーズをとっている姿を見てしまったことに罪悪感で死にそうになった。


それと同時に中身がどんなものなのか少し気になった。


所詮は娯楽品。娯楽品というには全年齢ではないけれど、実践には全く役に立たないこのブルーレイディスクの中身と照美がどんな風に演じているのか、私が見たことのない照美を見てみたくなってしまったのだ。



「大丈夫……。女と男の裸なんて裸婦を描くときに何回も見たじゃない。ちょっとやそっとでは絶対動揺なんてしない」



結局は何でも経験だとか自分に言い訳して一番最初に手を取ったものをブルーレイレコーダーにセットしてしまった。


そして私は観てすぐ後悔した。






最初は日常生活の出来事のような話が始まって、照美の演技も上手くて相手役であろう男もまあまあ上手くて、話しの内容は少し退屈だったけど、ホームビデオと思えば普通に観られた。


そして、男性に有意な現実では意味が分からない流れで照美とその相手役はベットに雪崩れ込んだ。


その後の照美は確かに私が見たことのない顔をしていた。


普段よりも甘い声で男に縋りつく。汗に塗れ涙を流しながらも男に都合のいい解釈で汚され、押さえつけられ欲望に塗れても照美は美しいままだった。


でも、最後まで観ていられる気はしなくて、途中でやめた。



「何が楽しいんだか」



私しかいない静かな部屋で酷く冷たい声が流れた。


私の声だった。


ブルーレイレコーダーから取り出し、ブルーレイディスクをそのままケースに戻して、段ボールに入れた後、元あった場所に戻しておいた。




「あーあ、本当、観なければ良かった……」




照美が形だけとはいえ、隠していたブルーレイディスクを観てしまった罪悪感と性欲はないくせに照美の見たことのない姿を見せるのも、余裕をなさせるぐらい乱せるのは男だけなのだという性差を見せつけられたような気がして勝手に嫌になった。


何で、私は女なのだろう。


どうして、最終的な愛が身体を繋げ子供を作ることなのだろう。


ただ、手を繋いで、話をして、ハグをして服越しだとしてもお互いの温かさを共有するだけの関係でいられないのだろう……。


身体は成人しているのに心はまだ成長に追い付いていない子供のままだ。





何故だか思い切りがついた私は打ちのめされながらもスマホでAV女優としての照美、うつつ照子を検索していた。



「照美、こんなに出演していたんだ……」



デビューしてから、その容姿や肢体で人気があり、どの作品も売れていて評判がいいことが分かった。


レビューを見て照美に心酔しているような書き込みやカメラワークなど構図に文句を書いたり、照子ちゃんにはこの役は早いみたい、なものを書いている奴もいた。


何様のつもりだよ。


顔すら見たことのない人間のレビューに踊らされている自分が面倒で、見たことのない人間や相手役たちに嫉妬した。


唯一の救いは照美の相手役は男だけだということだった。


もし照美が女の子と出演していたのなら私はみっともなく心が暴れて自分でも手を付けられない気がした。




照美のこれはあくまで仕事であり、プライベートでは何も関係はない。


そりゃあ、照美の私の知らないところはまだ沢山あって、このAVもその一部であるのだろう、でも女の子と出演していたのなら私は違うとわかっていても勘違いしていただろう。


私は勝手に照美の恋愛対象が男であると思っている。その考えが大きく覆るのだ。


私では照美にあげられないものを男ならまかなえると思っている。でも、同じ同姓なら別の話ではらわたが煮えくり返る話である。


照美は私の彼女でも、私が照美の彼女でもない。照美の仕事にも恋愛にも口を出す術も道理もない。




この世の普通が私には当てはまらなくて、いくら周りがいくら私たちマイノリティーに理解を示そうと、苦しさも後ろ指を指される環境も理解されない。


愛する相手が異性ではなく同姓というだけで冷たい風に晒され政治家から生産性のない価値のない人間のレッテルを貼られた。後にその失言をした政治家は発言を撤回し、形だけの謝罪を述べたが、一回発信された発言はずっと私の中に残り続けるだろう。


そんな他人が言ったことなんていちいち気にしていられないし、勝手に言えばいいと思う。


でも、照美にだけは軽蔑をされたくなかった。


照美は優しいからきっと、この事実を伝えても友達でいてくれると思う。しかし、今までの様な関係ではいられないだろう。照美の心の中で私は普通とは程遠い理解されない生き物として存在し続けることに私は耐えられない。


女の子のまま照美に私を好きになってもらいたいと少しでも思ってしまった。




その日はもう掃除をする気なんておきなくて、気分を変えるために夕飯の買い物に出かけた。





今日は豚肉が安いのか……最近はささ身を使った料理ばかりだったし、たまには生姜焼きにでもしようかな……。と豚肉の前でにらめっこしていた。




「あら、陽子ちゃん?」



「え、佐波さん?何でここに?」



「何でって、そりゃあ夕ご飯を買いに来たのよ」



「あの佐波さんが?本当に?しかも何です、その恰好……」



「僕も買い物ぐらい出来るよ。相変わらず陽子ちゃんは余計な事を言うわね……。今日は大きな仕事をした帰りなの。だから少しだけ畏まった格好をね……。どう?似合うかしら?」



半年前の佐波さんとは違い、ふわふわと遊ばせていた髪をしっかりとセットし、ブルーの上品なおしゃれなスーツを身にまとっていた。


特におしゃれなのがワインレッドの緑のラインが格子に入ったネクタイで、本当に趣味が良い。


かつて、誰かのお金で生活していた人の影はなく、人当たりの良さそうな誠実な雰囲気を身にまとっているように見えた。


私の知っている佐波さんと同一人物に見えなくて、松風さんのために生まれ変わったのだ。



「ええ、あまりにも似合い過ぎて嫉妬しそうです」


「あら、嫉妬なんて陽子ちゃんには縁のないことだと思っていたわ」



「私も人間ですから嫉妬位します」



「それに、あんまり元気ないわね。照美ちゃんと上手くいってないの?」



佐波さんは少しの変化すら見逃さないぐらい鋭い。


だからこそ、松風さんと付き合うまで職業ヒモとして今まで生活が出来たのだろう。


容姿は良くても佐波さんが中身まで本当の屑だったら絶え間なく貢がせたりは出来なかっただろう。




「いえ、照美は関係ありません。私の問題です」



「そう。ねえ、少し付き合ってくれない」



「いいですけど……」




必要なものを買った後、佐波さんに連れられ、レトロなステンドグラス越しに差し込む西日が綺麗なカフェに入った。


お客さんはご近所に住んでいるおじいちゃんやおばあちゃん、大学生だと思われる子がコーヒー片手にパソコンと向き合っていた。


私たちが座っているのは奥の柱に隠れたような場所の席で、なんだか秘密基地にいるみたいだった。




「ブレンドを一つ。陽子ちゃんは?」


「えっと、ココアフロートを一つお願いします」


「以上でお願いします」


「かしこまりました」




注文を請け負ってくれた初老の男性はカウンターの方へと戻っていった。


落ち着いたジャズの曲やオレンジの光を帯びたランプが優しくて初めて来たのになんだか落ち着いた。



「いいところでしょう」


「本当に」


「今日は夕ご飯の前だから注文しなかったけど、ここのビーフシチューやたまごサンドが特に絶品なのよ。ガトーショコラも美味しくてテイクアウトも頼んじゃうぐらいだわ」



「テイクアウトも出来るんですか……凄いですね」



「本当は爽太の行きつけなの。引っ越してから教えてもらったのよ」




目じりが下がり、柔らかく微笑んだ佐波さんが別の世界に住んでいる人に見えた。


姿形だけではなく、所作があの頃のようないい加減さはなくなり、上品にメニューを開いて撫でるように指を滑らせている姿にまた変化を感じた。


彼は松風さんという最愛の人のために爛れていた自分に別れを告げ、心を入れ替え毎日を充実に過ごしているんだな……。



「お待たせ致しました。ブレンドです」




先ほどの初老の男性が佐波さんの前にブレンドを置いた。


コーヒーの香ばしい少し酸っぱい爽やかな香りがふわっと広がった。



「ココアフロートです」



私の前に置かれたココアフロートは螺旋が描かれたソフトクリームにチョコレートソースが掛かっている少し懐かしい形だった。


付属のスプーンでソフトクリームを掬って食べたら冷たくて甘くて少し苦い。ビターチョコレートをベースにしたチョコレートソースのようだ。


ココアが甘すぎずソフトクリームの甘さを引き立たせていて凄く美味しい。



「美味しい」



「そうでしょう。全部あのマスターの手作りなの」


「ソフトクリームも?」


「爽太が言うにはそうらしいわ。何でも凝り性なんですって。気になったら一からでも作る。根っからの職人肌みたいなの」


「そうなんですか……」


「どう?気に入った?」


「とっても」


「そう。爽太が聞いたら喜ぶわ」



前よりも佐波さんの口から松風さんの名前が出る度に目尻を下げて話す姿が本当に幸せそうで今の私には佐波さんがキラキラしているように見えて羨ましくて、でも安心した。




「ねえ、陽子ちゃん」



「何でしょう」


「あなたが何を悩んでいるのか今は聞かないわ。でもね、たまには吐き出してみるのもいいのよ。あの頃の朝ベランダでお互いの愚痴や何気ない話をしていた時みたいに」



「今の僕に言いづらいなら僕でなくてもいいよ。でも、陽子ちゃんを大切にしたいって思っている人がいるのは忘れないでほしいな」



「ふふふ…何ですかそれ。似合ってないです」



「そうね。爽太に影響されたのかしら」



真剣な顔で話す佐波さんが少し可笑しくて、本当に私のことを心配してくれているのが伝わった。


半年のうちに私の知らない佐波さんになったみたいで、全く成長していない私を恥じたけど、あの頃のような兄の様な姉の様な割と面倒見の良いところや優し気な眼差しが変わっていなくて笑って誤魔化したけど泣きそうになった。




「今日はまだ言葉に出来なくて話せないですけど、今度聞いてくれますか?」




「もちろんよ」



佐波さんと核心をついた話をしていなくても荒れた心がいつの間にか落ち着いた。


少し晴れやかだった。きっと今日も照美の帰りを笑って迎えることができる。


あの嫉妬心や劣等感はまだ忘れられないけど、いつかは照美に受け入れてもらえなくても、いつかは私が女の子が恋愛対象であることを話せたらいい。







「ただいま」


照美はまだ仕事から帰ってこないから今のうちに下準備を終わらせて、お風呂を沸かす準備をして、そのままにしていた掃除機も片付けないと。




ガチャ




6時半。


照美がいつも帰ってくるには早い時間ではあったけど、そういう日もあるよね。



「照美おかえり。今日は早かったね」



「……」



「照美?」



今朝、仕事に行くときはいつも通りだったのに、いつもの元気がない。



「照美、どうしたの?、って……!?」



お尻が痛い。今、何があった?


上半身を上げると照美が私のお腹に抱き着いていた。


尻もちをついた原因は照美が勢いよく来たからか……。




「照美、照美、何かあったの?」



呼びかけても照美は顔を上げようとしない。

私に巻き付いたまま離れる気配はない。



「照美、たまには生姜焼き食べたいって言っていたでしょう。焼いたら食べられるから食べようよ」



「……」


「照美」


「……ぇ」


「え?」



弱弱しい小さい声だった。

聞き取れはしなかったけど、確かに照美が発した声だった。

でも今度ははっきり聞こえた。



「今日に一緒にいた人は誰」



顔は上げないままでぐぐもった、でも威圧感のある声が聞こえた。



「今日カフェの前で会っていた男は誰」



答えない私にしびれを切らしたのか顔は上げないままでも、さっきよりも厳しい口調で私に言った。




「それって佐波さんのこと?」


「は?」


「え?」




私の耳はおかしくなったのだろうか。

照美から「は?」なんて地を這うような声が聞こえるなんて……。




「それ、本当?」


「本当だけど……」


「でも陽子、佐波さんのことが好きなんでしょ」


「え、何で……」



やっと顔を上げた照美は私が思ってもみなかったものを打ち込んだ。

松風さんにも初対面の時に言われたことで驚いた。

まさか、照美からもそんな言葉が出るなんて……。




「だって、陽子、私よりも佐波さんと一緒にいる方が安心した顔をしているもん」


「陽子は気づいてないだろうけど佐波さんの話題の時、凄く嬉しそうだし、メールは頻繁に送っているみたいだし、それって、佐波さんが好きだから嬉しいんでしょう」



拗ねたような声を出して上目遣いに不満そうな顔をする照美が自分にとって都合がいいような言葉を言っている声が聞こえて眩暈がした。




「佐波さんは、本当のお兄さんみたいに感じているだけで、恋愛感情はないよ」


「嘘」


「本当だよ」


「嘘」


「本当だって」


「嘘に決まってる」


「それに、佐波さんには恋人がいるよ」


「恋人がいても浮気する人間はいるよ」




佐波さん、照美からの信用薄くない?

私が学生だった頃の付き合いだから照美も佐波さんの爛れたあの時代を知っている一人だから、それが信用を無くさせているのだろうな。

佐波さんには申し訳ないけど照美を納得させるために事実を伝えよう。ごめん、佐波さん。




「聞いて、照美」


「何」


「佐波さんは、ゲイだよ」


「そんなの……」


「本当。恋人の名前は松風爽太さん。私たちが今まで見てきた女の子たちは確かに佐波さんに振り回されていたけど、ずっと好きだった松風さんのために生まれ変わったんだよ。だから私に恋愛感情はないし、照美が疑うような関係にないよ」


「でも、どうして一緒にいたの」


「今日はたまたま会ったから話をしていただけだよ。少し落ち込んでいたから私を元気づけるためにカフェに誘われただけ」


「そう……陽子がそこまで言うなら、信じる」


「よかった。じゃあ、ご飯にしよう」




照美が少し半信半疑のような顔をしていたけど、最終的には納得してくれてよかった。


と思って立ち上がろうとしたけど、照美は拘束を解いてくれない。


キックボクシングをして体を鍛えているせいか私の力ではビクともしない。


「ねえ、何に悩んでいたの?」


「何って、たいしたことないよ」


「たいしたことないなら私にも話してもいいでしょ?話したら楽になれるかも」


「本当に、いいよ」


「良くない」



いつもの明るいグイグイ来る雰囲気ではなく、さっきよりは薄くはなったけど、有無を言わせぬ雰囲気があった。可愛い笑顔なのに少し圧を感じる。

でも、照美にはまだ話せない。




「佐波さんに話せて私には話せないの?」



「そういうわけじゃ……」


「じゃあ、いいでしょ?教えてよ~」




一向に開放してくれる気がせず、いつまでもこのままでいるわけにもいかないし、何より、フローリングで照美の身体が冷えるのはまずい。

照美の身体は商売道具だ。食事や運動だけではなく、身体の管理に人一倍気を使っているし、冷たい床にずっといたら血行に悪い気がする。全くこの手の話は分からないけど、悪い可能性はつぶしておきたい。


ええい!女は度胸。先延ばしにしていたけど、告げる時期が早まっただけ。そう。そうよ。



「普通じゃないことが息苦しいって話していたの」



今日、話したことではなかった。

でも、私が落ち込んだことの根底に普通というものに縛り付けられているから、こう言うのか正しい気がした。




「普通じゃないって?」



「それは……」



「教えて?」




照美の砂糖漬けの花よりも甘い声が脳を溶かし私を麻痺させるようだった。



「陽子」




お腹に顔をうずめていたはずの照美が私の頭を包み込むように抱き寄せた。


今朝付けていた金木犀の香水の香りが弱かったけど、まだするあたり撮影はなかったみたい。


頭に柔らかな温もりが滑る。





「お願い」




私は照美のお願いに弱い。


ここでお願いと言うあたり、私がその言葉に弱いことに、きっと気づいているのだろう。




「照美、私ね、本当は女の子が好きなの。女の子が恋愛対象なの」




頭を往復する温もりが心地よくてあんなに言いづらかったことをポロリと言えた。




「そっかあ」


「軽蔑した?」



「ううん。陽子は陽子だもん。今までと何も変わらないよ」



「でも、私普通じゃないよ」



「陽子の普通って恋愛対象が異性であること?」



「そう」



「そっかあ。でもね、陽子、普通ってないと思うの」



「どうして照美はそう思うの?」



「だって、みんながみんな愛し方が同じじゃないでしょ?はちみつ漬けみたいに閉じ込めるように甘やかしたり、一定の距離を保っていたり、蔑ろにしたり、痛めつけたりで、みんな違う。正解なんてないし、普通の基準って設定できないでしょ?みんなどこか違う。陽子はそれが性別なだけ。ただそれだけだよ」



さっきよりも私を包む腕に力が入った。


でも、お腹に抱き着かれているときより優しくて、宝物を扱っているみたいで不安が全部泡になって消えるみたいだった。



「そうなんだ」


「そうなんだよ」


「ありがとう照美」


「逆にね、陽子は私のこと軽蔑しないの?」



「どうして?」



「仕事は特別好きじゃないけど誇りは持っているよ。でもね、たまにね、言われるの。男なら誰でもいい阿婆擦れって。そんな私を陽子は軽蔑しないの?」



服が濡れている気配はないけど、照美が泣いている気がした。

心ない言葉に傷付く普通の女の子。



「しないよ」


「どうして?」


「照美は綺麗だよ」


「え?」



顔は見えなかったけど、驚いているのは分かった。



「照美はずっと綺麗だよ。優しくて、気遣いが出来て何でも出来て、いつも頑張っている照美が眩しくて本当に綺麗」



私は照美の背中に手を伸ばして、子供を寝かしつけるかのように優しく撫でた。


今まで気づかなかった照美の不安が少しでも取り除けるように。



「ありがとう。陽子」



お互い顔を見合わせて笑った。



「さあ、生姜焼き焼かなきゃ」


「今日は一緒に作ろうね!」


「じゃあ副菜よろしくね」


「任せて!美味しいの作るから」



私は佐波さんのように照美が好きだとはまだ言えない。


でも、今日のようにいつか告白することが出来たらいいと思う。


その時が来た時、照美は困ったような顔をするのだろう。


今はそれでもいいと思えるようになった。


照美は私が一人の人間であることを認めてくれた。それだけでも私は満たされている。照美と離れることになったとしてもこの夢のような出来事を大事にしながらきっと生きていける。




end


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私の美しい人 ナリミ トウタ @narimi1022

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