第20話 “流命の腕輪”と“羅津銘”(3)

※ツヨのセリフの符号を変更しました。テレパシーを使用している時のセリフは『 』、実際に話す言葉は「 」とします【R4.2.28更新】

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「あれ……これって???」


 いつの間にかツキカゲさんが石庭一面の花の中で何かを調べながらつぶやいていた。


「私の薬草園のものもあるけど、見たこともないものもあるねぇ」

「え?! 本当かい?」


 その言葉に、タロも近くにある花を調べ始める。


「……確かに。ツキカゲの言うとおり、腕輪の宝玉から伸びたのは枝だけで、この花は地面から生えているね。ここに飛んできた薬草園の種子が活性化したようなものもあるけど……この花は……この世界では見たことないな……」

「もしかしたら、“黒夢”(くろゆめ)の隙間にあった太古の種子が活性化したのかもしれないねぇ」

「いや、薬草園の種子が活性化したと同時に交配もしたのかもしれない。例えば、この乙種は――」


 いつの間にか、二人で難しい話をし始めた。どうやら訓練よりも学者としての好奇心が強かったらしい。しばらく二人の様子を見ていたが、


「あぁ、愛紗は訓練を続けてくれる?」

と言われたきり、会話が終わる様子はなかった。


 腕輪から伸びた枝は、少しずつだが伸び続け、石庭からはみ出そうとしている。この状況は、誰か説明してくれないだろうか?


『……多分、愛紗には零因子を扱う才能はあるけど、身体の中に取り込める量じゃないから外に溢れ出ちゃったってことかな。あれは生命力の塊のようなものだから、まわりの植物に影響を与えたんだと思う』


 ツヨは私の横に近づくと、私にテレパシーで伝えてくる。ツヨは、まだツキカゲさんとタロに直接話しかけてはいないのでそうしたのだろう。私も二人にバレないように小声で話す。


「……才能はうれしいけど、何とか制御できない?」

『“羅津銘”(らしんめい)にも流すようイメージしてみたらどう? この筆は柄が特殊でね、僕やシンが使えるよう零因子を一定量溜められる機能がある』

「え?」

『ほら』


 ツヨは背中に背負っている“羅津銘”を尻尾で取り出す。……そう、私はすぐなくしてしまいそうだからと、ツヨが管理することになったのだ。

 私は、腕輪のつけていない方の手でツヨから筆をもらうと、意識を柄に集中させた。


――シュゥウゥウウ。


 黒い柄は、見た目は変わっていないもの静かに音をたてはじめた。


「ねぇ、大丈夫そう?」

『……うん、上手く機能していると思う。この容量が一杯になる前には、愛紗の身体の中で零因子が消費されるから問題ないと思う』

「そう? よかった」


 私は、即座に腕輪から出ていた枝を引きちぎり、背伸びをする。

 そういえば、零因子を取り込むことができると魔法とか使えるといってたなぁ。


「ねぇ、ツヨの世界には魔法みたいなものがあった?」

『魔法?』

「え~と、自然の中にある、火とか、水とかを使って戦うような……」

『あぁ、法術のことだね。炎の法、海の法、樹の法、地の法、天の法、理の法、宙の法、戦の法……数えきれないくらいあるよ』

「そんなに?!」

『うん。でも、ほとんどは生活するためのものだよ。戦闘用の術はその応用さ……それにこの術は適正や零因子の量もあるから扱える種族は限られてるよ』

「ふーん」


 ということは、私にはどんな術が使えるのだろう? 零因子は扱えるし、“羅津銘”のお陰で零因子の量も溜められるのであれば、相当な術が使えるのではないだろうか?


『……ただ、大規模な戦闘用の術を使うと、寿命が短くなったり、体の一部が機能しなくなったり、自我や感情もなくなるから、やめたほうがいいよ』


 私の考えを読んだのか、ツヨは少し怖い顔をして、テレパシーで伝えてくる。


「……うん、わかった。ごめんね」


 その口調に私も素直に謝った。私の住んでいる場所が危険なものにならない限り、このような話はゲーム感覚でしてはいけなかった。私も戦闘とか関わりたくないし……これ以上この話はしないほうがよいだろう。

 ツヨも私のそんな考えを感じ取ったのか、元の可愛いツヨに戻っていた。


『まぁ、護身用程度の術なら教えるよ。愛紗には全ての術に適正がありそうだし』

「適正?」

『あの“流命の腕輪”(りゅうめいのうでわ)の宝玉って、いろんな色があるでしょ? あれは付けたものの属性によって、それぞれ反応するんじゃないかな? 全てが反応したってことは……』

「すべての属性に適正があると」

『うん』


 ということは、零因子の量が十分なら、訓練次第でどんな術でも使えるってことか……。ついワクワクしてしまう。でも、あれもこれも覚えると術の効果や精度がよくないものになる気がする。今後のことを考えると、シンを探す術を中心に覚えた方がよさそうだ。


「なら、ツヨ。何から覚えればいい?」


 私は素直にツヨに助言を求めることにした。

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