第3話 手がかり(ツヨ)に問い詰めてみる(1)

 おにーちゃんが作った食事を食べたからか、少しだけ心が落ち着いてきた。おにーちゃんは、180cmのムキムキマッチョな日焼けした体をしているが、とにかく料理が上手い。なぜ、あんな体から、こんな繊細な味をつくれるのだろう。

 ……そんなことを考えていたが、ツヨとの食事がある程度終わり、お茶を飲むくらいに本題を考えることにした。


「手がかりはないの? だって未来のことを知っているんでしょ?」

「それは……」

「言えない……か……」

「ごめん……僕が知らないこともあるし……」


 ツヨは未来で何が起きるかは知っていても、それをあまり口に出すことは出来ないらしい。


「未来のことをいうとツヨが強制的に霊界に戻されるんだっけ? 本当に何か言えることはないの?」

「……まぁ、君が未来の選択を間違えることがない範囲であれば……。僕から質問を誘導することも出来からね」

「ふーん……」


 二人の間に沈黙が流れる。


「呪われるようなことはした覚えはないんだけどなぁ……」

「それは……呪いじゃないよ……」

「え? じゃ何?」

「え、えーと……」


 なぜかツヨが唇をかみしめ下を俯く。


「言えない…ねぇ」

「おいおい、あまりツヨちゃんをいじめるなよ。そもそも、お前、呪い呪いって……小学生かよ」


 カウンターからおにーちゃんが口を出す。

 もう、ムキムキマッチョが顔を赤らめながらツヨをかばうのはやめて欲しい。


「だって本当のことだし!」

「あぁ?! まだ言うか……昔からお前はそんなもんだよな」

「昔からって、何よ!」

「怪談とか、呪いとか、昔あんなに好きだったじゃねーか」

「そんなのいつの話よ」


 おにーちゃんがあまりにも口を出すので、私が拳を振り上げると、おにーちゃんは、そそくさと厨房に逃げていった。

 ツヨは言葉の意味がよく分からないようだった。


「……怪談って何?」

「あぁ、幽霊とか妖怪とか出てくる話かな。妖怪は河童とか狐とか天狗とか、そんなものだよ」

「狐……」

「でも、覚えてないってことは随分昔のことなんじゃない? シンはいつからいなくなったの?」

「ここと霊界は時間軸も違うからよく分からないんだ……。たまに時間がとてつもなく逆行することもあるし……。ただ霊界ではシンがいなくなったのは1500年位前のことかな」


 そういうとツヨは黙って何かを考え込む。

 私もツヨから引き出したヒントについて考えてみる。……1500年前か。それは私だって生きていない。時間が逆行? つまりこっちでは時間が進むのに、霊界では時間が逆行するってこと? 確かに、それではツヨから核心に迫る質問をすることも、答えることも難しいだろう。多分、ツヨは、未来のことを答えられないというより、時間軸が入り組んでいるから、いつどうなるのかも分からないのだろう。下手に答えて、私が選択を誤れば、何が起きるか分からないだろうし。


「まぁ……そういうことだね。僕がどこまで言えるのかは言ってみないと分からないけど……まぁ、もしかしたら失敗しても数回なら、まだこの世界にとどまれるかもしれない。僕の零因子の容量にもよるけど」


 私の頭の考えを読んだのか。ツヨがこちらを向いてうなずいた。

 つまり一回下手なことをいうと、ツヨの体から零因子が霊界に流れていき、この世界で存在できなくなってくるってことか……。その無くなる零因子の量も全部かもしれないし、何%かもしれない……。


「……でも、愛紗はシンと会っていると思うよ。いつかは分からないけど」

「なんで私がシンの場所を知っていって思うの?」

「なんかこう……シンの零因子がわずかに残っていそうなんだ」

「どこに?」

「ここに……」


 ツヨが指さしたのは、私の……唇?

 口づけなんてお手のもんよ!……と言いたいが、こちらも全く心当たりがない。


「……もしかして……私が……食べた?」

「それはないかと……」

「歯ブラシとか、コップとかは? 変身できるんでしょ? シンも?」

「……それになる意味が分からない」

「確かに……」

「……うん」


二人の間に再び沈黙が流れた。

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