第2話 おにーちゃんは赤面した

 休日の昼間、ツヨと外出した。真冬だということもあり、かなり寒い。ただ、あのまま自室にいても暗い雰囲気のままだった。外の空気を吸って少しでも落ち着きたかった。


『どこに行くの?』

「……樂満屋敷」


 後ろからツヨも着いてくる。

 私の住む葛葉町(くずはちょう)は東京都内南部にある。都心からは30分程だ。近くには珠川(たまかわや)、現身神社(うつしみじんじゃ)、石富古墳(いしとみこふん)があり、それ以外は閑静な住宅街だ。その中で、私が少しでも落ち着ける場所は樂満屋敷(らくまんやしき)という居酒屋。オーナーは私の従妹のおにーちゃん、平入 咲羅(ひらいり さくら)が数年前から営業している。

 樂満亭の営業は夕方からだが、私は遠慮なく扉を開けた。


「おにーちゃん、私なんか呪われたわ」

「……開口一番に何をいう」


 まだ営業前の店内には誰もいない。おにーちゃんはカウンターでグラスを拭いていた。


「だって本当のことだもん」


 すぐさまその場で服を脱ぎ、痣を見せようとした。


「おまっ、ちょっ、バカが……って……」

「ほらほら……」

「そんな……、おれは巨乳が好きなんだ。…こんなことで逆にパワハラだって訴えられても……って、グフッ」


 いやいや、そこまで見せるとは言っていない。おにーちゃんのみぞおちには、私の拳がめり込んだ。それに何だって? そこそこあるよ、胸は……多分。


「つべこべ言わず、肩の痣を見る。分かった?」

「……あい」


 おにーちゃんは暫く涙目だったが、一呼吸入れると私の肩を見た。


「あぁ、なんかあるね」

「動いてるでしょ?」

「それはよく分からないけど。フツーだろそんなの……」


 おにーちゃんには痣は見えても、その痣が蛇のように動いていることまでは分からないらしい。


「……もう高校2年だろ、変な妄想はやめろ」

「んもう、これが呪いなんだって」

「はいはい……せっかくだから何か食べてくか? そちらのお連れさんも」

「え?」


 後ろを振り向くと、髪は長い白髪、瞳は紫、細見で、165cmくらいの白髪の美青年がいる。


「はい、油揚げとかありますか?」

「わがままいうねぇ……まぁこんなのに付き合わされただろうから特別に味噌汁用の油揚げで何か作ってやるよ」

「ありがとうございます!」


 白髪の美青年は、満面そうにほほ笑んだ。おにーちゃんがやや赤面する。


「……おまえ、本当に男だよな?」

「……え?」

「いや……なんでも……」


 おにーちゃんは赤面を隠すように厨房に行く。なんだ? 私より魅力的だってか?

 白髪の美青年は透明なグラスや店内を珍しそうに見回す。


「なんでこんなところに来たの? シンを早く探そうよ」

「ツヨ?!」


 白髪の美青年はツヨだった。


「あまり外で話していると、愛紗が独り言いう変な人だって思われるでしょ? 変えてみたんだ……皮を……そんなに変?」

「いやいやいや…」


 淡々と話すツヨにブンブンと首を振って否定する。あの可愛いモフモフがイケメン……。


「他のものにも変われるの?」

「まぁ……、よく観察すればね。ただ限界はあるよ、零因子(れいいんし)の容量によるかな……」

「零因子?」

「あぁ、僕を構成しているものだよ」


 ツヨが手をかざすと、手の平から細かいキラキラした粉のようなものが流れ出す。それは意思のあるような動きをする。


「この零因子が沢山あると上位の存在になれるんだ」

「へ……へぇ」

「とりあえず、油揚げ食べよ……ね?」


 ツヨは落ち着いてテーブルに座った。ツヨの向いに私も座る。

 厨房から、おにーちゃんが、油揚げの肉詰めやら、油揚げと豆腐を煮たのやら、お稲荷さんやら色々もってきた。


「こ……これで店のあるもん全部かな」

「わぁ、ありがとうございます!」

「お……おうよ。まぁ、ゆっくりしてけ」


 おにーちゃん、まさか今日の食材(油揚げ)を全部使ったのかい? そして顔が赤いよ、ピュアかよ。

 おにーちゃんは照れくさそうにカウンターに戻っていった。

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