第6話


「なんでだよ…」

俺たちは最強なはずだ…この街、一番のギルド…

なのになんなんだよ…これは、たった一人の“女“に…全滅?

「ありえない…」

だが、俺の目の前に広がるのは何十人もの仲間たちが壁や床にめり込んだり、倒れたりしている光景。

夢であって欲しい、そう考えるが、眠気を飛ばすかのような鼻につく鉄のような血の臭い…

それは吸い慣れているモンスターの血…

ではなく人間の血…

そして中央に立つ一人の血に塗れた女。

「どうしてこうなったんだ…」

その女の形をした化け物に俺は恐怖するのだった。


数十分前ーー


「ここです。ここが夜鬼のギルドです」

男の案内で俺たちは女の子のお母さんが攫われたと思われる、ギルドの前につく。

入り口には、柄の悪そうな男たちが数人、屯っている。

「どうするか…」

ここに来る前、二人で話し合い裏口を探し、そこからこっそり侵入、そしてギルドのボスを倒すという作戦に決まった。

「じゃあ、裏口を探すかって……沙月さんは?」

さっきまで隣にいた沙月さんがいなくなっている。

「あれ?あそこにいるの沙月さん?」

柄の悪い男たち…その前に彼女が立っている

男たちも「なんだこいつ…」、「いつの間に現れたんだ」と困惑している。

そして彼女は俺の方を見ながら

「ともくーん!やっぱり私!回りくどいのとか難しいことわかんないから正面から行くねー!」

「はぁ」

まぁそうだよな…そんなうまくいくはず…

ないよな…

そして彼女は男たちを倒し始める。

先に言っておくが、彼女には武器を持たせてはいない。

そうしないと殺してしまうかもしれないしな

だが、万が一のことがあれば武器を渡す。

そう話し合っていた。


「すごいな……」

彼女は、表にいた男たちを一瞬で蹴散らすと、ギルドのドアを蹴破り、中へ入る。

そこには何十人もの武器を持ったゴツい男たちがいた。

が、彼女はそれも難なく拳で殴り倒していく。

俺からすれば、ヒーローショーを見ているような気分だった。

ただ、劇とかではなく現実…

いくら拳でも彼女が使うとそれは凶器に変わりない…

男たちは、壁にめり込み、床に血を吐きながら倒れ込んだりしていく。

俺が「殺さないようにな…」と声をかけると、「うん、だから手加減してるよ」と彼女も答える。

これで手加減か…

男たちの返り血を浴び、平然としている彼女はまるで“悪魔“のようだった。

そういう俺は何をしないで見ていたわけではなく…

意識のある男たちに女の子のお母さんを知らないか聞いていた。

最初は、口を割ろうとしなかったが、彼女が威圧すると、「地下の牢獄にいる」とすぐに話してくれた。

俺は男に行き方を聞き、向かおうとする。

その時…

「なんだ…この状況は?」

そう言いながら、奥から二人の男が現れる。

片方は身長が2メートルはありそうな巨体の男。

もう一方の男は服が派手で金目の物をじゃらじゃらとつけている。

そして金男の方が喋り始める。

「俺はここのギルドマスターの雷豪(らいごう)だ…これをやったのはお前らか?」

「ああ、そうだ…女の子に頼まれてその子をお母さんを助けに来た」

まぁ倒したのは俺じゃないがな…

「あのガキの母親を?フッ!ハハハハ!」

「何が面白いんだ…?」

「ん?ガキ一人助けるために命を捨てにくる。お前たちのその無謀さにだよ」

「だが、もうお前の仲間は大体、ここで眠っているが?」

そう彼女が倒し、残るのはそこの二人…

しかし、あの男にはまだ余裕がある…

まだ何かあるのか?

「別にそいつらはそんなに強くはない…俺たちのギルドで最強なのは、こいつだ」

そういうと、もう一人の男も頷く。

「こいつだけでそこにいる全員を倒すことができる…お前たちも倒して奴隷にでもしてやるよ。そうだな…女の方は顔もいいし高く売れそうだ」

「大丈夫だよな…」

彼女も手加減していたとはいえ、男の方もここにいる全員を倒すことができる。

万が一負けることはないと思うが…

俺も少し不安になる。

「まぁいい終わりだ」

雷豪がそういうと俺たちの方に男が飛びかかってくる。

やはり他の奴よりも速い…そう思ったのだが

その瞬間…ズドーンッすごい音が鳴る。

そして男が目の前から消えている。

俺が「どうにいった?」と混乱していると、彼女が欠伸をしながら喋り始める。

「ふぁ〜、ともくん終わったから早く帰って一緒に寝よ〜」

そして高らかに突き上げた手の先には先程の男が天井に刺さっていた。

「嘘…だろ…」

雷豪もこれには驚きを隠せずにいた。

まぁ…そうだけどな…

けどさ、もうちょい…いい勝負しても良かったんじゃないか?じゃないと尺が…

俺も敵の切り札的、存在がこうも簡単に倒されるのに…少しだけ残念に感じるのだった。







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