第2話


前の世界で彼女は妊婦さんと赤ちゃんを殺しこちらの世界では騎士や一緒に転生してきた人たちを殺した。

そう、目の前にいる“元カノ“は殺人鬼…

「ともくん、大丈夫だった?」

「ああ!大丈夫だよ」

先程、俺はモンスターに襲われそうになったところを元カノの沙月に助けられた。

まぁ、モンスターに襲われそうになった状況よりもこの状況の方が…

殺人鬼である彼女と森の中にいるこの状況は俺にとって、ライオンの檻にエサとして入れられるのと同じような気分だった。

「というか、沙月はさっきから何してるんだ?」

最初、俺はゲームみたいにモンスターの素材を剥ぎ取っているのかと思ったが、原型を失いミンチ状になったモンスターをまだ切り刻んでいる彼女を見て何をしているのかと思い質問する。

「ん?だってこいつ、ともくんを襲おうとしたんだよ?もっと切り刻まないと気が済まないよ!」

「そうか…」

その姿により一層恐怖を覚えた。

多分、俺が頼めば彼女は人すら躊躇なく殺してくれるだろう…。

確かにそれはおれの憶測に過ぎないだが、『俺のため』に言いながらモンスターを表情一つ変えずグチャグチャにする彼女を見るとそれすらやってくれるそんな気がした。

そしてその姿に俺はより一層恐怖を覚えた。

「……それはそうと、俺のいる場所がよくわかったな…」と話題を変える。

俺は国で無能者と判断され、国から追放された。

そして場所も名前も分からない森の中へと送られた。

それを彼女はその俺を助けてくれた。

だが、それはーー

偶然…ではないだろうな、俺はそう考えた。

「ん?それはね。場所を聞いたの」

「場所を聞いた?誰に?」

俺が森に送られた事を知っているとなると王国の誰かなのか?

「王様だよ。もう死んでるけどね」

「やっぱりか………え?」あまりにさらっと彼女が言ったので俺はスルーしそうになる。

死んだ?王様って国王のことだよな?

まさか…

「お前…が殺したの…か?」

「うん、そうだよ。だってあいつ、ともくんをこんな場所に追放したんだよ?こんなの殺すのとなんら変わりないよ!だから殺したんだ。実際、私が助けなかったらともくん、モンスターに襲われてたかもだし」

確かに俺は国王によってここへと送られた。だが、そんなことで簡単に人を殺せるのか?

俺は先程まで抱いていた彼女に恐怖?

いや、それ以上のもっと何か別のドス黒く悍ましい感情を抱いていた。

「他の…人たちは?……どうしたんだ?殺したのか?」俺の声も震えていた。

それは…俺と一緒に転生してきた人たちがもしかすると殺されているのかも知れないから…

ではなくもし殺していたのであれば、彼女が人間ではない別の何かへと変わってしまいそうな…そんな気がしたからだ。

「んん」と軽く横に首を振る。

「殺したのは王様だけ、他の人は殺してないよ」

それを聞き、胸に手を当てほっと撫で下ろす。

いや、これじゃダメだ…

「沙月!」俺は彼女の肩を強く抑える。

もし、ここでまた彼女を拒絶してしまったら俺は殺されるかもしれない。

そこで全てが終わるなら構わない。

が、彼女がまた自殺し、そしてまた別の世界へと行き、また人を殺す可能性だってある。

そしてそれが永遠に続くことも…考えられる。

だから…もうそんなことにはならないように

「ーー俺と約束してくれ…」

彼女は「何を?」と首を傾げる。

「もう…人を殺さないと…」掠れるような声でそう言う。

確かに、沙月が国王を殺したことに変わりはない。

けど、それは俺の事を思ってくれてのことだ。

もしかするとあの時もーー

前の世界…彼女にも何か理由があったのかもしれない…

だが、俺は理由も聞かず彼女を突き放した。

彼女の精神が不安定なのは知っていたのに…

自分かわいさに彼女を拒絶した。

もしあの時、ちゃんと話を聞いていれば、

俺や彼女も死ぬことはなかったかもしれない。

こんな事にはもならなかったかもしれない。

「でもっ!」彼女も何か言おうとしたが俺はそれを遮る。

「でも…じゃない!…ほんとに…俺の事を思ってくれているなら…もう誰も殺さないと…約束してくれ!」

彼女は少し不安そうな顔をしたがーー

「わかった!」

俺と合った沙月の目は真剣だった。

「もう誰も殺さない。私も約束する!」

「ああ、約束だ」

そして話を聞けば、こちらの世界に来る少し前の記憶はないらしい。

俺が彼女を振った事は、当然、彼女には残っていない…

これは、神様が俺に与えた試練…なんだと思う。

異世界転生…そこで得たのはチート能力なんていいものじゃない。

俺の頼みなら誰でも殺せる、最強の元カノ…

彼女が今までに奪った人たちの命は、もう帰ってこない…

だから、これからはこの力を使って奪ってきた命より多くの人を救い、感謝され、彼女を変えたい。

俺はそれが出来ること信じている。


だけど…



ちょっとだけ…



自信ない…



だから…



誰かこのポジ…変わりませんか?ww


…嘘です。ごめんなさい…


俺たちは、一度王国に戻ることにするのだった。












  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る