異世界行っても元カノが一番最強でした…

ゼロC

第1話

異世界行っても元カノが一番最強でした…

「ともくん、愛してる……」

意識が掠れていくなか俺こと山下友(やましたとも)が、最後に聞いた言葉だった。


「んん、ここは…」体を起き上がらせる。

「まぶしい…」手を使い明るさを調整しながら、前へと視線を向ける。

「……え?」目の前に広がる光景に俺の思考が停止する。

大きな玉座、それに座る王冠をかぶった王様らしき人。

隣には綺麗なドレスを見にまとったお姫様のような女性、周りには鎧を着た騎士たち…

それは、まるでドラクエなどの異世界ファンタジーに出てくる、お城の中のようだった。

これは…ゆめか?と頬をつねってみるがちゃんと痛みを感じる。

「ゆめじゃない」

だが、どうしてこんなところに?

俺は確か…“彼女“にーーー

「勇者の方々ようこそアース王国へ!」

お姫様?がこちらに笑顔を向けてくる。

アース王国…やっぱり、ここはどこかの国なのか…。

辺りを見れば、俺と同じように状況が掴めず、オロオロとした様子の人たちがいる。

「私の名前はアラリーナ。勇者の方々お願いです。私たちの国を救ってください!」

頭を下げ、嘆願してくる。

漫画、ゲームとか見たことがあるかのようなテンプレな台詞だな。

だが、やっとこの状況が掴めてきた。

アレだろ?漫画とかでよくある異世界転生ってやつ。

実際に自分がそうなるなんて思ってもみなかったが、別の世界って本当にあるんだな。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

一人の青年が一歩前へと出る。

「私たちの国を救ってください?今の状況だって理解できていないのに、急にそんなこと言われても、困ります!」

他の人たちも頷く。

そうだよな、異世界に連れてこられて国を救ってくれなんて言われても、ここはゲームや漫画の世界じゃないし正直困るだけだよな…。

「勇者の方々ーー」

玉座に座っていた国王が喋り始める。

「私の名前はアーラス。この国の国王をしている。まず、君たちを急にこの国へと連れてきてしまったことは本当にすまなかった。

現在私たちの国は魔王軍との戦争の最中であり、勇者の方々にはその手助けを頼みたい。

無理を承知の上なのはわかっているだが頼むどうか、私たちを助けて欲しい」

玉座を立ち深々と頭を下げると、周りの騎士たちも俺たちの方へと頭を下げてくる。

「か、顔をあげてください皆さん」青年もそれに少し戸惑った様子で慌ててしまう。

「……僕たちにも家族がいます。ましてや銃や剣などを握ったこともない僕たちが戦争の手伝いなんて…無理です…できません…」

青年は喋りにくそうに、視線を下に落として話す。

何度も言うが、これは現実だ。怪我もするし、痛みも感じる、死んでしまえば、そこで人生も終わってしまう。

そんな世界で戦争に参加してくれと頼むのは死んでくれって言ってるとの同じだろう。

「……そうか」

少し落ち込んだ表情を見せると、玉座に腰を下ろた。

「…私も無理を言ってすまなかった。

だが、君たちを元の世界に戻す転移魔法は何度も連続して行うことはできない。

この世界には連れてきてしまったお詫びとして、魔法が使えるようになるまでの三日間、この王国を自由に観光していってくれ」

国王が笑顔で俺たちに言ってくる。

「ありがとうございます!」

青年を含め、他の人たちもほっとした顔をしていた。

「…さっきのは」

俺は国王が一瞬見せた不気味な笑みを浮かべたのを見逃さなかった。


「なんか急にこんな世界に連れてこられましたけど、国王様がいい人で良かったですね。こんなにお金も貰って」

俺たちは王国の城下町を観光しながら、話し合っていた。

「そうだな。けど、王国を救わない俺たちにここまでしてくれるなんて何か裏がありそうな気もするが………ん?」

その時、大きなコートを纏い、頭までフードを深く被った人とすれ違う。

「あの香りは…」俺はその人から香った香水のような匂い…

それはとても懐かしいような香りでーーー

「ともくん…この香水どうかな…百合の香りなんだけど…」

「ああ、いい香りだと思うよーー」

“彼女“のとの記憶がまた蘇ってくる。

「大丈夫ですか!?顔、真っ青ですよ!」

青年が俺を心配してくる。

「ああ、大丈夫だ………」俺はそう言ったが、

身体が恐怖で震え、全身鳥肌が立っていた。

「ともくん…信じてくれるよね?…」

前の世界…俺が覚えている最後の記憶…

確か…あの時もこの香りがしていた。

もしかしたら彼女もこの世界に?

「…いや」

ありえない、彼女がこの世界にいるわけない。もし彼女がこの世界に来ているなら一緒に来ているはずだ………けど、もし彼女がこの世界に来ていて、さっきすれ違ったのが彼女だったならーー

途端に足が竦む。

「やっぱり、肩を貸してくれないか?」

「わかりました」青年に体を支えてもらいながら、俺はその場を後にした。


「とも…くん?」

そう俺の背中へとかけられたその言葉に気づくことはなかった。

いや、気づきたくなかった…




俺たちは王国へと戻り、玉座の間へと案内される。

「ではそこに立ってくれ」

中央部分に描かれたおおきな魔法陣の上に俺たちは立たされる。

「王国はどうだった?」

「はい!食べ物もとても美味しく楽しませてもらいました」

「そうか、ならよかった」

すると、俺たちの前に水晶玉を持った女性が出てくる。

「では最後に能力だけで良いので測らせてくれんか?」

理由を聞けば、他の世界の能力者がどんなものか知りたいとのことだった。

「まぁそれぐらいなら」と青年や他の人たちも頷く。

だが、何故?元の世界に戻る俺たちの能力を知りたいんだ?本当にただの興味本位からなのか?と俺は少し疑っていた。

「では、それに手を翳してみてくれ…」

俺たちは一人一人ずつそれに手をかざしていく。

12や38などの数字、それとみたことのない文字が表示される。

多分、この世界に使用されている文字なのだろう。

能力が映し出されるが、やはり何が書かれているかはわからない。

国王や騎士たちが「おー!」「さすが、勇者さま!」などの反応を見る限りよかったのだろう。

そして最後に俺が手をかざす。

ーーーしかし、水晶玉が光ることはなかった。

「は?」何度か手を翳したが、水晶玉は光ることはなかった。

いやいや、なんでだよ。なんで俺だけ光らないんだよ。まぁ元の世界に帰るからいいんだけどね…けど俺だけ光らないなんて…

別に…悲しくなんてないけどね!

「まぁ人それぞれありますよ」「気を落とさないでください」と周りも慰めの言葉をかけてくれる。

そんなこと言われたら俺の無能感がより一層強く感じられるからやめてくれ…

「では、転移の準備をしよう」魔法使いらしき人が数人、俺たちを囲む。

そして、呪文らしきものを魔法使い達が唱え始めると下の魔法陣を光を帯びてくる。

「国王さま、僕たちは何も力になれないのに色々してもらってありがとうございました」

「ああ………」

国王は下を向いており、表情が見えない。

召喚したのが無駄になってしまったことでは落ち込んでいるのか?

その光が俺たちを包み込む。

そして気がつけばそこは俺の部屋ーー

などではなく元いる玉座の前だった。

「国王さま、て、転移が失敗したんですか?!」

この状況に青年や他の人たちは慌てた様子だった。

「いいや、成功だよ」

国王は笑いながら、答える。

「え?」

「私は最初から転移魔法など使ってはいない」

「なんで…っ!」俺たちは気がついた。

自分達にかけられた魔法に。

体は動かず、指一本動かすことができなかった。

「気がついたか…そうだよ。君たちにかけた魔法は麻痺魔法(パラサイト)体を動けなくする魔法だ。」

「どうして…そんなことを」

「どうして?君たちが私の命令に従わないからに決まっているだろう」

国王は当たり前みたいな顔している。

「じゃあ、僕たちをどうするんですか…?殺すんですか?」

「いや、そんなことはしない。が、奴隷として王国の為に働いてもらう」

「ならなんで」

俺は国王に質問する。

「俺たちの能力をさっき測ったんだ。奴隷にしてからにすればよかったじゃないのか?」

「ん?お前はさっきの無能者か」

無能者か…確かにそうだけどな、そこまではっきり言わなくてもいいだろ。

「水晶は自分の意思でしか反応しない。奴隷にしてから命令しても意思が拒否すれば測ることができない。だから先に能力を測ったのだ」

そうか…確かにな、それなら信用している時に測ったことは納得だ。

「もう一つだけ聞いていいか?」

これだけは…聞かなくちゃいけない…

「これで最後だ。何だ?」

「俺たち以外にどれぐらいの人をこの世界に転移させたんだ?」

この質問はあの香りへの答えだ。

あの時、香った香水…

もしかしたらあれは“彼女“だったんじゃないか…

他の人たちと違って俺は無能者だ。

奴隷にされることなく処分されるかもしれない。

だから、もし彼女がこの世界に来ていても会うことはないだろう。

それを聞くと国王の顔色が急激に悪くなる。

いや、国王だけではない、騎士や魔法使い達も顔色が悪くなっていた。

「ニ回目だ…転移魔法を使ったのは…」

「二回目…じゃあ、前に来た人たちも奴隷にしたのか?」

「そんなことはしていない!」国王は大声で否定する。

「あいつが…」

「あいつ?」まさか…

「それは…黒髪ショートカットの女だったか?」

「そ、そうだ!あいつが一人で…全員を殺したのだ…」

「一人?どうやって……」

この世界に来た時、俺たちは服以外何も持ってはいなかった。

そんな状況でどうやって人を殺すんだ?

「どうやって?そんなのは、一人の騎士から剣を奪い、そこから私とアラリーナ以外の全員を殺したのだ」

そんなことが…出来るのか…?

「そしてあいつは『ともくんに会いに行かなくちゃ』などと言いながら城を出て行ったのだ」

その言葉で俺の記憶が蘇る。

『ともくん』彼女は俺のことをそう呼んでいた。


高校時代、俺は彼女から告白された。

彼女の名前は闇城沙月(やみしろさつき)。

とても美人で頭脳明晰、スポーツ万能と完璧な女の子だった。

付き合い初めの頃、彼女はとても優しかった。

俺もこんな美人な彼女ができるなんてとか考えたりして浮かれていた。

だが、付き合いだして一年ぐらい経った時から彼女の“本性“が少しずつ溶け出してきていた。

最初は、LINEを確認したり、他の女の子を喋るとほっぺを膨らませ怒る程度だった。

しかし、だんだんと悪化していった。

沙月以外の女子がいる飲み会には、参加させてもらえなくなり、LINEも彼女以外の女、家族を含めた連絡先全てを消された。

まぁお母さんぐらいと妹ぐらいしかいなかったのだが…

そして、少しでもそれに反発すると、暴力を振るうようになった。

しかし、彼女は落ち着くと『ごめんね』泣きながら謝り『私も不安なの』そう言っていた。

俺もその時は『彼女は精神的に不安なんだ…』仕方ない…そう考えていた。

ある日の帰り道。

道端でうずくまっていた一人の女性がいた。

彼女には、他の女子とは話すことは禁止されていたが…見ると、お腹が膨らんでおり妊婦さんらしくとても苦しそうにしていた。

その日は彼女の誕生日…『早めに帰る』との連絡も入れてあった。

だが、ここで助けないわけにもいけない。

「大丈夫ですか?」

俺も人助けのためなら彼女も許してくれるだろうと思い、俺は妊婦さんを助けた。

その日の夜、彼女は俺に何も言ってこなかった。

ただ、彼女は不安なだけなんだ…

これからも俺がちゃんと支えてあげなくちゃな俺はそう考えるのだった。

次の日、朝起きると、彼女は家にはいなかった。

俺はいつものようにテレビをつける。

その時、あるニュースがやっていた。

それは…昨日、俺が助けた妊婦さんが何者かによって刺され、殺されたというものだった。

「嘘だろ…」考えたくはなかった。

もしかしたら彼女が殺したんじゃないか、そう考えるのが怖かった。コーヒーカップを持つ手が震えている。

ガチャっとリビングのドアが開く。

「ともくん…ただいま」

そこには、彼女が立っていた。

そして手には血がついた包丁まだ少し垂れているのがわかる。

もう一つの手にはーーー

「そ、それは…何だ?」その方へ指を刺す。

その時、俺の手や声は震えていた。

「ん、これ?」

彼女は“それ“を持ち上げる。

「これは…あの女の赤ちゃん!」

そう、もう一つの手には、大きな肉の塊のようなものを持ってた。

そして、それが赤ちゃんのように見えたが、俺はそれを信じたくなかった。

だが、彼女の口から直接これは赤ちゃんだと言われ、「うっ」俺は酷い目眩と吐き気に襲われる。

「だって、あの女。私とともくんの大切な時間を奪ったんだよ?だから私もあの女が一番大切にしていたものを奪ってあげたんだ〜」

彼女は、笑顔でそう言うと手に持っていた赤ちゃんだったものに包丁遠突き立てる。

そして俺は理解した。

彼女は精神が不安なんじゃない…

彼女は狂っていると。

「沙月…俺たちは別れよう」

俺はすぐに別れる決断をした。

「そして警察に行ってちゃんと事情を話そう」

「なんで〜?」

彼女が首を傾げる。

「私は、ともくんの事を思ってやったんだよ。どうして、別れるとかいうの?嘘だよね?」

「……ごめん」俺は恐怖で彼女の顔をみることが出来ず、そういうしかなかった。

俺は彼女に対して残っていた愛情が全て恐怖へと変わっていた。

早く逃げ出したい…俺は扉へと向かうとする。

シャっその瞬間ーー

俺の目の前が真っ赤に染まる。

そして体が熱くなるのを感じる。

何がおきたか分からず、その場に座り込む。

周りに赤い溜まりができていく。

「…あ」体に手を当てると、それが自分の血でできたものだと理解する。

「俺…きら…れたのか…」

倒れ込み、意識が遠のいていく中…

「大丈夫、一人になんてしないよ…」

彼女がそう言ったのが聞こえた。


そうだ…あの時…俺は沙月に切られて死んだんだ

ガラガラっと音が聞こえる。

「目が覚めたかい?」

声が聞こえ、起きるとそこは馬車の中だった。

「ここは…?」

「ここは森の中だよ」

「森?」俺が聞き返す。

「そう、あの後、あんたは倒れて、そのまま国から追放って形になったんだよ。そこに剣と袋があるだろ?」

足元を見ると、剣と少しボロい袋があった。

「まぁそんなんで森送りなんて処刑となんら変わりはないがな」

「ここで下ろしたりはできないのか?」

「そうしてやりたいが、これだからな」

男は首につけた首輪のようなものを見せてくる。

「奴隷なのか?」

「そういう事だ。すまねぇな」

奴隷とは、体の自由だけを奪う感じかんだったな。喋る事は、自由にできるんだな。

「着いたぞ」馬車から下ろされた。

男は「頑張れよ」と言いながら帰っていった。

「こんな場所にいるのに俺、落ち着いてるな」

モンスターが多くいると聞いていたが、記憶を思い出した、俺からすればこの森にいることなどそんなに恐怖に感じなかった。

グルルっと犬ような鳴き声が聞こえる。

すると、草むらから熊のような身体の大きなツノが生えたような生き物が現れる。

「ここで死ぬのか…俺」

いや、これでよかったのかも知れない。

彼女がこの世界で生きているのがわかった。

最初は、俺死ぬんだな…最悪だなんて考えたけど彼女に会わなかった事を考えるとよかったのかもな。

モンスターは俺へと少しずつ距離を詰めてくる。

そして「グァっ」モンスターが俺に襲いかかる。

「ん!」を目を閉じ、体を守るような体制を取る。

まぁ死ぬんだし意味はないと思うがな。

だが、その瞬間ーー

グチャと音がする。

「え?」と俺は目を開けるとーー

そこには、沙月がいた。

「ともくん!大丈夫?」

「……はははっ大丈夫だよ…沙月ありがとな…」

「うん」と彼女も満面の笑みを向けてくる。

やっぱり、俺は、異世界に行っても彼女から逃げられないらしい。

そしてこれは、俺と彼女の異世界恋愛?物語だ。

















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る