BAR2020

ジルーシャ

第1話

やぁ、待たせたね。

え、遅刻なんて社会じゃ許されない?ううん、痛いところついてくるね、君。僕と君の間柄なんだ、硬いことは無しで頼むよ。

あ、マスター、僕にも彼女と同じものを。

 それにしても、最近はずいぶん冷え込んできたね。ん?熱燗が最高?おやまぁ、しばらく会わないうちに、ずいぶんと大人びたもんだ。僕?僕はまだカクテルしか飲めないや。君の方が誕生日遅かったのにね。酒に慣れるのは君の方が早かったみたいだ。………うん、マスター、氷をもっと入れてくれるかい?君はいつのまにブランデーなんて強いアルコールを嗜むようになったんだ?

 少し前まで、僕ら趣味も性格もそっくりで、周りからお似合いだなんて言われてたよね。こんな小洒落たバーなんかじゃなくて、大衆向けの安い酒で笑いあってさ。服だって…ああ、勘違いしないで。とっても素敵だよ。ドレス姿の君なんて、初めて見た。上品なピンク色、君にぴったりだよ。惚れなおしそうだ……いや、ごめん。忘れて。そんな話の流れじゃないことくらい、僕だってわかってる。

 うん、そうだよね。「もう終わりにしたい」、か。…そっか、なるほど、うん……わかった。わかったけど、理由を聞いてもいいかな…?こんなこと聞くの、女々しいってわかっちゃいるんだけど、やっぱり、さ。ここで決着をつけておかないと、いつまでも君のこと忘れられなさそうだから。…ありがとう。君の優しいところ、本当に好きだ…あ、ごめん。ほんと未練たらたらだ…。

 「変わりたいから」…?うん、うん。そっか、じゃあ君は、「自分革命をしたい」って…今までの自分とは全然違う、新しい自分になりたいって思ってるの?…そっか、今の自分に自信が持てないから、理想に近づくために一度全部置いていくって、君はそう言うんだね…………

 …ああ、ごめん、黙ってしまって。僕は今のままの君も素敵だと思ってるけど、君は君のしたいようにしている時が一番素敵なのは、僕が一番知ってるからね。わかった。もう終わりにしよう。一年、付き合ってくれてありがとう。お会計は僕が済ませておくよ、君の新しい革命の寿ぎに、ね?

 ねぇ。君の紹介してくれたこのお店、僕は気に入ったよ。思わず入り浸ってしまいそうだ。多分君がもう一度ここにくる時、僕はこの席で今日と同じく飲めもしないブランデーを頼んで待ってる気がするよ。そしていつか、革命を終えた君が、ここに置いてきた今までの君を懐かしく思ってここに来た時には………また一緒に飲んでくれるかな。君が変わるために切り捨てた過去(思い出)を、僕が大事に持ってるからさ。

 さぁ、そろそろかな。君の自分革命がうまく行くよう祈ってるよ。振り返らずにさぁ行きなよ。そして僕は君の背後に向かってこう言うんだ、

Happy New Year! 君の一年が飛躍の年になりますように!


君が振り返るその日まで、僕(2020年)は君(未来)を待ってるから。

 

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BAR2020 ジルーシャ @clarino

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