第40話 カイナ村へ出発

 3匹の地竜の赤子が孵化してエルフの隠れ里で暴れ回っていると聞いたので押っ取り刀でエルフの隠れ里に駆け付けた。

 地竜の赤子達を何とか取り押さえて、こいつ等の首に奴隷の首輪を巻いて言う事を聞かせることに成功した。

 それでもエルフの隠れ里では奴隷の首輪を巻いて大人しくなった地竜の赤子達の食欲に恐れをなして面倒見切れないと言うのだ。


 どうしようと思っていたら一緒について来た真や天使族の二人が地竜の赤子を気に入ってそれぞれが地竜の赤子の首に巻かれた奴隷の首輪の主人になった。

 そんな事があって、地竜の赤子達はこの奴隷の首輪を使ってエルフの隠れ里から俺の本拠地のある砦まで連れて来たのだ。


 地竜の赤子の孵化騒動が終わった、これでやっときこりのアンドレを探す旅に出ることが出来るようになった。

 アンドレの住む村はこの世界では珍しい機織りを特産としている、機織りで出来る布だけではない裁縫の技術も門外不出の秘伝としているようだ。

 それで俺が

「服装の買い付けも出来れば。」

と言った途端、女性達が反応した。


 この旅には俺の他では人族の真と元伯爵令嬢のジュオンと女官のシンディ、エルフ族のアリアナ、天使族のアンソワーとアンドリューだけではない、新たに仲間に加わったドワーフ族やエルフ族の女性達も行きたいと俺に泣きついて来た。

 ジュオンとシンディは機織り機の購入にも意欲を見せているのだ。


 女性ばかり、あまり沢山連れて行くわけにはいかないので、真達の他には行きたがったドワーフ族10名とエルフ族10名の女性達を自薦他薦で選んでもらった。

 問題はついて行くと言い出したドワーフ族やエルフ族の女性達だ。

 彼女等は馬に乗ったことがない。


 アマエリヤ帝国の帝都の騎士団は騎士と名がつくだけに馬に乗ることが出来るが一般的に普通の人族や亜人は馬に乗ることは無い。

 その理由としては、野生の馬は魔獣と言っても問題が無い程体が大きく、気が荒く集団で獣や魔獣を踏み殺して食べてしまう・・・この世界の馬は雑食動物だ!

 アマエリヤ帝国の騎士団の馬は、それらの野生の馬を飼いならしていくうちに小型で人に従順な馬に改良されていったのだ。

 そのように小型に改良された馬100頭を俺達は保有している。

 アマエリヤ帝国の皇弟を倒した際に配下が乗っていた馬を奪って現在に至っている。


 その馬は、いまでは繁殖が進み120頭ほどに数を増やしているのだ。

 小型で従順な馬だが騎乗する場合、アマエリヤ帝国でも鞍以外の馬具が発達していなかったので、馬を騎士団員であっても上手に扱える人は少ないのが現状だ。

 鞍以外の重要な馬具としては足を置く為の鐙や馬に意思を伝える轡が無いのだ。

 例えば鐙が無い為に体の安定性を欠き、意思を伝える轡は木製等では直ぐ噛み折られ、嚙み切られてしまう。・・・ドワーフ族が来てくれたおかげで轡は金属製になってそのような事は無くなった。


 同行するエルフ族とドワーフ族の女性達に馬に乗させて見た。

 乗せる前に真が手本を見せる。

 旧日本海軍の提督の一人山本五十六の名言に

『やって見せ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば人は動かじ』

というが・・・。


 エルフ族の女性達は高身長で狩りの達人で運動神経がけており、すぐ馬具が整った馬に上手に乗れるようになった。

 さっと鞍に手をかけると軽やかに飛び乗り、姿勢もきまって歩く姿は流石エロフいやエルフ族色香が滲み出る。・・・俺が鼻の下を伸ばして見ていると鬼の形相の真に「何見てるのよスケベ。」

と言って尻を抓られた。・・・う~ん山本五十六提督の『褒める』前に抓られてしまった!


 問題はドワーフ族の女性達で、身体的特性で小太りで小柄な為にもっと小型にした馬でなければ上手く乗れない。

 俺の手元にある馬では体に合っていないのだ。

 ドワーフ族の女性達が、この世界の馬と格闘している姿は滑稽を通り越して気の毒である。・・・俺が手を貸そうとしたらまたまた鬼の形相の真に

「女性の体に気やすく触るんじゃないよこのスケベ。」

と言って尻を抓られた。・・・う~んドワーフ族の女性達が馬に乗る姿は山本五十六提督の『褒める』部分がどうしても無い!

 そのような事情でドワーフ族の女性達は馬に乗ることをあきらめて馬車や荷馬車に分乗して行く事になった。


 さて出発の段になって地竜の赤子が真や天使族の二人に纏わりついて離れない。

 俺は纏わり付かれている真達が気の毒になって

「地竜の赤子連れて行くか?」

と尋ねたところ3人ともものすごい勢いで首を縦に振った。


 俺から見ると爬虫類で前世にはいない4つ目で6本足のグロテスクな地竜だが真や天使族の二人にとっては可愛いペットなのだ。

 地竜の赤子が腹を空かせて暴れ回ると危ないので、俺は巨大雌牛に乗って行く事になった。

 当然、地竜の赤子用の哺乳瓶代わりに別の巨大雌牛10頭を連れて行く事になった。


 しかしながら、巨体の地竜の赤子や巨大雌牛に乗るのは大変だ。

 馬の鞍を付けてみたが幅が無い為に安定性が無くなった。

 一寸した小屋のようなものを作って背に乗せた。

 これで安定した。・・・旅の途中で小屋の中が一寸したリビングになったのは御愛嬌だ。・・・う~ん俺の小屋が良くなったのを見て真や天使族の二人に

「私達の小屋も良くして!」

と言ってしなだれかかられて鼻の下を伸ばしてしまった。


 カイナ村で買い物するのにドワーフ族の里で採れた純度の高い金塊も用意した。

 それにカイナ村は機織りで有名だが樵の村としても有名だと言うのでドワーフ族の造った鉄製の斧を大量に土産として荷車に積み込んだ、というのもドワーフ族の鍛冶師達が

「よほどドワーフ族と親交がある地域でしかも信頼された者しか鉄製の斧が手に入らない。

 ドワーフ族と親交が無いカイナ村では石斧を使っているはずだ。」

と言うのだ、それで荷馬車1台まるまる鉄製の斧を飾るように積み込んだ。


 今度はドワーフ族の女性達が

「鉄製の斧だけでなく、これほど質の良い鉄製の鍋や釜は世間には無いので土産で持って行こう。」

というのでこれも荷馬車1台まるまる鉄製の鍋や釜も積み込んだ。


 土産はそればかりではない。

 果樹やドライフルーツなどの砦の特産品を用意して旅の途中の食料が荷馬車2台に積み込まれていった。

 3匹の地竜の赤子の旺盛な食欲を満たすのはこれだけでは無理かもしれない。


 それらの荷物を載せた荷馬車ごと俺の魔法の袋の中にいれていく事にした。

 魔法の袋は国宝級の代物で滅多に手に入る品物ではない、それで人前で見せることが出来ないので、カイナ村に着く手前で荷馬車を出すことにしている。

 その際にドワーフ族の女性達に馭者役をやってもらう。

 旅の間にドワーフ族の女性達には馬車を扱う技術を覚えてもらうこにした。

 カイナ村の手前で魔法の袋から出した荷馬車4台にドワーフ族の女性達には分乗してもらうことにしている。

 これで旅の準備が整った。


 何度も書くが、この世界の道路事情は悪い、獣道のような細い道で路面が舗装されておらず、戦争時に敵の軍隊が直進してこないようにするため、わざと道路が曲がりくねっているのだ。

 こんな道路を馬車などで走る場合は木魔法で木を切り倒し、土魔法で路面を舗装し、場所によっては馬車を浮かせて走らせることが出来る結界魔法や結界魔法を発動させる緑の魔石が必要だ。


 今回の旅の同行者で結界魔法の使い手は、真とアリアナそしてジュオン達ばかりの特許ではないエルフ族の巫女も使える。

 同行を願い出たエルフ族には結界魔法が使える若い巫女もいたのでアリアナとジュオン達で組をつくって3台の新型の馬車に分乗して行く事になった。

 これで崖地で馬がやっと通れるよな細い道でも馬車を浮かせて走らせることが出来る。


 それに結界魔法は便利だ。

 雨が降れば傘変わりになるし、獣や魔獣達が襲ってきても結界魔法で弾き返すことが出来る。

 弾き返されて驚いている獣や魔獣達は俺が倒して、旅の食卓に上がることになった。


 俺が倒す前に3匹の地竜の赤子が野獣や魔獣を餌にして食べてしまうことがある。

 流石に食欲は奴隷の首輪に勝るようだ。

 地竜の赤子達はかなり大きな野獣や魔獣を一口で頬張ってしまう、これを吐き出させるわけにはいかない。

 

 得物を倒すのが俺と地竜の赤子達との競争になった。

 地竜の赤子が先に捕まえて食べ始めると骨も残さずきれいに食べてしまう。

 その後に巨大雌牛の乳を飲む、飲まれた巨大雌牛が干物の様に痩せるのだ。

 本当に驚くべき食欲だ!

 巨大雌牛を10頭も連れて来たがそれでも不安だ‼

 旅の途中で巨大牛の群れを見つけたら地竜の赤子の哺乳瓶用に何頭か巨大雌牛を確保しなければいけないかもしれない。


 馬車や荷馬車に話を戻すが、ドワーフ族が砦に加入してくれた御陰で車軸が鉄製で折れにくくなり、車軸受けには板バネで緩衝装置がつき、車輪もタイヤモドキを貼り付けた最新式だ!


 水の中に住む水スライムの他に、地上にはお馴染みのいろいろな種類のスライムが多数生息している。

 そのスライムの中でも一部の猛毒を持つスライムがお湯にかかって亡くなると、ゆで上がって黒く変色して弾力性のあるゴム状の物体になる。


 これは少年兵達が軍事訓練中の昼食時間に猛毒を持つスライムが現れて、武器もなく湯気を上げる大きな鍋のお湯しか身を守る物が無かったので鍋ごとぶつけたのだ。

 少年兵達が青い顔をして

「猛毒スライムを撃退した。」

と報告に現われて判明したのだ。

 怪我の功名、黒く変色したスライムを試しに車輪に貼り付けたらタイヤモドキが出来上がった。

 このタイヤモドキがどのくらいもつかも今回の旅の実験テーマだ。


 エルフ族は木魔法で行く手を阻む樹木を切り倒していく。

 ドワーフ族の女性陣は俺達よりも上手に土魔法を使うことが出来るので、あっという間に馬車が楽にすれ違うことが出来る程の道路が1人のドワーフ族の女性の魔法で2キロも3キロも出来上がっていく、それにドルウダの魔石を使うとその倍ほどの道路が出来あがる。


 それより凄いのが俺の乗る巨大雌牛が引き連れている10頭ほどの巨大雌牛だ。

 俺の乗る巨大雌牛が配下の巨大雌牛に命令すると木々をなぎ倒して進む。

 それに、真と天使族の二人が乗る3匹の地竜の赤子が這いずるように進むと路面が整備されていく。


 巨大雌牛が押し倒せない程の巨木をエルフ族が木魔法で倒し、地竜の赤子が整備しきれない路面をドワーフ族が整備する。

 格段に立派な道路が速やかに出来上がっていくのだ。

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