第39話 孵化

 カイナ村へ行く準備を進めているとエルフ族の隠れ里の住人が青い顔をして俺の元に駆け込んできた。

 その住人曰く

「地竜の卵が3つともかえった。

 孵ったのはいいが、そいつらが暴れ回ってエルフの里が荒らされて怪我人まででている。」

と言う大騒動が持ち上がった。・・・う~んカイナ村に行こうとすると問題が起きるカイナ村は俺にとって鬼門か⁈


 取る物も取りあえず、エルフの隠れ里の住人と共に隠れ里に向かう。

 エルフの隠れ里までの道路も整備されて走りやすくなっている。

 俺が馬を走らせていると後ろから真とアリアナ、そして天使族のアンソワーとアンドリューが続いてきた。

 真がくつわを並べて俺に

「地竜の赤ちゃんはお腹が空いて暴れているのではないか?」

という。


 そうだな腹が減れば俺でもイライラする。

 ちょうど良いところに何頭もの牛の群れがいた、この中には雌牛もいるだろう。

 この世界の牛は魔獣に分類されており巨大で車で言えば大型バス二台分ほどもある。

 群れの中でも特に巨大な雌牛が群れのボスなのだろう

「ブーモモモ」

と挑戦の大声を上げて突進してきた。


 頭を下げて

『ズドドド』

と足音高く土煙をあげながら向かってきたのだ。

 流石巨大牛は魔獣に分類されるだけはある凄い迫力だ、この世界では巨大牛は雌雄しゆうを問わず立派な黒い角を持っているのだ。

 頭を下げて土煙をあげながらその凶暴な黒い角が俺に迫ってくる。


 俺は焦ることなく懐から細い針を何本か抜き出す。

 この針は水スライムの例の催眠針だ。

 土煙をあげて俺の横を通りすぎる間に巨大牛に1本投げつける。

 見事に刺さったが、デカイ体の巨大牛には1本で効かないのか、反転してまたも頭を下げて俺に向かって来る。

 その後二度程同様に巨大牛に麻酔針を打ち込んだ。

 この間投げつけた麻酔針は合計5本だ。


 フラフラし始めた巨大牛が

『ドサ』

といきなり横倒しになって、

『フウフウフウフウ』

と寝息をあげ始めた。

 他の巨大牛は現金なものだ、ボスが倒された途端巨大牛の群れは何処かに逃げ散ってしまった。


 この群れのボスの巨大牛を眠らせたので、魔法の袋に入れてあった荷車を出してそれに乗せる。

 雌牛なので地竜の赤子の生きた哺乳瓶代わりにするつもりだ。


 し、しかし巨大すぎて1台の荷車ではずり落ちてしまう。

 2台にしてもだめだ。

 巨大牛を荷車に乗せようと奮闘しているうちに巨大牛が目を覚ましてしまった。

 水スライムの催眠針1本で人なら1日は眠りこけているが、体の大きな巨大牛では5本も打ち込んだのに1時間持たなかった。


 暴れられると大事になるので巨大牛の首に奴隷の首輪を巻いて見た。

 巻いた途端ピクリともしない。・・・う~ん?ああそうか俺が命令しないと動かないのか。

 試しに巨大牛の額に手お置いて

『まっすぐ歩け。』

と思念を送って命令して見た。


 ズシリズシリと歩きだしたのは良いが、巨大なだけに歩みが早い。

 あっという間に置いて行かれた。

 それも目の前にある木々をなぎ倒していく、凄い迫力だ。

 しかしさしもの巨大牛も、この世界の巨木にぶち当たって足踏みを余儀なくされている。

 その隙に巨大牛の背に俺は飛び乗って

『止まれ!』

と命令する。


 しかしながら恐ろしい、巨大牛の御陰で新しい道が出来上がってしまった。

 俺はこの巨大牛に乗って指示を出しながらエルフの隠れ里に向かう事になった。

 巨大牛は俺の乗っていた馬よりも速度が・・・速い速すぎる!

 真達を置き去りにしてあっという間にエルフの隠れ里についた。


 俺は真達を待つことなく、エルフの隠れ里に結界を抜けて入る。

 いつもの結界を抜ける時に感じる抵抗が少ないようだ。

 結界を抜けてエルフの隠れ里内を見ると里が大変な状態になっている。

 家屋が倒壊してまるでドワーフ族の里での地震の後のような状態だ。

 唯一エルフ族の里の中心にある結界石を置いてある社は無事なようだ。


 その社に結界魔法で結界が張ってあるのか緑色の輝きで侵入者を拒んでいる。

 身体強化でよく見ると社の周りに大きな動くものが3匹いる。

 どうやらこの3匹が孵化したばかりの地竜の赤子のようだ。

 3匹の地竜の赤子が俺と巨大牛に気が付いたのか向かってきた。

 6本の足を器用に使ってそれでも

『ドタバタ』

と足音高く走ってくる。


 向かって来る地竜の赤子に恐れをなしたのか巨大牛が身じろぐが奴隷の首輪で逃げ出せない。

 3匹の地竜の赤子の大きさは俺の乗っている巨大牛の半分程、大型バス1台分ほどの大きさだ。

 3匹の地竜の赤子が巨大牛の乳房に武者ぶりつく、よほど腹が減っていたのか必死になって乳を吸っている。

 その隙に俺は3匹の地竜の赤子の首に奴隷の首輪を巻いた。


 これで3匹の地竜の赤子が無力化できた。

 哀れなのが乳を吸われた巨大牛だ痩せてガリガリになった。

 これ以上吸わせるとさしもの巨大牛でも生命の危機が及ぶので3匹の地竜の赤子を奴隷の首輪を使って止める。


 丁度その頃には真達も押っ取り刀で駆けつけた。

 真達は今まで大暴れしていた4つ目の6本足の3匹の地竜の赤子を恐々こわごわと見ていたが、どんな感性か

「可愛い!私に頂戴‼」

等と言っている。


 その結果、真と天使族のアンソワーとアンドリューの3人で地竜の赤子1匹ずつ面倒を見ることになった。

 方法は簡単だ。

 地竜の赤子の首に巻いた奴隷の首輪に俺の手と委譲する者の手を乗せて

「地竜の赤子を委譲する。」

「地竜の赤子をもらい受ける。」

と念ずるだけで良いのだ。


 エルフ族の隠れ里の住民の視線が痛い!

 アリアナが3匹の地竜の赤子の里の住民に命乞いをして回ってくれていたのだが、早々に地竜の赤子を連れて隠れ里から出て行ってくれと言うのだ。

 しかし1頭の巨大牛の乳だけでは3匹の地竜の赤子を養いきれない。

 里を出てもう4、5頭巨大牛の雌を捕まえてこようと思っていたところだ。


 俺と真、天使族の二人の乗って来ていた馬をエルフ族の隠れ里の復興のために使ってもらえるように預けて、俺は巨大牛、真と天使族の二人は強暴な地竜の赤子にそれぞれ乗って砦に向かう事になった。

 その間に巨大牛の群れを見つけた。

 俺が乗っていた巨大牛が思念を送ってきた。

『私がこの群れのボスだ。』

という、群れに向かって歩を進めると群れの中から1頭の雄牛が向かってきた。


 俺が雌の巨大牛を連れ去った後のボスになったようだ。

 2頭が頭を下げる。

『戦いますよ!気を付けて御主人様‼』

と思念が送られた途端、猛スピードで走り始めた。


『ドカーン』

物凄い音と衝撃が襲う!

 巨大牛2頭が頭をぶつけた。

 2頭が角を突き合わせて押し合う。

 相手の牛が凄い力で押し込もうとするので、俺の乗った牛が首を振るとものの見事に相手の牛がひっくり返った。

 ひっくり返って無様に腹をさらした相手のその腹目がけて俺の乗った牛が角を振るった。

 血飛沫が舞って相手の雄牛が事切れた。


 俺の乗った牛から思念で

『地竜の赤子にこの牛を食べさせて。』

とおくって来た。

 真と天使族の二人にその旨を伝えると、地竜の赤子が解放されて倒された巨大雄牛に武者ぶりついた。


 地竜の赤子が瞬く間に巨大雄牛の骨まで食い尽くした。

 凄まじい食欲だ。

 巨大牛も魔獣と言ったが巨大雄牛の心臓から魔石が転がり出た。

 好物なのかこの魔石を巡って地竜の赤子が争い始めた。

 争っている間にこの魔石を俺が三つに砕いて地竜の赤子に与えた。


 何はともあれ巨大牛の群れを新たに率いていた巨大雄牛に勝った事から、俺の乗る牛がこの巨大牛の群れのボスに返り咲いて率いて行く事になった。

 巨大牛の群れは50頭ほどだ。

 巨大牛の群れと地竜の赤子が進むだけで、原生林の木々が

『メリメリメリ』

と悲鳴を上げて

『ドーン』

と大きな音をあげて倒される。


 木々の無い場所では濛々と土煙があがる。

 凄まじい迫力で砦に向かってゆく。

 これでは地竜の赤子と巨大牛の群れが砦に押し寄せてきたと勘違いされて砦内では大騒ぎになった。


 ひときは大きな巨大雌牛の上には俺が乗り、三匹の地竜の赤子には真と天使族の二人が乗っていたので、その騒動は直ぐに鎮静化した。 

 何はともあれ地竜の赤子の問題が解決され、砦には地竜の赤子3匹と多数の巨大牛が住むことになった。

 やっとこれで心置きなくカイナ村に行くことができる。

 カイナ村に行くメンバーの乗る馬の代わりが地竜の赤子3匹と巨大雌牛1頭になったのだ。

 

 俺の乗る巨大雌牛から

『地竜の赤子の食欲が凄いので、出かける際には巨大雌牛5頭いや10頭は連れて行って!』

と思念で泣きつかれた。

 確かに地竜の赤子の食欲が凄い。

 カイナ村への同行者に巨大雌牛が何頭も含まれたのは御愛嬌だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る