第26話 少年盗賊団その2 

 俺達はカイナ村に樵で元アマエリヤ帝国第一騎士団所属だった大男のアンドレを迎えに行く途中で盗賊団に襲われた。

 そいつらは15、6人の少年の盗賊団で弓矢を放って襲ってきたのだが、馬車に積んであった結界石の結界に阻まれて全ての弓矢が弾かれた。

 それを見てすぐ無理と判断した途端、口笛を合図に撤退を開始した。

 ただ撤退を開始したが、この口笛を吹いた奴を含めて3人が殿として残った。


 それを感じ取った俺は

「良いだろう相手をしてやる。」

と思った。


 俺は口笛の音で大まかな方向はわかる、また鋭くなった第六感の気配を察知しながら身体強化魔法を使って、口笛を吹いた奴等に向かって行く。

 見えた!三人とも年齢は15歳前後か?

 三人ともボロボロな貫頭衣を着て腰縄で縛っている。

 手には槍、穂先は石だな!・・・縄文や弥生時代か⁉

 それでも穂先を揃えて俺に向かって構えるなどなかなか様になっている。

 

 俺は三人の目の前に三歩程で到達した。

 三人とも驚愕で目を見開いている。・・・何せ30メートル以上もあった距離をほんの三歩で目の前まできたのだ。


 剣道の基本、恐懼疑惑きょうくぎわくに侵された心は大きな隙になるのだよ。

 思った通り三人とも体が固くなって反応が遅れる。

 体勢が整うまで待ってやるほど俺は御人好おひとよしではない。

 槍の螻蛄首けらくびを握って制して、回り込みながら盆のぼんのくぼ(首の後ろの急所・・・下手に殴らないでね!)を殴って倒していく。


 三人を倒したころで、ザルーダの爺さんとソルジャーのおっさんが現れた。


「偉い汚いガキどもだ。

 こんな奴等生かしておくほどの価値があるのか?」


等と物騒なことをソルジャーのおっさんがいうが、俺としては人口自体が少ないこの世界で無駄な血は流したくはない。・・・それでも顔や背格好が似ているので双子と思われる男の子達をソルジャーのおっさんが見て

『おや?』

と言う顔をしている。


 俺とソルジャーのおっさんで捕まえてのびている三人を野営地に連れて行く。

 野営地には真とアリアナの手によって鉄の檻が組み立てられているので、そこに三人を放り込んだ。

 俺と真とソルジャーのおっさんで逃げた残党共の捕獲だ。


 残りは十二人、足跡からそのうち足を引き摺っている者など足が悪そうな者が五人もいるようだ。・・・足跡が異常に小さい。

 後姿が見えた。

 まとまって必死になって小高い丘、岩場に向かって行く。・・・やはり子供だ!

おれも16歳で子供だが彼等は10歳になるかならないかだ!

 走っているつもりでも足の悪い者が多いために歩くような速度だ。


 小高い丘に十二人は逃げ込んだ。・・・ふうむ!岩場をうまく使って要塞のようにしている。大型の石弓まで備え付けている。

 逃げ戻った奴らが大型の石弓に取り付く。・・・おや!石弓の弦を巻き上げの機械で引き絞っていく。巻き上げ機を考えつくほど、ある程度技術はあるようだ。・・・縄文時代や弥生時代と考えたが中世ヨーロッパ程か?

 それにしても石弓の矢はデカイ矢だな、矢は三人の持っていた槍と同じ作りだ。


 重い素振り用の木刀を持った俺が現れると、焦ったのか狙いもつけずに石弓を放ったのでデカイ矢は明後日の方向に消えた。

 慌てて次の矢を番える。


 待ってやらない、身体強化魔法を使って石弓を扱っている奴等に迫る。

 俺は素振り用の木刀でそいつ等を次々と殴って昏倒こんとうさせていく。

 七人程昏倒させたところで、残りの五人が岩場の奥へと逃げ出した。

 岩場の奥は横穴の住居が点在する。

 その奥の横穴から食欲をそそる食事の匂いがする。

 その部屋に五人が逃げ込んだので、俺も続いてはいる。

 そこには盲いた俺と同じ位の歳の少し身なりの良い女の子が逃げ込んだ五人の子供をかばうように立っていた。


 話は後だ、俺のでかい木刀で全員昏倒させるつもりで振った。・・・エッ!俺の重い素振り用の木刀が魔法で止められた。

 盲目の女の子が結界魔法を使ったのだ。

 面白い舌なめずりをして・・・(傍から見れば、これでは俺の方が悪役だ!小2で裸の従姉の百合さんを担いでいた事件を思い出す。)結界を重い素振り用の木刀で殴りつける。


 二度の斬撃で盲目の女の子の結界魔法が

『パリン』

と言う音と共に砕け散った。

 魔法を破られた負荷で盲目の女の子が膝をつく、その女の子を守るように、今まで後ろに隠れていた五人の子供達が前に出る。

 歯向かう奴には容赦はしない盲目の女の子も含めて昏倒させる。

 これでこの岩場を根城にしていた全ての少年盗賊団を捕まえたはずだ。・・・この岩場は昔の横穴式住居の跡か?幾つもの横穴が開いているので何人か隠れ潜んでいるかもしれない。


 ソルジャーのおっさんが岩場の砦に入って来て、拘束されている盲目の女の子を見て驚いている。

 獣道を使ってザルーダの爺さんとアリアナが馬車に乗って岩場に来た。

 ザルーダの爺さんも捕らえられている盲目の少女を見て驚いている。


 馬車の檻の中で捕まっていた三人の男女の子供が何か喚いている。

 さて尋問だ。


 ザルーダの爺さんから、以前からこの辺りにある畑を荒したりする子供の窃盗集団がいたと聞いている。

 野荒らし程度の子供の集団ではあるが、食うや食わずの農民にとってはたまったものではない。

 怒った農民に捕まって半殺しの目に遭っていた。

 手足が折れていたり、酷いものになると欠損している者も多いのがその結果だ。・・・実はそればかりではないのだ。彼等は高い人頭税が払えない事もあって、口減らしの為のいわゆる捨て子なのだ。捨てた親が子供の反撃を恐れて手足を折ったり切ったりして捨てるのだ。

 

 子供の窃盗集団にも最近指揮官ができたのか組織的に行動するようになった。

 それで野荒らしも組織だって行動するため農民に捕まる者がいなくなった。

 その指揮官が盲目の女の子であり、その副官役が今回の戦いで殿を買って出ていた三人組だった。


 ザルーダの爺さんやソルジャーのおっさんが盲目の女の子を見て驚いていたのはアマエリヤ帝国の貴族、それも伯爵家、ハンコク家の娘だったからだ。


 公候伯子男というように貴族社会では中間の3番目に位置するが中々に偉い家の家柄の娘だ。暫定的に騎士爵等と言うものもあるにはあるが・・・。


 このハンコク伯爵家は王城を守る近衛騎士団長を排出する名家だった。

 盲目の女の子はハンコク・ジュオンと言う名前だ。

 ジュオンは現在俺達と同じ16歳、3年前までは青い両目で物を見ることが出来た。

 彼女は3年前のその年にいきなり魔法暴走を起こした。

 彼女はそれまで魔力を持たない普通の人だった。


 魔力を持たない人類でも時々魔法を使う為の器官が発現して魔法を使えるようになる者がいる。・・・それを魔法暴走と呼んでいる。

 魔法を使う為の器官の儀式を行わなければ、体のどこに魔法を使う為の器官が発現するかわからない、彼女の場合は目に魔法を使う為の器官が発現したのだ。

 その結果、彼女は結界魔法を使えるようになったが盲てしまった。

 その容貌と魔法を使えるようになった急激な変化に対して伯爵家の人間が気味悪るがった。・・・彼女はこの段階で伯爵家の後継者争いから脱落して、放逐されることになった。


 彼女には信頼する女官がいた。

 名前をシンディと言った。

 彼女の結界魔法を恐れた伯爵家は彼女が信頼する女官を人質にとって彼女を追放したのだ。


 女官の首には奴隷の首輪が付けられていた。

 この奴隷の首輪にはアマエリヤ帝国の帝都に近づかないという呪いがかかっているのだ。

 帝都に入ればたちまち女官の首が絞まって亡くなるのだ。

 その女官は殿をして最初に捕まった三人の内の一人だ。

 他の二人は伯爵家配下の下級貴族の男爵の次男と三男だった。

 ドナルド男爵家のドーンとソドムの二人だ。


 男爵は放逐された盲しいた伯爵令嬢を憐れんだ。

 実力はあれど下級貴族の男爵の次男と三男では先の望みも無い。

 実はこの次男と三男にも悲劇が襲っていたのだ。

 それは、二人は12歳になると行われる、同年代の代表者決める武道大会で優勝と準優勝を飾った。

 その副賞として優勝者は近衛騎士団に準優勝者は第一騎士団に入団することが出来るという破格の地位と名誉を勝ち取る・・・はずだったが、他の上級貴族が横槍を入れたのだ。

 伯爵家に取り入った伯爵家より上位の上級貴族が二つの席を乗っ取ったのだ。


 その事を知った第一騎士団長のソルジャーのおっさんがそれを憐れんで二人を騎士見習いにしようとした。

 ところが政争もどきの事件が発生して、ソンダイク・ダイクーンが帝王になった。

 第一騎士団長のソルジャーのおっさんが行方不明になり、二人の騎士見習いの話が消えた。

 先の希望の見えなくなった二人を伯爵令嬢の護衛につけた。

 そんな彼等がこの少年盗賊団の首領達だったのだ。

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