第25話 少年盗賊団その1

 雪融けも進んだことから今度はアマエリヤ帝国の地下牢で助けたきこりのアンドレに会いに行く事にした。・・・未だにアンドレに対しては、ザルーダの爺さんは魔法の弟子で姪であるアリアナをアンドレに捕らえられた。それをネタに奴隷の首輪を着けられて強制的に召喚の儀式を行った関係で気持ち的にまだ許していないようだ。


 実はそのアンドレはアマエリヤ帝国の第一騎士団に所属の騎士だった。

 アンドレの職業は樵じゃなかったかって?

 彼は巨人族でこの世界では巨体の持ち主であり、それに実家が樵で常日頃、樵の仕事をやって体を鍛えていた。


 騎士団員と言ってもこの時代のこの社会だ高い給料が支払われるわけではなく、名誉職みたいなもので騎士団として副業の様に開墾を手伝ったり魔獣の討伐を行って稼いでいるのが現状だ。

 昔の屯田兵のようなものだ。

 騎士団員としての稽古よりも開墾や魔獣討伐の仕事の方が多いのが現状だ。

 アンドレも樵として木を切り倒して開墾の手伝いをしていた。


 俺達と行動を共にするようになったソルジャーは第一騎士団長でありアンドレの上官だ。

 上官なんてものではないアンドレにとっては雲の上の存在で尊敬すべき上司だった。・・・過去形の理由はアマエリヤ帝国の先代皇帝が行方不明になった際に、ソルジャーもまた同様に行方不明(現皇帝に捕まっていたのだが。)となってしまった。

 理由もなく行方不明となったソルジャーは敵前逃亡とみなされて第一騎士団長を解任されてしまった。

 

 空位となった第一騎士団長の席にいつの間にか現皇帝の息子の皇太子のクソ野郎が座り騎士団長でございと大きな顔をするようになった。

 尊敬する上司のソルジャーから皇太子のクソ野郎になって、彼は何かと人類以外の団員を差別するようになってアンドレは腐って自暴自棄になり騎士を止めた。

 当然、騎士を止めたら安い給金と言えども支払われなくなり、騎士団を通しての開墾の手伝い、樵の仕事も無くなり金が無くなってしまった。


 丁度そんな時、皇太子のソンダイク・ジンクーンのクソ野郎がエルフ族の少女アリアナを捕まえたら金貨百枚を与えるという話を聞いた。

 丁度追いたてられて走ってきたアリアナを捕まえて、皇太子から金貨百枚をせしめた。

 ところが、祝酒を飲んでベロンベロンになっているところを皇太子の手の者に捕らえられてアリアナが囚われている地下牢へ放り込まれてしまった。

 そこを俺達が助け出したのだ。


 そんな因縁のあるアンドレだが俺達が助けたことに恩義を感じている。

 それで俺と元第一騎士団長のソルジャーでアンドレの住むカイナ村へ迎えに行く事になった。

 俺とソルジャーだけのつもりが現勇者の真とザルーダの爺さんと姪であり弟子であるアリアナも一緒に行く事になった。

 この世界では隣の村まで行くのも大冒険だ。


 エルフ族の隠れ里からカイナ村まで、直線にしておよそ500キロ程で馬で10日以上もかかる距離だ。・・・東京から500キロ、それはおよそ京都までの距離に匹敵するのだ。

 それを馬車だと倍の20日以上はかかってしまう。


 その理由が御多分に漏れずこの世界の道路事情が悪いのだ。

 意味もなく道路がうねり、路面は整備されておらず、障害物のような大きな岩が取り除かれずに所々置いたままにしてある。・・・馬車は結界の魔石で浮いているが馬は道を進まなければいけない。それに木が邪魔だ、その結界に当たって馬車が動かなくなってしまう。

 これでは何時着くかもわからない。


 またカイナ村までの間に人の集落はほとんどない、あっても盗賊の住み家か、酷く高い税金の取り立てで村から逃散した農民の隠れ家だ。

 旅人はそれら盗賊や農民にとっては格好の得物だ。

 それが理由か、ほとんど旅人等は見当たらない。

 冒険者が集まったり、商人が隊商(キャラバン)を組んで進むぐらいで、普通の農民の多くは村から出る事もなく一生を終わる。


 カイナ村に向かう俺達は、馬車とそれを警護する俺とは別にザルーダの爺さんとソルジャーのおっさんは離れて隠れながらついてくる。

 ザルーダの爺さん隠密魔法と言って姿を消せる魔法を使うことが出来る。

 どうやら光を屈折させて姿を消しているようだ。・・・う~ん本当はよく見ると周りの景色が歪んでいるのでわかってしまうのだが・・・。


 アリアナが馭者席のクッションに座って馬車を走らせている。

 馬車の馭者席は今までたんなる板であり、座っているだけでお尻が痛くなった。

 それに馬車の車輪が問題だ。・・・お約束だな。魔法を使う為か、この世界の技術水準は低い。車輪が真円ではない。木の車輪でバネなどの緩衝装置も無い。


 アリアナの乗る馬車の後ろにこの前解体した地竜の緑色の魔石を乗せてある。

 この魔石を使って馬車を空に浮かしているのだ。・・・何か魔石の無駄使いだ。

 魔法が使えると何かと便利だが反面科学や技術水準が低く発達しないようなのだ。・・・これもお約束だ。


 確かに馭者役のアリアナは本当に悪路になるとクッションに座らずに空気魔法で自らを浮かせている。・・・俺達が地竜を倒して(本当はドルウダが倒したのだが)緑色の魔石を手に入れるまでの馬車には魔石は積んでいなかった。

 魔石の代わりに俺達を捕まえて入れる檻を積んでいたのだ。

 俺が捕まってそんな馬車に乗せられていたら馬車の振動で、今頃は死んでいたところだ。・・・そう思う程に路面の影響をダイレクトに馬車に伝えているのだ。


 魔石が手に入らない事もある今後の事も考えて、真円の車輪で緩衝装置が付いた馬車でも作るか。


 馭者席の柔らかいクッションに座るアリアナは見た目は8歳ぐらいのエルフ族の美少女だが、エルフ族は人類とは3倍の長命で成長速度もそれに合わせて遅い、実は24歳で俺や真のお姉さんなのだ。


 その馬車には前日解体した地竜の緑の魔石が載せられ真が魔力を注いでいるのだが、機嫌が悪い!

 機嫌を悪くさせた原因が俺かな?


 結婚式では夫婦固めの杯の酒で酔っ払い。

 翌日の地竜の解体祝いの祝い酒で酔っぱらって、いまだに夫婦の契りを結んでいないのだ。

 夫婦の契りが無いままに旅に出る。

 それで御怒りのようだ。・・・真さん、真さん魔法の調整が上手くいっていないようだよ。時々馬車の窓から緑色の凄い光が漏れてるよ・・・(怖くて言えないよ)。


 動きの鈍い馬車で女連れで護衛役は俺しかいない俺達は特に格好の獲物と言えるだろう。

 エルフ族の隠れ里を出て三日もすると俺達をつける気配を感じた。

 俺はこの世界に来てから異常に五感が研ぎ澄まされて、第六感のようなものまである。

 次の野営地で襲われる予感がする。


 剣士としての予感と言っても良い。

 時々剣豪の話の中に予感を的中させた話があるが・・・俺も最近では怖いぐらいにこの予感が的中する。

 魔法の力でつけてくるそれらの者をサーチする事も出来るのだが、ただ同様の能力を持っている者がいると感づかれてしまうので使わないようにする。


 この世界では日が明けたら旅を行い、日暮れ目には野営に適当な場所を選んで宿泊する。

 前世なら水辺に野営地を設けるのだろうが、この世界では最も危険な場所だ。

 水の中には水スライムや古代魚が隠れ潜み、また水を飲みに来る魔獣や獣が多数いるのでそいつらにも襲われる危険があるのだ。

 彼等にとっては人間は美味しい捕食対象でしかない。


 道路わきの手頃な空き地で野宿する。

 水については水魔法を使う。

 俺は精霊魔法で水を出せるので火魔法を使えば風呂に入れるほどのお湯が出せる。

 馬車の中で風呂に入れて真はご満悦だ。・・・これで少しは気が晴れたか⁈

 結界石で安全な馬車の中には真とアリアナに寝てもらう。

 寝ずの番は俺だ。


 焚火に当たりながら目をつぶって気配を探る。・・・一人、二人、・・・十五人程いる。・・・気配が幼く感じる?魔法を使うと相手にばれることがあるので使わない。

 風向きが変わって俺達を襲おうとしている奴等の興奮した汗の臭いが流れてきた。


 俺が目を瞑っていたのを寝落ちしたと誤った彼等は弓矢を放った。

 一瞬、俺達の野営地が緑色に輝いた。

 馬車に載せてある緑の魔石の結界魔法が発動したのだ。

 結界に当たって全ての弓矢が落ちた。

 俺は立ち上がって周りを見回す。


 ありえない結界魔法の発動を見てとても勝てないと思ったのか

「ピュー」

という口笛が聞こえた。


 その途端周りを取り囲んでいた奴等が撤退を始めた。・・・何人か怪我でもしているのか足音が変だ。

 足音がリズミカルではなく、引き摺ったりする音が混じるのだ。

 口笛を吹いた奴等、気配では男女三人が残った。・・・殿しんがりのつもりか!

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