第19話 宝剣シルバーソード

 俺達はドルウダというこの世界の六本足の狼に追われていた。

 こうなったのには理由がある、それが俺と真はアマエリヤ帝国元宮廷魔術師ザルーダによってこの世界に召喚された。

 召喚後には召喚したアマエリヤ帝国の皇帝によって奴隷の首輪を着けられて、自分達の意思に反してただ働きさせられるところだった。

 アマエリヤ帝国の皇帝の魔の手を逃れて、公都から召喚者のザルーダによってエルフの隠れ里に連れられて逃げ込んだ。


 エルフの隠れ里に着いた季節は前世は春であったが、この世界の季節は晩秋で越冬の準備のため狩りに出かけた。

 アマエリヤ帝国新皇帝ソンダイクは召喚した俺達を探し回るように命じた。

 新皇帝の実弟である皇弟サイクーンも俺達を捜しまわるように命じられた一人だった。


 皇弟サイクーンは100名の配下を従えて狩りに出ていた俺達を見つけた。

 俺達は死闘の末、皇弟サイクーンの首を挙げ、100名の配下を殲滅した。

 この世界では不遇な死を遂げた者はゾンビ化するのだ。

 そのゾンビ化を防ぐために皇弟サイクーン以下倒した兵士を荼毘にふした。


 その遺体を焼く臭いがドルウダを呼び集めたのだ。

 俺は逃げる先に大きな横穴を見つけたのでそこに逃げ込もうと提案する。

 狩りについて来たザルーダさんの実弟ザルーガさんが

「地竜の巣穴だから逃げ込めない!」

と言うではないか。


『前門の虎後門の狼』

の状態だ。 

 それならば地竜を地竜の巣穴から外へ誘い出してドルウダと戦わせてやる。

 俺は地竜の4つある眼のうちの一つを潰して地竜の巣穴から外に誘い出して、まんまとドルウダと戦わせることに成功した。

 誘い出されて地竜がいなくなった地竜の巣穴に俺達は逃げ込んだ。


 地竜とドルウダの戦いが続くなか、俺と真は地竜の巣穴の探検をする事にした。

 地竜の巣穴の奥に地竜の寝床を見つけた。

 地竜の寝床には地竜の卵が3つ置かれていた。

 その地竜の卵はこの世界の人の背丈ほど大きくて、白地に黒い色の波模様が幾重にも描かれていた。


 地竜の卵を確認していると地竜の寝床の奥に隠し通路のような人がやっと立って歩けるような洞窟を見つけた。

 その洞窟を更に真と二人で探検する。

 その洞窟の中に入ると真がいきなり、怖いのか腕を絡めてきた。

 若い女性の匂い立つような甘い香りとさらりとした髪が目の前を揺れる。

 柔らかい胸が俺の腕に当たる。


 凄まじい破壊力だ!

 これだけで硬派で女性に免疫の無い俺には毒だ!

 思わず抱きしめてしまいたくなる!

 矢張り真は良いライバルで別の意味で強敵だ⁉


 隠し通路のような洞窟はなんと、石のタイルが床ばかりか天井や壁にまで張られた人工の洞窟であった。

 洞窟をしばらく歩くと突き当りの広い空間に出た。

 広い空間に出た途端、真の様子が変になった。

 広い空間の中央には直径20メートルはあろうかと思われる円形の池があった。

 その中心に直径2メートルほどの円形の台座があり、銀色に輝く日本刀が刺さっていた。・・・これが宝剣シルバーソードか?


 真がその刀に誘われるように池の中に入って行こうとする。

「しっかりしろ、池に入るな何がいるか分からないぞ!」

と抱きしめて止める。


 それでも真は前に進む、俺はある一定の円形の池付近まで進むとそれ以上は何か見えない壁のように阻まれて入れない!

 俺はどうしても見えない壁の為に池の中に入れない、真を見守るだけだ。

 俺を置いて真は池の縁の石に足をかけるとフワリと飛んだ!


 何と天女のように10メートル近くを飛んで池の中央の円形の台に降り立ったのだ。

 真は円形の台に刺さった日本刀を両手に持つと台座から抜いた。

 抜いた途端台全体が眩しく輝いて光が包む。


 光がおさまると抜いた日本刀と共に真が消えた。・・・真!俺の大事の人が消えた!・・・大事な人!心が苦しい!

 何だこれは・・・真!どこへ行った!俺の愛しい人は!

 いつもの俺ではない心が乱れる。呼吸が出来ない。苦しい!


 また台全体が輝いた日本刀を持った真がいた。

 俺は真に向かって走り始めた。

 池に入るのを拒む結界が無くなっていた。

 池の中に潜むものなど関係ない、俺はバシャバシャと池の中に入って真に向かって行く。

 池の中心にある土台の真にたどり着いた。

 真を思わず抱きしめた。

 お互いに唇を求めた・・・・・・。


 真の持つ、俺と真の負の遺産、鳥飼要一郎の刀を真が土台に突き刺した。

 その途端土台と池が消えた。

 人工の洞窟から、ただのがらんとした自然に出来た洞窟の広場に戻った。

 俺と真はもとの地竜の寝床に戻った。


 地竜の寝床に戻って振り向くと洞窟が消えていた。

 ただ真の腰には鳥飼要一郎の刀の鞘に宝剣シルバーソードがおさまり、鞘越しにでさえ淡く輝いていた。

 前勇者武田信虎が残した4つの宝の一つ宝剣シルバーソード、武田家伝来の刀で和泉守兼定作の刃渡り2尺1寸9分(約66.4センチ)を手にいれたのだ。


 真ともに地竜の寝床にある地竜の卵をどうするかでもめた。

 俺は破壊しようと言うが真は駄目だと言う。・・・惚れた弱みで涙目で見られると強くは言えない。

 一緒に狩りに出たザルーガさんに相談する。


 結局、地竜の卵をエルフの隠れ里まで持って行く事に決まった。

 決まった以上は地竜の卵を戦闘ウサギの剝いだ皮で包み防寒と運搬の衝撃に備える。

 枝分かれした枝に戦闘ウサギの皮でくるまれた地竜の卵を固定して引っ張るのだ。

 移動の準備は整った。


 地竜の巣穴の中からでも三日三晩という長い間、獣の戦いあう、うなり声が聞こえた。

 巣穴の塞いだ土の上部に登ってその一部を崩した。

 そこから朝日が差し込んでくる。

 しばらくすると雲がかかり始めたのか暗くなる、山の天気は変化が激しい。


 俺は崩したところから外の様子をうかがう。

 外には少し降り積もった雪の上に巨大な地竜が横たわり、さしもの数を誇ったドルウダも倒れて動くものはいなかった。

 俺達が狙った通り共倒れさせることができた。


 それでもなお隠れ潜んでいるドルウダが襲ってこないか注意しながら、塞いだ土をさらに押し崩す。

 俺とソルジャーがそこから外に出て様子を窺う。

 屍累々で動くものは無かった。

 雪が降ってきた。


 雪の上に倒れている地竜とドルウダの上にも雪が降り積もる。

 ザルーガさんが

「今年の雪は多そうだ。

 この場所は高山であり、降り積もる雪が地竜とドルウダを氷漬けにする。

 地竜の魔石やドルウダの毛皮は貴重品だが本降りになる前にエルフの隠れ里に戻りたい。」

というのでここからエルフ族の隠れ里に戻ることにした。


 ドルウダの毛皮は季節によって黒い毛皮から白い毛皮に変わる。

 別に夏の毛から冬の毛へと生え変わるわけではなく、毛自体が管状で中に黒色の色素が入っており、その色素が脱け出て管の中の空気の層によって暖かさを保つのだ。

 それで雪の中にドルウダを入れておくと毛から色素が脱け出すのだそうだ。

 晩秋から冬にかけてのドルウダの毛皮は色素が抜け落ちやすくて他の毛皮を汚してしまうので持って行きたがらなかったのだ。


 それで地竜の卵と同様に何頭かのドルウダを枝の上に乗せて引き摺って行く事にした。

 確かに真白な雪がドルウダに降り積もると黒色の色素で真黒になってしまう。

 その真黒な雪が黒い筋になってエルフの隠れ里に向かっていく。

 ドルウダの他に三頭の馬が地竜の卵を乗せた枝を引き摺る。

 雪が降り積もて来ているが、100頭に及ぶ馬の体温で融ける雪と吐き出す息の水蒸気があがる。

 雪山を苦労してエルフの隠れ里に入った。


 ドルウダや戦闘ウサギ等多数の狩った獲物と100頭に及ぶ多数の馬を連れてエルフの隠れ里に入る。

 エルフの隠れ里では越冬準備のために狩ってきた多数の獲物に沸き、多数の馬にも驚かれた。

 それよりも彼等を驚かせたのは3個の地竜の卵だ。

 馬に引かせて戦闘ウサギの毛皮に包まれた地竜の3個の卵の塊がエルフの隠れ里に入ってきた。


 その3個の毛皮の塊の中から、人の背丈ほどもある大きな白地で黒色の波模様が入った地竜の卵独特な紋様が見えた。

 ザルーダさんが騒ぎを聞きつけてやって来て、その地竜の卵を見ながら

「卵から産まれてすぐ子供の頃から飼育すれば地竜を飼いならすことが出来る。

 それでも気が荒いので、大きくなり暴れると手に負えなくなる。

 奴隷の首輪でも着けないと危険だ。」

と言うではないか。


 奴隷の首輪ならある。

 皇弟サイクーンが多数の奴隷の首輪を魔法の袋に入れて持っていたのだ。

 俺達を捕まえた時に奴隷の首輪を着けて飼いならすためだった。

 皇弟サイクーンを倒したときに持っていた奴隷の首輪を魔法の袋ごと頂戴しておいたのだ。


 ザルーダさんに奴隷の首輪を見せると驚いていた。

 それに俺達一行に加わっていた顔見知りのアマエリヤ帝国元第一騎士団長のナイト・ソルジャーを見かけてもっと驚いた。

 ソルジャーさんから俺達一行に加わるきっかけとなった皇弟サイクーンを倒した事を聞かされてザルーダさんは泡を吹いてひっくり返った。

 それはそうだ、アマエリヤ帝国の皇帝に次ぐ実力者の皇弟サイクーンを倒してしまったのだから。


 これで俺と真で前勇者武田信虎が残した4つの宝の一つ宝剣シルバーソード、武田家伝来の刀で和泉守兼定作の刃渡り2尺1寸9分(約66.4センチ)を手にいれたと教えればザルーダさんの心臓が止まってしまいそうだ。


 奴隷の首輪もあることからこの地竜の卵を孵化して飼うことになった。

 できるだけ暖かい孵化室を造って地竜の卵を入れた。

 この地竜の卵は黒色の波模様が段々と濃くなり、ほとんど真黒になると地竜が卵の殻を割って出てくるそうだ。

 地竜の卵が孵化する状況は後学の為エルフ族の子供達の観察の材料になった。


 地竜が産まれてからは、その地竜が馬の代わりに乗ったり馬車を引かせたりするのだ。

 地竜が馬鹿でかく育っても奴隷の首輪自体もそれに合わせて大きくなり、前後に付いている鉄の輪もそれに伴って大きくなるそうだ。・・・う~ん、それも見物だな。


 エルフの隠れ里に何とか無事に戻って来たのでアマエリヤ帝国の元宮廷魔術師のザルーダさんに俺達の懸案事項の魔法についてお教えを乞うた。

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