第18話 宝剣シルバーソード(勇者の呟き)

 私(武田真)達はエルフの隠れ里での越冬の為、狩りに出た。

 その際皇弟サイクーンが召喚された俺達を捕らえる追手として現れ、これを撃退して皇弟サイクーンまでも討ち取った。

 その追手を荼毘にふした。

 その遺体を焼く火葬の臭いがドルウダという6本足のこの世界の狼を呼び寄せて、追いかけられているのだ。


 腹を空かしたドルウダは最初は何百頭であったものが、エルフの隠れ里の近づくにつれて千頭以上もの群れに膨れ上がってきた。

 エルフの隠れ里近くの山脈地帯に入り、木々が低木になりドルウダの姿をはっきりと視認できるようになってきた。

 ドルウダは得物を狩るために速度を上げ始めた。

 腹を空かせたドルウダの足を止めようと1頭の馬を生贄いけにえに差し出したが骨までむしゃぶりつくされたが、千頭以上ものドルウダの前では何の足止めにもならなかった。


 そんな絶体絶命のなか奴、淳一が山の中に大きな横穴を見つけた。

 そこにはドルウダと同じ6本足でトカゲの親玉のような地竜が住みついている巣穴だというのだ。

 ドルウダから逃げている私達にすれば

『前門の虎後門の狼』

というところだ。

 地竜は、この地域の食物連鎖、生態ピラミッドの頂点に立つのだ。


 淳一が囮になってこの地竜を誘い出して、ドルウダと戦わせるという。

 淳一は馬に乗ったまま巣穴に入って寝ていた地竜の四つある目のうちの一つに皇弟サイクーンの配下から奪った両刃の剣を突き刺して潰した。

 目を潰されて痛みに怒り狂った地竜に淳一は後を追わせた。

 淳一は怒りに我を忘れた地竜を追いかけさせて、地竜をドルウダの大軍にぶつけたのだ。

 地竜の血の臭いに酔ったドルウダが地竜に襲いかかり、淳一の思惑通り地竜とドルウダを戦わせることが出来た。


 私達は地竜とドルウダが戦っている間に地竜の巣穴に逃げ込んだ。

 地竜の巣穴の入り口を土魔法で塞いでいると、淳一が平気な顔をして戻ってきた。


 淳一はザルーガさん達に地竜の巣穴の出入口を塞がらせると私と二人で巣穴を探検しようと言う。

 ザルーガさん達はかなり大きな地竜の巣穴の入り口を塞ぐために土魔法を使いすぎたのか魔力切れで寝ている。・・・二人で巣穴探検と言うデートだ!嬉しい!それでも地竜の巣穴だ少しどころか凄く臭い。

 何と言っても淳一と二人で洞窟探検というデートだワクワクする。


 淳一が手回し式の懐中電灯を点ける。

 うすぼんやりと洞窟内が照らされる。

 淳一が地竜を追い出した後、一応私が他に地竜がいないかを確認した。

 それでも他に地竜が隠れていたら怖い。・・・淳一の太い腕にしがみつく。怖いけれどもこれはこれで・・・デートらしくなった。


 少し洞窟の奥に行くと木々や動物の骨、毛皮や鳥の毛を集めた地竜の寝床が懐中電灯のぼんやりとした明かりに照らし出された。

 地竜の寝床には、この世界の人(約150センチ)一人分の背丈ほどある卵が三つ載せられていた。

 これは地竜の卵か、白地に黒紋様が波打つように入っている。

 淳一が卵を破壊しようとするが止めさせた。・・・あとでザルーガさんに処置を聞いて見ることにしよう!


 地竜の寝床の卵を確認して洞窟はこれで終わりかと思ったら、その地竜の寝床で隠すように人がやっと歩けるほどの高さの洞窟を見つけた。

 地竜の寝床がその洞窟を守るようにしているように思えた。・・・これは洞窟に眠るお宝を地竜が守っているようだ。

 二人で顔を見合わせて、うなずく探検だもの二人でその洞窟に入る。

 暗い洞窟を見てチャンスだと思った。

 怖がるふりをして胸を押し付けるようにして淳一の腕にしがみついた。


 鋼のような太い腕と淳一の男臭い良い匂いがする。・・・好きです!この太い腕で抱いてくれないかな!

 何か言ってくれないかなと思いながら、太い腕にしがみついた。

 私の乳房が淳一の太い腕に当たる。

 心なしか懐中電灯に照らされる淳一の顔が赤い、しがみつく淳一の太い腕がピクリと反応した。

 何となく可愛い淳一の反応に私は気をよくして、淳一の太い腕に頬ずりしながら洞窟を進む。


 最初は自然の洞窟と思っていたものが、壁や床どころか天井までも石でできたタイルのようなものが張られた人工の洞窟になり奥の方がぼんやりと明るい。

 その明かりに誘われるように進むと突き当りの広い空間に出た。

 広い空間の中心にわりと広い丸い池があり、その中心に丸い台座が見える。

 丸い池の縁から丸い台座までは目測で10メートル以上あり、その中心にある丸い台座は直径2メートルほどはあるようだ。


 天井に明り取り用の穴が開いており、明り取りの一筋の光が丸い台座に向かって何かを照らし出している。

 丸い池の中心の台座に何かが突き刺さっている。・・・抜身の刀が台座に突き刺さっているのだ。台座や人口の洞窟の状態から長い年月を経ていると思われるのに、その刀身はシルバー色に輝いているのだ。


 これは話に聞いた武田信虎が残した4つの宝のうちの一つ宝剣のシルバーソードか?・・・どう見ても日本刀だ。武田信虎が戦国の動乱期が始まる頃に産まれた武将なので、当然腰のものは日本刀だ。


 私はその刀に誘われるように歩み寄る。・・・刀に魅入られたのかしら、刀しか気にならなくなってきた。

 誰か大事な人と一緒にいたと思っていたのに⁉

 誰かに抱き留められた。・・・あれ?何で止めるの?貴方は誰?

「しっかりしろ、池に入るな何がいるか分からないぞ!」

と言われた、それはそうだ。


 それで私は池の縁に立って

トン

と縁の石を蹴ったら中心の台座まで飛べた。

 10メートル以上の距離を天女のように軽々と飛んだ。

 池の中心に飛べたのは私一人だ。・・・愛しい人と一緒にいたと思っていたのだけれど、どうしたのだろう。


 私に注意した奴は、池の周りに壁でもあるのか入ってこれないようだ。

 天井からの明かりで台座は照らされているが、周りが暗くてよく見えない。

 私に注意した奴は黒い影だ、それよりも私は池の中心の台座に刺さっていた刀に魅入られてしまった。

 怪しげな刀身の輝きに誘われるように近づき、両手で刀の柄を握ると台座から刀を引き抜いた。

 私が刀を抜いた途端、台座が眩しい光に包まれた。


 余りにも眩しい光で目をつむって、光が落ち着いたので目を開けると私はまったく別の場所に立っていた。

 私の目の前には祖父武田一太郎とよく似た古武士然とした男が刀を持って立っていた。

 その男が低い男らしい声で

われは武田信虎なり、我の刀を持つにたる実力があるかどうか試させてもらうぞ。」

と言って持っていた刀で私の小手に切りかかってきた。


 私は小手抜き面を放つ。

 面が綺麗に当たった。


 当たっていても掠り傷だけだった。

 相手は

「フン」

と鼻で笑った、相手の傷が見る見るうちに治っていった。


 忘れていた愛しい淳一の声が聞こえた

『素振り用の木刀のように振りきれ』

と、思い出したこれでは当てただけだ。

 それに剣道は押し切り、日本刀で切る時は引き切だった。


 今度は相手が面に切りかかってきた。

 私は面抜き胴で相手の胴を切った。

 相手は

「お見事!」

と言うと、体が切った胴で上下に分かれて影のように揺らいで消えていった。

 その途端また周りが眩しい光に包まれた。


 私が気が付くと、元の場所で刀を抜いて胴を切った形で立っていた。

 私は宝剣シルバーソード、武田家伝来の刀で和泉守兼定作の刃渡り2尺1寸9分(約66.4センチ)を手に持っていたのだ。


 私に向かって

「池の中は何がいるか分からない。」

と言っていた奴がジャブジャブと池の中に入って私に向かってきた。

 愛しい淳一の顔が良く見えてきた。

 淳一が抱き付いてきた。・・・嬉しかった。

 私は思わずキスまでしてしまった。


 私の持つ、私と淳一の負の遺産、鳥飼要一郎の刀を宝剣シルバーソードの刺さっていた土台に代わりに突き刺した。

 突き刺した途端、土台と池が消えた。

 それに今まで引き詰められていた石で出来たタイルの人工の洞窟が、ただのがらんとした自然にできた洞窟の広場になっていた。


 私は鳥飼要一郎の刀の鞘に宝剣シルバーソードを納めるて、私と淳一は洞窟を出てもとの地竜の寝床に戻った。

 地竜の寝床に戻って振り返ると洞窟が無くなっていた。

 夢幻かと思ったが、私の腰に差した宝剣シルバーソードを納めた鞘が淡く光っていたのだ。

 武田信虎が残した4つの宝のうちの一つ、勇者の証でもある宝剣のシルバーソードを手に入れたのだ。


 地竜の寝床まで戻って来て、もう一方の問題三つの地竜の卵をどうしよう。

 私と淳一が寝ているザルーガさん達の元に戻る。

 アリアナが私達の足音で気が付いて起き上がると怒っている。・・・見た目は小学校低学年くらいの彼女も淳一に気があるようだ。見た目は小学校低学年でも実年齢では20歳を上回っているのだ。

 ザルーガさんやソルジャーさんも起きてきた。


 私の腰に淡く輝く刀を不審そうに見ている。

 宝剣シルバーソードを手に入れた事はしばらく私と淳一だけの内緒にすることにしている。・・・私と淳一の隠し事か!何となく秘密を共有して嬉しい。

 鞘からでも淡く輝く力がある宝剣だ、すぐばれそうだ。


 もう一つの問題の地竜の卵だ。・・・これで宝剣シルバーソードはしばらくは誤魔化せるかな?

 地竜の巣までザルーガさん達3人を連れて行く。

 人一人程の大きさのある卵の白地に黒い紋様が波打つ。

 ザルーガさんが地竜の卵だと断定した。


 どうするかだ。

 このまま破壊するのが一番簡単なのだが、私とアリアナで反対した。

 このまま置いて行っても、地竜とドルウダが共倒れして・・・(共倒れを狙っているのだが)、戻って来なければ孵化ふかできずに死んでしまう。

 これでは破壊することと同じことだ。


 残った手段は、エルフの隠れ里まで持って行く事だ。

 地竜の卵に戦闘ウサギの剥いだ皮を何重も被せる。

 防寒と地竜の卵を二股になった枝の上に乗せて引き摺って行くので、その衝撃防止の為だ。

 準備が整った。


 地竜の巣穴に逃げ込んだ時は、地竜の臭いで興奮していた馬達も落ち着きを取り戻している。

 地竜の卵を見ても嫌がらない。

 これで卵を引き摺って行けるだろう。


 地竜の巣穴の出入口を塞いだ土壁の上部を奴が突き崩して、淳一が外を見ている。

 雪が舞い散るなかで地竜が横たわり、さしもの数を誇ったドルウダも動くものはいなかった。

 淳一が狙ったとおり共倒れをしたようだ。

 ドルウダが隠れ潜んでいないか確認しながら地竜の巣穴の出入口を突き崩していくと新鮮な外の空気が流れ込んできた。

 これでやっとエルフの隠れ里に帰ることが出来る。

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