第24話 スピリチュアリスト

 母が蒸発して三年がたった。

 彼とはなんとなく続いていた。

 私は一度、職場を移った。

 そこにAちゃんという、ユニークな嬢がいた。

 朝礼で嬢がソファーにずらーっと並んで座っていると、一人一人のエネルギーが、頭のてっぺんから棒グラフのように伸びているのが視えるのだそうだ。

「彼、年上?眼鏡かけてる……」

 待機中、私の肩越しに焦点を合わせるようにして、こっそり訊くのだ。

 Aちゃんと知りあって間もないころで、彼がいることさえ話していなかった。

 気が合うので、仕事終わりに飲みにいった。

「草花に縁がある。優しい人で妖精がついてる……」

「妖精!?」

「そう、二匹。その片方が薫ちゃんに移ってきた。前より草花に興味が湧いてない?」

「あー!だから最近庭園巡りとかしちゃうの?」

 それも、彼のリクエストから始まった。

「左肩に乗ってるからときどき話しかけてあげて」

 話しかけてみる。

「すごく喜んでる!」

 虚言や妄想など微塵も感じさせない。

 霊視と聞くから胡散臭く感じるだけで、言いかえれば、人の想念や物のエネルギーを読みとる能力があるのだと思う。

 Aちゃんはバリバリの女社長で、素直で明るく真面目で、数奇な運命を生き、すべてを乗りこえてきた人だった。

 端から疑われたり、自分と波長が違うとまったく視えないそうで、視て!としつこくせがむ嬢に困りはてていた。


 母の居場所がわかった。

 母と私の共通の知人からの情報だった。

 彼女はすでに母と再会していた。

 その週末もAちゃんとサシで飲んだ。

 私は母との経緯を包みかくさず話した。

 波乱万丈なAちゃんは、これっぽっちも驚かなかった(笑)。

「今なら大丈夫!」

 Aちゃんはまっすぐ私の目を見た。

「お母さんの洗脳が解けてる。今が会うチャンスだよ!大丈夫……」

 Aちゃんは私の右手を自分の両手でしっかり包んだ。

『恨み辛みを超えていけ!』

 そう励まされている気がした。

 明け方のファミレスで、私はぽろぽろ泣いた。




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