第13話 局留め

 宅電が使えなくなった。

 自宅のポストに母宛で“電話加入権解約完了のお知らせ”の封書が届いた。

 名義人の母は例のごとく

「書け!」

と言われたから署名し

「押せ!」

と言われたから押印したのだろう。

 そのあとで、それをNが取りあつかい業者に売ったのだろう。

 携帯電話が主流の今では二束三文のそれも、当時(※二十年前)は高値で売れたのだろうか?

 宅電は社会信用の一部だった。

 それを突然取りあげられた私は、ひどく不都合だった。


 私には携帯電話が命綱になった。

 だが、その振りこみ用紙が届かない。

 当時、できる限り現金を手元に置いておきたかった私は、口座振替の手続きはせず、公共料金のほとんどを現金で振りこんでいた。

 だが、前倒しで送付されてくるはずの振りこみ用紙が届かないのだ。

 カスタマーセンターに問いあわせたが、送付済みだと言う。

 そこで、再送付してもらったが、支払い期日になっても届かない。

 しかたがないので、近隣のキャリアショップに出むいて支払った。

 どうも、何かがおかしい……。

 案の定、翌月も届かなかったので、ふたたびカスタマーセンターに問い合わせて再送付してもらった。

 おまけに母名義のガスや電気や水道料金の振りこみ用紙も届かなくなったので、再送付してもらった。

『誰かにポストを荒らされているのだろうか……?』


 原因が携帯キャリアではないとわかったので、郵便局のカスタマーセンターに問いあわせた。

「郵便物がポストに届かないんです。再送付してもらっても届かないんです」

「もしや局留めにされてはいませんか?」

「局留め?」

「局留めにされていればポストには投函されませんよ」

 当時、私は局留めのシステムを知らなかった。


 翌日、公的身分証明を持って管轄の郵便局の窓口を訪ねた。

 私が本人であることの確認を済ませ、局留めの手続きがされていないか参照してもらった。

 母の氏名で世帯全員分の局留めの手続きがされていた。

『なるほど』

 点と点がつながった。

 母に局留めの知識はない。

 またもや

「書け!」

と言われたから署名し

「押せ!」

と言われたから押印したのだろう。

「すみません。少し事が複雑でして……詐欺事件にかかわることなんですが……これを取りさげてもらうことはできますか?」

「承ります。ですがお母様が再度局留めを申請された場合、こちらで拒否することはいたしかねます」

「わかりました。では、そのときは連絡くださいますか?」

「かしこまりました」


 そのころ、近隣の住人から母の目撃情報があった。

「駅前を若い男を連れて歩いていた」

と。

 母宛の郵便物を回収するだけならまだしも、私宛の郵便物を窃取して破棄するという稚拙な嫌がらせは、Nの発想そのものだった。



 

 


 


 

 

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