第8話 合気道師範のスティーブン・セガール

 さて、軽音楽部の方であるが、私は先輩の、と言っても現役で入っているから、私と同じ年なのだが、ARBのコピーバンドに加入し、またしてもベースを弾いていたのだが途中で止めた。ギターではなかったからである。アルバイトは、清掃を始めた。印象に残っているのは、徹夜でやったパチンコ店の蛍光灯の洗い。客が、タバコを吸うため蛍光灯の表面は、茶色に汚れていた。脚立に乗りながらの仕事で大変だった。その給料でソープランドに同僚と行った。初体験だった。


 この年は、韓国民主化闘争があり、また、大韓航空の旅客機が北朝鮮の工作員によって飛行中に爆破されたテロ事件が起こったが、バイトで貯めたカネで韓国を一人旅した。フェリーの中で知り合った医学生と行動を共にして釜山を見て回った。ユースホステルでは、インドから帰ってきた人や天理大学の朝鮮語学科の人たちとも知り合いになり一緒に焼酎と甘辛いもつ鍋を食べた。


 ところで、このころ、私のその後に人生にまた大きく影響する出来事があった。貸しビデオ店で、アクションものの映画を探していたところ、発見してしまったのである。スティーブン・セガール(Steven Seagal)主演の刑事ニコ(Above the law)を。


 ワーナー・ホーム・ビデオのセガールのプロフィールには、『ニュー・アクション・ヒーロー、刑事ニコを演ずるのは、日本で柔道、剣道、合気道を修練して東洋武術のエキスパートになったというスティーブン・セガール。実際にCIAの特殊工作員として活躍た経歴も持つ』とある。


また、ウィキペディアから引用する。


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 7歳の頃に家庭の事情で日本に渡り、特に感銘を受けた合気道の武者修行に打ち込んでいた青年、ニコ・トスカーニは、中央情報局(CIA)エージェントのネルソン・フォックスにスカウトされ、特殊工作員としてヴェトナムに渡ったが、現地で行われる残虐な拷問を見て嫌気をさし、拷問を楽しむ同僚のゼーガンを殴り倒した末、CIAを退職する。


 心に傷を抱えてアメリカへ帰国したニコは、その後、犯罪都市シカゴで辣腕をもって鳴る刑事になっていた。行方不明の従兄妹を探すうちに大きな事件にぶつかることになる。精肉工場での麻薬取引現場に張り込んでいたニコは激しい銃撃戦の末、密売人たちを逮捕する。


 ところが押収物は麻薬のはずが、プラスチック爆薬のC4であった。しかも、逮捕したはずの密売人の主要人物2人が、証人保護プログラム適用者だと主張するFBIによって釈放されてしまう。憤慨したニコは相棒の女刑事ジャクソンらと共に引き続きこの捜査にあたるのだった。


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 「これは!」と、思った。家に帰って見ると、映画の冒頭、彼の赤ん坊のころからの写真に始まり、プロフィールが紹介されていくのだが、バック・グラウンド・ミュージックも素晴らしく、期待は胸で膨らんだ。


 プロフィールの最後は、「私は、合気道を稽古する夢を実現すべく、日本に渡った」と締めくくられ、本編に入るのだが、私は彼が師範と稽古をするシーンから始まると思っていた。


 しかし、いきなり彼が師範として現れ神棚に柏手を打ち、そして最初にある護身術を門下生の前で示す。その技はナイフを持った暴漢から身を守る技だったのだが、「あっ!」と私は驚いた。


 これは、入り身投げという技なのだが、まるで、プロレスのウェスタン・ラリーアートのような技で、合気道は、女性が稽古する軽い護身術のようなものだと思っていた私に、衝撃が走った。


 そして、門下生に技を説明する日本語の流暢さ。私は、また一発でファンになってしまった。この映画は、おそらく百回以上、繰り返してみていると思う。私は、この時なぜ大学の合気道クラブを見学しに行かなかったのか。


 大学のクラブのみならず、阪急電車の関大駅前から二つ離れた吹田駅には、大阪合気会の本部があるし、また、セガールが師範を務めていた天心道場が十三駅にあった。軽音を止めたのだから、合気道の稽古を始めれば良かったのだ。実に、惜しいことをしたと思う。


 ただ、家では是方博邦のギターコピー大会が開催されていた。また、この頃、マイク・スターンも知り、彼のギターのコピーにものめり込んでいた。田原とは、彼の車でも、六甲山によく行っていた。彼は、覆面パトカーが好きなようで、赤色灯を光らせながら、走行していた。

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