第40話 ACTION(中)

 きみとカホちゃんのお陰で平均年齢が若返り、元来の精神年齢の低さも相まって学生のノリで一夜を明かしたトリプルデートの翌朝。設定したはずのアラームが一向に鳴らないことに漸く気付き慌てふためいてキャビンの階下へ降りると、僅差で目を丸くする寝癖爆発野郎どもをよそにダイニングには朝食の準備が整っていた。各組の部屋に鳴動するであろうアラーム音を瞬殺し、栄養士を目指すカホちゃん監修のもと、カノちゃん達で用意したという。

 そうでした。

 我が女神たちは、そういうお人柄でした。

 日頃の感謝をたった一日で返せるはずもない。

 俺達が実に浅はかだったのだ。

 いつもありがとうございます。

 メチャクチャ美味い朝食をいただき、今度こそ後片付けと後始末を担い、どこまでもおさまり付かない寝癖と格闘して各組解散とする。しっかりと睡眠時間を取ったおかげで身も心も絶好調。相棒のターボエンジンもご機嫌麗しく唸りやがるぜ。


 さて、このまま帰るのも勿体ないので足を延ばして皇室御用達の高原へと向かう。成層火山の麓に広がるリゾート地には大小様々なテーマパークが点在し、疲れを癒やす温泉もこんこんと湧き出している。加えてアウトレットモールでショッピングも楽しめるとなれば一石二鳥どころの話ではない。

 我が故郷と同類項で括られるわりに見どころ満載な他県を褒めることになるとは悔しいことこの上ない。思わず『ぐぬぬ……』と唸っていると―――、

「お疲れ様でした、あっくん。とーっても楽しかった。まだまだ、遊び足りないくらい。皆さんも優しくて素敵な方ばかりで、『類は友を呼ぶ』とはこの事なのだと大いに実感した二日間でしたよ」 

 嫉妬でねじ曲がる俺の心を、軽やかに奏でる喜びに満ち溢れたきみの声が正しく整えてくれました。

 ありがたき幸せじゃ~~!

 幼馴染みへの好感度も高く、胸をなでおろす。

「カノちゃん連れで一堂に会するのは初めてだけど、即刻打ち解けて滅茶苦茶盛り上がったんで安心したわ」

「おや、中学・高校のアオハル時代にトリプルデートはしなかったので?」

「俺がイマイチなのもあるけど、アイツらはちょっと特殊な立場だったから、さ」

「それは……中学の同級生だったリカコさんがうっかり呟いた、市街地一帯を谷田部さんの為に土台作りに励んだ前世代、という話?」

「ウッカリにも程があるな、大野さん。でも、勘違いしないでくれよ。喧嘩に明け暮れるヤンチャ共に目を光らせて抑えていただけで元ヤンでは無いんだ、アイツ等は。ただ、俺と共に幼い頃から嗜んできた合気道が思わぬ効果を生んで中学の取っちゃったから、その後も殺伐とした高校生活を送らざるを得なくてさ。万が一、狙われて被害が及ぶよりはアオハル捨てた方がマシだ、と言って彼女を作らなかったんだよ。ああ見えてクソ真面目だよな」

「ふふふ、そういうところも似ているね」

「善良な一般人の俺が同じ括りにされて、喜ぶべきところかな、これ?」

「そのまま褒め言葉と受け取ってください。それに、イマイチだなんてとんでもない。この世にただ一人の、最高の〈〉さんですよ」

「まーくん達の受け売り〈しい〉(※)か……てへへ、ありがとさん。接客従事者が多いから都合が合いづらいけど、また企画するわ」

「うん、楽しみにしているね」

 車内は、気分爽快のきみの笑顔で溢れている。

 意気投合して早々に連絡先を交換したカノちゃん達は、最後に名残惜しく抱き合った後、近日中に女子会を開く約束を取り付けたようだ。

 その微笑ましい様が、もう堪らんのよね〜♪

 バーベキュー後の運動が交流を深める要因の一つとなったのも、実に喜ばしい。


「でも、よくあの企画を思いついたね。テニスコート完備の施設でジャージ持参、となればやることは一つでしょう? 実は、足手纏いにならないか不安で気が気でなかったのだけれど……」

 交際前の雑談で知った『球技全般が不得手』と言うのは事実らしい。しかも、過半数が経験者とくれば萎縮するのも無理はない。だが、そんなきみの心配をよそに行われたのは合気道の体験教室ときたから、それは驚きもするだろう。

 確かに、当初はテニスを楽しむ予定であった。何せ、下心丸出しでも合法扱いの密着密接を謀りながら部活動の経験を発揮できるのだ。いくら万年補欠とはいえ、やらない手はない。 

 しかし、大型連休は夏休み最終週末と同等に曲者だった。全八面のコートはどの時間帯も既に先約済み。併設のグランドゴルフに興じるのはさすがに渋すぎる。斜面利用のアスレチックも冒険心を擽られるが一巡すれば十分で、どうにも時間が持たない。さてどうしたものか、と野郎どもが顔をつき合わせて悩みに悩み抜いた結果が前述の案なのだ。

 それにほら、カップルで組めば自然な動機づけで容易く寝技に持ち込め―――ンンンッ!


 実は、俺としては別の理由があった。例のクズ男事件を経て、万一に備えて自衛策を講じるべきだと痛感したのだ。ただでさえきみは身長が155cmとやや低めで線も細く控えめな風貌だ。拉致られたらひと溜まりもない事は不覚にも既に実証されている。

 素人に三本ほど毛が生えた技量で指導するなど自惚れでしかないが、武道に触れることで心構えが出来て危険回避に繋がるならばその知識は有するべきだし、その後の追っかけクズ野郎をガン無視するほどにしたたかなきみのささやかなる暴走の抑止力にもなるならば決して無駄ではない筈だ。盗撮犯を追い詰めに行く度胸も備えているならば、尚更。

 そして何より、長年培って身に染み付いた知識と経験を余すところ無く差し出して全身全霊できみを守りたいのだ。守り守られ論争よ、どんと来い!

 記憶を呼び起こす恐れがあるのは、十分承知の上だ。しかし、どうしても譲れないこの考えを幼馴染みに相談したところ二つ返事で賛同してくれたのには感謝の言葉しかない。改めて言わんけど。


 とはいえ、武道は決して甘くない。

 素人が数時間で駆使できるわけでは無い。

「護身術とは言っても力技の男女差は歴然だから慢心しないこと。絶対に立ち向かわない。即刻逃げ出して助けを呼ぶ。これ、基本だからな」

「手心を過分に加えたあっくんの攻撃でさえ四苦八苦すると身をもって知ったので、無茶なことは致しませんし、そもそも出来ません」

「良い心掛けです。口いっぱいに頬張る痩せの大食いさんも、身体が小さけりゃ体験の時みたいに簡単に抱えられて連れて行かれちゃうもんな」 

「もう、そういう事を敢えて言わないで!」

「わはは!」

 どの言葉を選んでも記憶と繋がってしまう注意喚起が笑い話にできるくらいには傷も浅いようで、その都度ホッとする。

 同時に、幼い頃からの嗜みが他人ひとの役にも立つという事が喜ばしくも誇らしい。周囲と比較しては『上達しないから辞めたい』と泣き喚いたあの頃に踏みとどまった自分を褒めてやりたい。

 お陰でこんな幸せな時間を享受できるのだ。 

 イベント直前の出来事などすっかり忘れてしまう程に―――。



 ◆ ◆ ◆



 この度は当作品へお越しいただき、誠にありがとうございます。

 文中の【いとコ(※)】について補足をば。

 詳しくは、

 『YOU&I』

 第3章 第4話 「いとコ(上中下)」https://kakuyomu.jp/works/16816452219104535976/episodes/16816452219386244834

 をお読みください (⁠◠⁠‿⁠・⁠)⁠—⁠☆

 結局、丸投げか〜〜いっ!!

 こちらでも年の差カップルの日常を投稿中。

 その内容とは?

 ↓   ↓   ↓

 交際開始から一年半。激重感情を押し殺しライトに振る舞う笑顔満載アラサー・まーくんと、キス止まりでやきもきする高身長ボーイッシュ女子・カホちゃんの前に元カノらしき女性が現れて……という、愛の受難到来な回です。

 若干停滞中ですが、よろしくお願いします〜♡

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