第5話 老騎士と冒険者





 サラミスの街へ向かっていると、3人の冒険者風の男女に出会った。


「ちょうどいいところに来ましたな」


「おじさん、もしかして元冒険者だったりするのかい」


「ルビーの姐御、あっしなら平気です。・・・イテテッ」


話しかけてみると、どうやら困っているらしい。


1人は壮年の老騎士って感じだ、腰は曲がっておらずピンッとしていて背筋が正しい。プレートアーマーの上からなので分からないが、がっしりした体形をしていると思う。前衛向きってやつだな、鍛錬は欠かさずやっていそうだ。


「ワシの名はグレン、バーミンカム王国の騎士じゃ」


「騎士様でいらっしゃいましたか、私は田中次郎と言います、旅の者です」


「タナカジローか、」


そうか、日本人の名前なんてこの辺では聞かない名だものな。


「あ、ジローで結構です」


「宜しくな、ジロー殿」


「はい、宜しく」


「旅人?歳くってそうだからてっきり元冒険者かと思っちまったよ」


「ハンドアックスで武装してますしね」


2人目はこれまたえらいべっぴんさんだ、25歳くらいの女性冒険者って感じだ。燃える様な赤い髪、切れ長で赤い色の瞳、鼻筋も整っていて濡れた唇が印象的な艶のある知的な女性だ。魔法使いだろう杖ととんがり帽子、ナイスバディで露出度の高いローブを着ている。つい目が胸とか足にいってしまう、あまりジロジロ見るのは失礼だと分かっていても。


「あたいはルビー、冒険者さ、クラスはメイジだよ」


メイジか、魔法使いって感じだ、確か中級職だったよな。


ソーサラー、メイジ、アークメイジの順番でクラスアップするんだったか。


俺も魔法スキル使ってみたい、せっかくの異世界なのに魔力0って。


「あっしはゲイル、ご覧のとおり足を怪我しちゃいますが、盗賊シーフでさ」


今喋ったのが3人目の男性冒険者って感じの人だ、年齢は20代前半かな、クラスは盗賊か、偵察などの斥候スカウトの役目を担う結構重要な職業だ。


足を怪我しているらしい、盗賊にとって足さばきが悪くなるのは致命的だ。


騎士グレンが腕を組み、俺に説明しだした。


「我らはこれからドム遺跡に行くところだったのじゃが・・・」


ドム遺跡か、ゲーム知識が確かならここから近かったな。


「ゲイルのやつがモンスターに足をやられちまってね」


「すいやせん、ルビーの姉御、ドジふんじまって・・・」


「別に気にしちゃいないよ、無理すんじゃないよまったく」


ルビーさんは仲間であろう男のゲイルさんを心配している。


騎士グレンさんは草原を眺めながら唸った。


「しかし困ったのう、このままでは前にも後ろにも行けんわい」


騎士グレンさんの言葉に、ルビーさんは慎重に声を掛けた。


「騎士グレンさんや、無理は出来ないよ、ここは街に戻るべきだ」


「しかしのルビー嬢、ワシの仰せつかった任務は急ぎなのじゃ、早ければ金ははずむぞ」


「命の方が大事さね、それにこのまま待っていれば街道警備隊が来るはずさ、そいつに頼んでゲイルを運んでもらった方が安全だよ」


「街道警備隊?そいつが来るのは夕方頃じゃ、それまで待っていられんわい」


なるほど、それでこんな所で立ち往生してたのか。


ドム遺跡は2階層までの簡単なダンジョンだったはずだ、ゲーム通りなら・・・


とはいえ、斥候スカウト抜きでダンジョンアタックは危険度は高い。


「あの~、よろしいでしょうか、盗賊抜きで遺跡に潜るのはやめた方がいいと思います」


「へえ~、わかっているじゃないか、そうゆう事さね騎士グレン、ここは帰るべきだ」


「う~む、しかし・・・」


そこまで話していて、ゲイルさんが傷を押さえながら話し掛けてきた。


「ルビーの姉御、あっしの事はいいですから、ここで待っていれば街道警備隊に拾ってもらいやすから」


「その間、もしモンスターに襲われたらどーすんだい」


「せっかく騎士様に雇ってもらったんでしょ、どうぞ行ってくだせい」


「でもねえ・・・あっ、そうだジローさんや、あんた一人で旅をしてきたんだろ」


不意に話をふられた。


「え~と、そこまで旅をしてきた訳ではなくて・・・」


「そうじゃジロー殿、ひとつ頼まれてくれんかの、な~に大した事じゃないわい」


何だか雲行きが怪しくなってきたぞ、この流れは・・・


「っと言うと」


「ドム遺跡までついて来てくれんかの」


やはり、そう来たか。


「ええ~、なぜ私が、ここはゲイルさんの護衛とかじゃないんですか」


「あっしなら大丈夫でさ、ここで待っていて街道警備隊に拾ってもらいやすから」


そんな事言われてもなあ。


「だからっていきなり過ぎますよ、それにモンスターに襲われるかもしれないって先程言ってませんでしたか」


ルビーさんが言う事も正しい。もし怪我人をここに放置して、モンスター等に襲われたら大変だ。


「持ってきた回復薬はこれ一本だけなんだよ、ここでゲイルに使っちまうと遺跡探索に支障がでちまうだろう」


「いやいや、さっきと言ってる事違いませんか」


騎士グレンさんも俺を同行させるのに積極的な感じだ。


「安心せい、荷物持ちだけやってくれりゃあええわい」


「私はレベル1なのですが」


「れべるいち? 何を言っておるのじゃ?」


なに? レベルの概念を知らないだと、どういう事だ?


「まあええわい、さあ、荷物を持ってさっそく出発じゃ」


「いやいや、まだやると言ってませんけど」


「報酬は出すぞい」


・・・報酬か、そういやこの世界のお金って持ってなかったよな。


どうしようか・・・・・・この世界のお金は必要だろうし、この人達に協力すれば報酬としてお金が手に入る、か・・・やってみる価値はあるな。


「わかりました、荷物持ちで良ければ・・・」


「おおそうか、やってくれるか、いや~助かるわい」


「いいかいゲイル、絶対にここを動くんじゃないよ、いいね」


「分かってますってルビーの姐御」


やれやれ、サラミスの街へはまだ行けそうにないな。




おじさん付いて行くしかないのかな





 




 

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