8話 雨は流れて水溜り

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「アチッ…!」


 タバコが燃え尽きたことに気づかなかった…。

 夢を見ていたみたいだ…何か悪い夢を。

 ユウは、震える手で手首を撫でて、目を瞑る。


 あの仄明るい夜。

 ハルカが何を苦しんでいたのか、分からなかった。

 それでも、忘れたくなくて…。

 シノブに貰った初めてのタバコ。


 火が消えた後も、色濃く残った不愉快なニコチンに、シノブの嘆きを思い出す。


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「あのときこうすればよかったって、よくあたしも思うけどさ…

 そういう後悔とか反省する気持ちがあるうちは、少し安心するんや…まだあたしは大丈夫やって…


 だって、後悔は未来があるからすることやろ?

 前を向いてるから、振り返るんやろ?

 なら、まだ前に進めてるんやん!


 …だから、まだ諦める必要はなかったやん…


 ハルが居ないのは辛いけど…あたしはハルのこと忘れないし、許さない…。

 でも…だから…」

 シノブの眼から、ポロポロと涙が溢れ出す。


「私は逃げずに、生きていける」


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 あの夜のことは忘れられない。

 何にも答えは出なかったけど、自分もハルカに想いを馳せたこと。

 会ったこともない彼の苦痛を考えたこと。


 今、自分の抱えてるモノが、ハルカのそれと同じかどうかは、分からないけど、投げ出すワケには行かない…。


 二人の苦悩を目にしたから。

 もう会えない苦痛、遺される哀しさ。

 生きることが辛くても。

 遺された人の哀しみを知っているんだから。


 それに、雲は光を遮るばかりじゃない…。

 今、終わらないことが、あの三人・・との仄明るい夜の意味になる。

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白さ知らず散る青 おくとりょう @n8osoeuta

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