第5話

 それから2週間がすぎています。一羽だけになった子ガモも、生まれた時の二羽分ぐらいの大きさになっています。もう、カモの家族は川にも入りません。草むらにも近づきません。川のそばにある神社の境内の広いところですごしているのです。これだったら、今までみたいに危ない目に合うことはありません。

 さらに3日後の、日が昇る前の朝早くのことです。カモの親子のことを一番心配している川のそばに住んでいるおばさんが、すさまじい羽音と鳥の泣き声を聞くことになります。おばさんは慌てて家を飛び出し川の方を見ます。

「グワーグワー、グワーグワー」

 まだ明るくなりきれていない中、ばたばたと音がして、何か黒いものと白いものが境内の地面のところでもめているように見えます。近づいてよく見ると、大きくするどいくちばしを持った黒いカラスとカモ二羽が戦っているようです。そうです。カラスが一羽の子ガモをねらっていたのです。人の気配を感じたカラスはすぐ飛び立ちます。カラスの大きな爪のある足には、あのかわいい子ガモがつかまれています。苦しそうに、

「ピーピー、ピーピー」

と、声にならないような鳴き声を出しています。その姿は、みるみるうちに空高く舞い上がっていきます。

とうとう子ガモは、みんないなくなりました。

 恐ろしいことが起きても流れだけはきれいないつもの川面です。二羽の親ガモは、今でも悲しそうな目をして、一緒に泳いでいるのです

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かわいそうなカモの親子 @shunkotoku

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