第5話 不思議な少女

 女の子が顔を上げて、零矢の姿を確認する。

 またあの時みたいに目を覚ましてしまうのではないか……零矢は不安になったが、どうやらそれは杞憂だった。


 瞳が妖しく光る笑みを作ったその子は、ふわりと身体を浮かべ――その瞬間、彼女の足がうっすらと半透明になる――零矢のもとへとやってきた。


「大丈夫?」


 いや大丈夫じゃない。

 さっきあいつの尻尾がおれの左肩に突き刺さってご覧の通り……と言おうと思ったところで自分の肩を見ると、特に傷口などは見当たらず痛みも消え、服すらも破けていなかった。


 あれ。

 どう……なってるんだ……?


「だ、大丈夫です」と答えるしかない零矢。


「危ないところだったね」と、彼女は言った。「この辺は〈夜蝕体よしょくたい〉が活発みたい。血の匂いを嗅ぎつけたサメみたいに飢えて興奮している。よっぽど美味しそうな〈可能性〉を見つけたんだろうね」


 彼女は「ね」と繰り返して首を傾げ、零矢に同意を求めてくる。しかし零矢は、そこで使われた言葉の意味がよくわからなかった。


 よしょくたい……?

 可能性?


 どう反応しようか困っているうちに、急に彼女はキッと表情を変え、先ほどのバケモノを睨みつけた。


「ごめん脱皮した。くそう。核を潰せてなかったか」


 チッと舌打ちをして、ふわりと態勢を整える。

 そしてその細くしなやかな指を伸ばすと、その先に光の胞子が集まりはじめ、やがてそれは細身の剣へと姿を変えた。


「今度は倒し切ってやる。……手伝ってくれるでしょ?」


 高度を下げかけた彼女が振り返り、好戦的な上目遣いで零矢に微笑みかける。


 ……そんな風に言われたら、断れるわけがない。

 なにより、今まで願いに願っていた再会だ。


 零矢はその想いに身を委ねて頷いた。


「ありがとう。私はノフイェ」

「おれは零矢」

「よろしく、零矢」

「よ、よろしく……」


 ノフイェ……

 その不思議な雰囲気によく合った、不思議な名前だった。

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