ヘブンという街で

ミコが自分の部屋のドアを開ける。


「ヘイ! パスパス!」

「よしゴール!」

という声が飛び交っている。

ミコの目の前をサッカーボールが過ぎる。



「ミコちゃん! ヘイ! パス!」

「いやパスじゃなくて! 廊下でサッカーしないでって!」


全身タトゥーだらけの男達が上半身裸でサッカーをしている。なんで廊下で? という率直な疑問は口にしない。

いちいちうるさそうだ。もうすでにうるさいし。



そんな男達をあとにしてミコはホテルを進む。


セクシー系女子が流し目で通り過ぎていく。

昨日はゆるふわ系と清楚系な女子とすれ違った。

ロックな姐御も見たな。

まあラブホテルなわけで当然男女共にいろんな人を目にする。


セディショナリーズ関係者だったりいかがわしい行為に呼ばれてる者だったり、ただの客だったり。



ずっと平均的な日常を過ごしてきたミコには刺激が強めの毎日。




ホテルから出たらさらに刺激は強まる。


あらゆる欲望を飲み込み満足させるための施設がひしめき合っている街。

そういった刺激はあるが世間一般で信じられてるような犯罪街……5分に1件事件が起こる街、なんていうのは単なるイメージで都市伝説だとわかる。



セディショナリーズのお膝下だからついた勝手なイメージなんだろう。

住んでみるとむしろ安全。



完全にセディショナリーズの威光が行き届いており、下手なことをしようっていう者がいない。

ここで変なことをすればすぐに空飛ぶ守護者、ハチに見つかって餌食になることがまるでルールのように浸透している。

ハチはいつでもブンブンブン。



周辺の店はほとんどがセディショナリーズに何らかの関係もあるしその中で悪巧みをするような命知らずはいないってことだ。

ただまあそのセディショナリーズが悪事を働くから品行方正な街とは言えないが、本拠地だけあって警備も万全なのでよくある抗争も起きない。


一言で言って住めば都とはよく言ったものだな~、というのがミコの素直な感想になっている。



ミコがそんな街を歩けば、路上でタムロしている街賊がいぞくが気さくに声をかけてくる。



「やあ~ミコちゃん、今日はデート?」

「おっ! ミコ! 今度制服着てきてよ」

「はーいミコ~。お金貸して~」



ヒコの妹であることも周りに伝わっていってる。

もう身内のような空気感。



「ミコちゃんパンツみせてー」

とか言ってるヤバい奴もいるが。





ナヨっとしたミコよりも年下に見える男子がスケボー片手に、

「ミコちゃーん」と手を振る。

屈託のない笑顔が眩しいが街賊セディショナリーズの1人だ。 キレると手がつけられない奴でファイヤーボールという異名を持つ。

ミコはなんとなくよそよそしく挨拶。笑顔がひきつってる。




「あの子、いえ、ファイヤーボールは……実を言うとバズコックという多元界たげんかい内の世界の人種ですよ。ああ見えて私の倍は生きてます」


と、どこからともなく現れたカノンがミコの斜め後ろから耳打ち。

突然のことでミコは身体がビクリと反応。



「ちょっ! 急にやめて! ビックリするからー……ってえええ!? あの子多元界人なの! うっそー!?」

とビッグリアクション。

そりゃ仕方ない。どこからどう見てもニンゲンの少年だ。スケボーも上手い。



「ええ。あまり大きな声では言えませんが……。バズコックは何度も侵略されかけて世界としては貧困なところです。難民が他の世界の奴隷扱いを受けるような」

「うはー……」

多元界だとか言って壮大そうに構え、まるで別世界のようだけど、それでも同じようにある諸問題。


どこだって、変わらない。同じだ。

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