EPISIDE 2nd ◢◤ 片鱗

ホテル・ヘブンの事

超快適。


もうインチキ中国人の名前みたいな言い方で言っちゃう程、チョウ・カイテキ。



それがホテル住まいを始めて1週間経つミコの率直な感想。



食事はルームサービスのように部屋に運ばれて来るし、衣服や雑貨、必要なもの、欲しいものはすぐ届けられる。

ネットショップも使い放題。支払いは街賊がいぞく払い。

まあそれってなんだって話だけどとりあえずは払ってもらってる。

どんなお金かは聞くのが怖いので聞かないことにする。うん、それでいい。

臭い物にはどんどん蓋をしていこう。



で、バスルームも広くてつい長風呂をしてしまう。

ベッドも大きくてフカフカだ。

これは……もう……抜け出せない。



ヒトをダメにするホテル! というか特別待遇。

ラブホテル暮らしなんて! と憤慨していたミコはもうすでにそんな気持ちは消え失せ、完全に飼い慣らされた犬のようにこの生活を満喫していた。



学校は進学が決まった上に卒業が控えてるということで、ほとんど自由登校状態で毎日をダラダラと過ごしている。

つまり四六時中ダラダラダーラ。



ただ、部屋の暮らしぶりはある意味セレブ状態ではあるが、そこから一歩出ると目眩を覚える事が多々あるのも確かだ。



ここは、ヘブンズエンドと呼ばれる最大の繁華街ヘブンの中のさらにディープなスポット。

そこをホームにしている街賊・セディショナリーズの本拠地。そしてこのホテルが王の城となる。

まあ、まともなわけがない。




いかがわしい人々が出入りするし、明らかに悪者然とした輩が闊歩する。

政治家や企業のトップ、芸能事務所の社長などがお忍びで絶対世間に公表できないような事をするのにも利用している。

変態極めたアレやコレや、裏取引、黒い接待……。これがいわゆる上客。

街の知事を務める西中島にしなかじまとかいう議員も常連のようだ。

ブクブク太った豚のような奴。

脂ぎってまったくいろんな意味でこの街に似合っている。

でも人には言えないナニカでもそれを愛してるなら情熱を注ぐのも人の性。咎めたって仕方ない。


ヒコは、そんな状況を

「まあ誰が利用しようが使いたきゃ貸すし。客だからな。敵じゃなきゃどうでもいいよ」

と緩いテンションで欠伸をしていた。



ちなみにそんなヒコはあれからほぼ5日寝ていた。起きてすぐは象並の量の食事を一気にとっていたが。

すべてが規格外。

一番の規格外はそれで傷もきれいさっぱり治っていることだが。

ほんとに治るんだな。

一日でとはいかなかったけど。




これがロザリア人が持つ能力のひとつ。

王族だけでなく全ロザリア人が持つ。

不死の肉体と呼ばれてるモノ。

どんなに傷だらけになろうが、個体差はあるがその驚異的な治癒能力で回復する。

グリッスルなら今回のヒコのような傷を負ったとしてもおよそ1日あれば完治するだろう。

たとえ身体がバラバラになろうが時間さえあれば回復する。

だから不死と呼ばれる。



ヒコの場合は、完全なロザリア人ではないから5日かかった。

そんなわけでヒコは自らが血に塗れることを厭わない。

いくら血を流そうが何度でも蘇る! だったら臆することはないってやつ。



ホテルにはそんなヒコのように

血塗れの若者が数人慌ただしく運ばれて来たりもする。

病院でもないのに救急病院かと間違えるような時もある。

実際地下には手術設備もある、らしい。

常に何か起こっているホテルだ。



そう、何かしらね。

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