第25話

 初めまして。

 ああ、正確には全くはじめましてじゃないんだけど、形式的にって言うか話したのはこれが初めてだから初めましてでいいよね。


 自己紹介はいるかい?僕はなんだけれど。

 そうだよ。。過去の、が記憶を失う前の僕、いわば過去の人格ってやつさ。

 なんで出てきたか?それは、これから僕がする話を聞けばわかる事だ。それともは結果だけ聞いて全くわからない状態から最初に戻るのが好きなタイプかい?

 それはそれでありなのかもしれないけれど、今回の語り手は僕なんだ。僕の語り方を貫かせてもらうよ。

 じゃあ、たのしい、たのしーいお話の、はじまりはじまりー。


 え?キャラじゃないって?そうかもね。僕はいま、テンションが上がっているんだよ。

 なんせ、ようやく出てこれたんだからね。


 ……もうそろそろ、聞きたいことはいいかい?あっても話を始めるんだけどさ。


 ――確かあれは、僕が、十歳になったかなっていないかの、つまりは小学四年生位のことだ。

 当時、僕はかわいいものが好きだった。かわいいものを身に着けたり、集めたり、そういうことが好きな変わった男の子だったんだ。


 いや、一応言っておくけど性同一性の何たらとか、そういうものではない。

 僕は正しく自分を男だと認識していたし、周りもそれを分かったうえで、『個性』として容認してくれていた。

 周りには、かなり恵まれていた、ということだろう。


 さて、そんな僕にはもちろん家族がいる。

 当たり前だよね、親なしに生まれる子供なんていない。自然の摂理だ。

まさか、その年になってコウノトリが運んでくるとか、信じてないよね?

 でもね、ただ両親がいただけじゃない。兄弟――というか、姉が、一人だけいた。


 僕の姉は、まあ僕が言えたことでもないが、大して素晴らしい人間ではなかった。

 わがままで横柄、そのうえめんどくさい性格の姉を僕はあんまり好きではなかった。

 まあ、三つ違いの兄弟なんてどこもそんなものなんじゃないかな。うん。わかんないけどね。


 そうそう、僕と姉は三つほど年が違う。ちょうど僕が小四の時に中一だった。


 さらに僕の家庭内事情を話すとするならば――もしかして、早く本題に入れ、とでも思っているのかな?

 慌てないでほしいな。この話は本題の入る前の布石、もっと言うならば事前知識であって、僕はこのまま話しても何の問題もない。

 それどころか話す必要さえないのだから。


 ただ、記憶の混濁で忙しくなってしまっているの頭を整理するためだけに言っているにすぎないんだよ。

 それなのに僕に文句を言う、なんてのはただの自己矛盾に過ぎない。も、そう思うだろう?


 だったら、もう文句はないね?

 じゃあ、話を続けようか。


 えーっと、どこまではなしたっけ。……ああ、そうか、僕の家庭内について、だったかな。

 僕の両親が共働きだった。

 仕事の内容――は、この話と全く関係がないから置いておくけれど、とにかく僕の親は夫婦共働きだった。

 いわゆる、職場内結婚って奴だよ。


 ああ、もう一つ、事前知識を入れておくとしたら、僕のその時の服装についてかな?

 僕が可愛いものが好きだった――ことは、さっき言ったね?

 そんな、女の子っぽいものが好きだった僕は、さっきも軽くいったと思うがもちろん女の子っぽく着飾っていた。


 赤いランドセルに、ピンクのスカートに、髪の毛は長く伸ばして編み込んで……まあ、小さかったからこそできたことだが、僕は本気で毎日それをやっていた。

 みんなと違うことで不安を覚えたこともあったけど、否定されたことはなかった。

 だからこそ、あんなことになってしまったんだけれど。


 ……ああ、事前学習はこれくらいで十分か。

 まあ、学習って言っても僕の知識をおつむの弱ーいが忘れてくれたせいで今まさに思い出そうとしているだけなんだけれども。


 まったく、体に脳はひとつしかないんだから、そう軽々しく無くさないでほしいものだなぁ。僕だけの記憶出ないのと同じようにだけの記憶でもないのだから。


 ――さて、じゃあそろそろ昔話を始めよう。何、いやだ?……いい加減諦めてくれよ。何度も夢の中で語り掛けた。この世界に来てからも生活のいたるところに思い出すカギが存在した。

 そのカギが合わさりすぎて、いま僕はこの話を聞いているんだろう?


 だから、いい加減目を背けることなんてできないんだよ。

 だから、話を始めるよ?


 僕の姉の話から、物語に入るとしよう。

 さっきわがままだ、横柄だ、とかいろいろ書いたけど特筆して言えるのはやはり一つだけ。

 僕の姉は、とっても、とっても独占欲が強かった。


どのくらいか、聞きたいかい?聞きたいよね?教えてあげるよ。


 姉の持っているぬいぐるみで遊ぼうとしたら殴られたこともあった。

 服のおさがりなんかも、もちろんもらえなかったし、確か、母親がお椀を間違えて僕が使ってしまったときは、フォークで刺された。

 頭だから傷も見えなかったし、まだ力の弱いころだったから浅い傷で済んだんだけど、怖かったな。

 まあ、とにかく、そのくらい独占欲が強かった。


 自分のものを他人に使われるのを嫌い、暴力すらしてしてしまう。

 両親も困っていたようだし。


 実際、幼稚園でもお気に入りのおもちゃを使った子を殴ったりとか何とか、いろいろやっていたらしい。恐ろしい子供だ。

 まあ、そんな姉も中学生になって確か二学期くらいかな。彼氏ができた、と内緒で僕に伝えてきた。

 それはそれは嬉しそうに。


 これ、別れるときとか、不倫してたときとか、血を見ることになるな、と思ったのを覚えている。

 今まであんな嬉しそうにしているのを僕はほとんど見たことがなかったし、それがほかの人に取られてしまう可能性があるものだったのは初めてだった。


 ここまで行ったら大体わかったと思うんだけど、でも、僕は最後まで話そう。なぜなら、それがにとっての思い出すという行為なのだから。

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