第18話

 十階層到達。


 とはいえ、特にやることは変わらない。

 ハンマーを振り上げて振り下ろすだけだ。


 最初の方はオークの睾丸とか集めようとしてたけど、どんどん溜まって生臭いしグロいし、別に大金になるわけでもないので捨てていった。


 強行軍になる以上、大事なのは儲けよりも精神だ。


 なぜ強行軍にするのか、と言うと十階層で徘徊しているボスを倒すとそこから十階層分が初めにダンジョンに入るときに何階層に行けるか選択できるようになるらしい。


 例えば、今回だったら一階層から十階層まで自由に行けるようになるって感じだ。


「よっし、ようやく十階層到達か」


「長かった……」


「だからこそ急いで来たんだろ?ゆっくりやってたら日が暮れるどころか明けちまうぞ」


「まあ、そうだけど」


「それに、対して代わり映えもないしな」


 一階層で一ヶ月粘ってた野郎がなんか言ってやがる。

 この前と言ってたこと真逆じゃないか。


 とはいえ暇だったのは事実だ。

 九階層までは出てくる魔物も全部おんなじらしいし。


「それは確かに」


「ああ、そうだ。ここで新しく出てくる魔物の説明しないとな」


 そう、これだ。一応神様wikiには載ってるけど見ていない。

 ダンジョンぐらい初見気分を味わってもいいじゃない?


「ん、楽しみ」


「楽しむようなことか?十階層から出てくる魔物、それは」


「それは?」


「それは……」


 ごくり、喉の音がなった。

 なんならスネアドラムのロールの音がいまにも聞こえてきそうな雰囲気だ。


 どぅるるるるる……じゃんっ!


「オーガだ!」


「おーが」


 オーガって鬼?

 そこそこ強いけど対して苦労しなそうな印象がある。


「身体能力は高いがそれだけだな」


「特別な能力とかは?」


「何もない。まあ十階層だしな。ちなみにここのボスはオーガを束ねるオーガリーダーだ」


 初めのボスなんてその程度だろうか。


 オーガのリーダー?

 特別な能力とかなんもないやつらの中のお山の大将か?


「オーガはまあ、今まで通りの方法で殺せるだろうが、オーガリーダーはちょっとばかし強いぞ」


「特別な力ないんでしょ?」


「確かにそうだが、あいつはリーダーっていうだけあって頭がいいんだよ」


「魔物のくせに」


「魔物のくせに、戦略を用いてくるから、油断してたら負けるぞ」


 戦略なんて考えられるのか……

 ただ何も考えずハンマーを上げ下げしてる俺と比べたら雲泥の差だな。


 あれ?俺、魔物以下……!?


 知りたくなかった事実に、思わず両膝の力ががくりと抜けた。

 そして必死に手で体を支え、四つん這いの姿勢になった。


「だからオーガリーダーは……って何してるんだ……?」


「嫌な事実に気づいただけ」


「どんだけ嫌だったんだよ……」


 だって、魔物よりバカってことが証明されたわけだろ?

 そりゃ嫌だし悲しくなるわ。


「と、とにかく、オーガリーダーには警戒すること!っと魔物来たぞ!さっさと起きろ!」


「言われなくても起きた」


 魔物の足音はとっくのとうに聞こえていた。

 いつもより土が近くにあるのも理由かもしれないが、今回は気づくのが速かった。


 現れた敵は、ゴブリンとオーガの混成部隊だ。

 ゴブリンが三体、オーガが二体。


 それにしても、これがオーガか。

 デブを身長伸ばして肌色を緑にして顔を下品にした感じだ。

 あまり大きくないが、角もついていた。


「また違う魔物同士の仲間編成……?おかしいな」


 薬屋は小さく呟いた。


 また、というようにこの違う魔物同士の部隊と戦うのは初めてではない。

 二階層でもあったが、その後も上がれば上がるほどにそれに会う頻度は上がっていっていた。


 その度に薬屋は不審がっていた。


「まあ、それは後だ……シルヴァ、ゴブリンを頼むっ!」


「オーガは?」


「もうちょいマシな敵の編成に会ってからだな」


「むう、残念」


「せめて最初は一対一で戦ってほしいから」


 安全マージンってやつだろう。

 仕方ない。


 そうして俺は、ハンマーを持つ手に力を込めた。

 試してみると、オーガもまだ薬屋の能力値には勝てていないようだった。


 ハンマーは持ち上げられるけど、楽々とは行かないぐらい。

 意外と弱いんだな。

 ……もしくは、薬屋じみに強い事件?


 仕方ないので、いつものように薬屋ヘイトモードだ。

 薬屋許さん薬屋許さん……よし、これでスキル発動した。


「……なんか寒気がしたんだけど」


「気のせい」


 何事も気にしたら負けである。

 魔物がもっと強くなったらやらなくなるんだし、今くらいはね?

 我慢していただきたいところだ。


「そぉーれ」


「グギャッ」


 また一匹、肉が叩きつけられたような音と短い悲鳴と共に、ゴブリンがシミに変わった。

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