第6話

「バハハハハハハァッ!」


 華奢で可憐な美少女は今、腕だけやたら筋肉もりもりのマッチョウーマンへと変わっている。


 新種の魔物と言われても信じてしまいそうな姿に、流石のカールも憐れみの顔を向けざるを得なかった。


 ちなみにA1、A2では身体能力上昇の効果がいまいちだったので、最新作であるA3ではより一層強化されるように頑張った作品でもある。


 その分副作用の効果も強くなってしまったのは予想外だったが、A4を作るときはその辺りを課題としていこうと思う。


「ウゥゥゥゥイゥ!」

「――ハッ」


 ドドリアさんを飲んだ少女が肥大化した腕を振り上げ、カールに迫る。


 その動きは俊敏で明らかに普通の少女に出せる速度ではない。


 考え事をしていたカールは反応が遅れ、一瞬体が硬直してしまった。不味いと思うよりも早く、間近に迫った美少女モンスター(仮)の拳が目標を粉砕しようと振り落される。


「ウガァ!」

「オッホォゥ!」


 ギリギリ転がる事で避けたその拳は、そのまま止まることなく石タイルで出来た橋に突き刺さる。


 瞬間、まるで火薬が爆発したかのような激しい破壊音と共に、タイルは粉々になった。


 恐ろしい破壊力だ。もしこんな一撃が当たれば、貧弱なカールの肉体など地面に叩き付けられたトマトのようにぐちゃぐちゃになるに違いない。


「だが当たらなければどうってことなァァァァッ!」


 鈍い風切り音がカールのすぐ近くで鳴り響き、得意げに放とうとしていた言葉を中断して叫び声をあげてしまう。巨大な腕が再度カールに迫ったのだ。


 腕だけが歪に肥大化した少女の外観は非常にバランスが悪く、鈍重なイメージを与えるが、そもそもカールが飲ませたドドリアさんの効能は身体能力増強。


 すなわち拳の破壊力だけでなく、全体的な能力そのものが大幅に上昇させられている。


 当然、その動きも素早くなり、見た目にそぐわない軽快な腕の振りは徐々にカールを追い詰めていく。


「おのれぇ美少女モンスター(仮)め! ヌオッ! ムンッ! ハァッ! この偉大なる錬金術師、カール・ユングスをナメるな!」


 傍から見ると気持ち悪い動きでカールは少女の拳を避け続ける。


 そして力強く啖呵を切ると、懐に残った三本の瓶の内、赤色の液体が入ったもの取り出し口に含んだ。


 瞬間、絡みつくような甘いシュワシュワ感と刺激が彼の喉を襲う。


「クゥゥゥゥ、効っくゥゥゥ!」


 そして胸の奥で溢れんばかりの熱と腹の底から沸き上がってくる嘔吐感。イメージするのは最強の幻想種。


「喰らえ、これが伝説の『ドラゴン・ブレス』だ!」


 ゲプゥと喉を鳴らしながら、カールは口から灼熱の炎を噴きだす。


 その姿はまさに絵本に出てくるドラゴンが、宝を狙う盗人を焼き殺す為に吐き出された炎そのものだ。


「くっ……クゥゥゥゥ――ガッ!?」


 少女は咄嗟に肥大した緑色の腕でガードをして踏ん張るが、そのあまりに強い勢いに堪らず後ろへ吹き飛ばされる。


 そのまま地面を何度も跳ねて十メートルほど離れたところでようやく勢いが止まった。


「おぉ……中々の威力ではないか」


 元々は口臭を取り除くための薬を作っていたら偶然出来た代物で、実際に生物相手に効果を試したのも初めてだったが、予想外に強力なブレスに炎を放った張本人であるカールの口から感心の声が零れてしまう。


 ドラゴン・ブレスというのも気分的に叫んでみただけで、実際そんな必殺技など存在しないのに、本当に必殺技になってしまいそうで気分がとてもいい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る