第12章ㅤ裏切りと、再会

「学園からの依頼……?」

「はい!」

「わかった。上へ渡しておこう」

「ありがとうございます」


 ユキと入るわけも行かず、リキは一人でフォースに入った。全員同じ模様の入ったケープを羽織っており、羽織っていない自分が逆に目立ってしまうかと思ったがあまり視線を向けられることはなかった。

 誰に渡せば上に渡してもらえるのか悩んだが、とりあえず渡せたことに一安心する。これでフォースがドラゴン討伐の任務を出すことはなくなるだろう。目的へ一歩近づいたような気がする。

 ほっとしてユキのもとへ戻ろうと歩んだとき。


「おい!」

「な、なんですか?」

「やっぱリキじゃん!」


 急に後ろから手を掴まれ、何か悪いことをしてしまったのではないかと驚きで振り向くとそこには見知った人物がいた。目をきらきらとさせている。珍しく見た表情だ。こんなに嬉しいという顔をされてとぼけた顔をしておられず負けずと明るく言葉を返す。


「ロキ……? ひ、久しぶりだね!」


 ちゃんと嬉しさを出せているだろうか。同じ時期に学園を卒業して別々の日々を過ごした。ロキ・ウォンズーーその名前を頭に浮かべることがなくなっていた。


「やあやあ俺もいるよ。久しぶりだね、リキ」

「ユークさん? ロキと一緒のところにいたんですか?」


 リキより前に、ファウンズより前に卒業したユークまでもがフォースにいるとは思わなかった。

 片手を上げて挨拶してきたユークはその手を下げて言う。


「そうそう、寂しいみたいでロキがついてきたんだよね。お兄さんと一緒にいたいんだって」

「だからちげえよ! たまたま来たところにこいつがいたんだ。他の所に行くわけにもいかなくて、仕方なく一緒にいてあげているだけだ」

「兄ちゃんが好きで好きでたまらないんだよなー?」

「……気持ちわりい」

「ははっ」


 冗談さ全開のユークの言葉をどれほどロキは信じているのだろうか。

 前より二人の仲が縮んでいるように見える。それもそうだろう。二人はリキの知らない日々を一緒に過ごしてきている。危険なことも一緒に乗り越えてきたりもしているのだろう。


「羨ましいです」

「なになに? リキもお兄さんが欲しい?」

「はい」

「なんならユークお兄ちゃんって呼んでもいいよ」


 羨ましいと言ったのは二人の仲についてなのだが、リキは何も考えなしにはいと返事をした。お兄さんが欲しいと思ったことはなかったが考えてみれば兄がいたら良いかもしれない。それもユークがお兄さんなら辛いことも話している時だけ忘れていられそうだ。


「ユークお兄ちゃん」


 リキの満面な笑みに「こんなやつ兄呼ばわりするのやめておけ……」とロキの言葉が途切れる。魅了された、簡単に言えばすごく可愛いかったからだ。本当に兄を慕う妹のよう。なぜこんなにも幸せそうなのだ。


「ときめいた。俺今一瞬ときめいたわ。ロキもそうだろ?」

「……っ。は!?」


 まるで何言われたかさっぱりという馬鹿みたいなロキの顔を向けられたことに満足し、話は移行する。


「まあこの話はさておき、リキはここへ一体何しに来た? まさか派遣?」

「派遣?」


 首を傾げるリキにそうではないことをユークは知る。

 リキもリキでなんとなく、派遣というものがあったからフォースに所属していない自分は怪しまれずにすんだのだろうと思う。


「派遣でないとしたら何?」

「学園からの手紙を届けに来ました。ドラゴンに危害を加えないように、といった内容だと思います」

「そう、なんだ。もしかしてドラゴンと仲良くしようという計画続けられている?」

「はい。今はフェリス以外にユキといったドラゴンと、ファウンズさんにも協力してもらっています」


*

「ファウンズも……?」


 まるでユークは意外だと言いたげだ。

 ファウンズという名前にロキも突っかかってくる。


「あいつも一緒にいるのかよ」

「あ……詳しく言うなら今は、ルーファースをあるドラゴンに謝罪させるためにフェリスとファウンズさんは別行動で」

「ルーファースってあの狂気じみたやつだよな?」


 たぶんその人、とリキは頷く。


「なんかいろいろと複雑だね」


 ユークのその一言に尽きる。


 もう少し二人と一緒にいたかったリキだが急いでいる任務のためすぐにその場を後にした。

 状袋を渡したらもう一度学園に戻らなければならない。そしてまた状袋を受け取り次の討伐機関に向かう。


 別れ際、「何かあったら言えよ、力になるから」とユークに続いて「俺もなるからな」とロキに言われそれだけで十分だった。心の奥底では力になってもらえたら頼もしいと感じていたがそうは言えなかった。二人の人生を狂わせるわけにはいかない、そうどこかで思っていたから。

 それならフェリスやユキはともかくファウンズはどうなのか。ファウンズは討伐機関をやめて自ら手伝うと言ってくれたから人生を狂わせてもいいのか。違う、人生が狂うようなことはしていない。無謀な夢を叶えようとしているわけじゃない。ちゃんとちゃんと実現できる。実現すればこの世は今より確実に平和になる。無駄なんかじゃない。

 リキは心の中でも何かと葛藤していた。

 こんなこと思ってしまうなんて皆に悪い。ドラゴンとわかり会えればそれで終えるものだとどこかで思っていた。




「ライハルトくん?」


 学園へ戻りサラビエル講師に北のフォースへ状袋を渡したことを伝えると、次は西のブリゲイドへ渡す状袋を託された。

 それを成し遂げたばかりのリキは驚きの声をあげる。

 偶然というものは重なるようで、同じ時期に学園を卒業したライハルトとブリゲイドにて対面したのである。


「……リキ。久しぶりだ」


 独り言のように呟いたライハルトは驚いているのかじっとリキのことを見下ろしたまま。何か言いたいようで何も言わない。


「リキ! 久しぶりじゃない。なんでこんな所にいるの?」


 ライハルトとリキがただ見つめあっている状態になっているとき、輝かしい表情で寄ってくる女性。

 彼女はライハルトと同じくリキと同じ時期に学園を卒業したフウコである。ライハルトの幼馴染であり、リキの親友。


「あ、シルビアこっち!」


 彼女の存在を懐かしく感じながらリキが答えようとしたとき、何かに気がついたようにフウコは手を挙げ誰かを呼ぶ。その先にいるのは金髪の男性。毛先がふわっとしていて全体的に柔らかい空気を纏っている。

 自分を呼ぶフウコを見ていたシルビアはリキの存在に気がつくとすぐに駆け寄ってきた。


「リキちゃんっ、久しぶりだね。どうしてここに?」


 シルビアはファウンズと同じ年に学園を卒業した三つ上の先輩なのだ。


「そう。その話をしていたところなのよ」


 で? ーーとフウコは首を傾げる。

 北のフォースでロキとユークに話したことをリキは三人に伝えた。ドラゴンに危害を加えないようにするための状袋を討伐機関に渡していること。余談だが、ロキとユークが召喚獣に再開しお互い嬉しそうにしていたこと。

 召喚獣である姿形が兎のラピはロキと似ているところがあり、表面上では会えたことに嬉しさ全開なのに言葉では正直ではないのである。それでもどちらも心は繋がっているのか冗談めかしにいろいろと言い合っていた。


*

 姿形が鳥のバードはラピとは違って喋られず、その代わりなのかユークのすぐ傍でロキとラピが喋っている間大人しくずっといたのだ。ユークの言葉を静かに聞いていたバードはやはりユークを慕っているのだろう。




 シルビアたちに召喚獣を対面させるためにリキは二匹の召喚獣を召喚した。

 兎姿のラピはリキの召喚獣であり、ロキにつく召喚獣でもある。リキがいればいつでも存在し続けられるのだが、危険な所を回っているため魔力消費を抑えるために必要なとき以外はださないでいる。

 猫姿のラッキーはシルビアの召喚獣であり、シルビアが近くにいないとだすことができない。ラッキーはシルビアのことが好きで肩に飛び乗って体をこすっていた。


 ライハルトはラピに「僕にも召喚獣ちょうだい」と言っていたが以前と同様ラピは、もう無理ぴょんと断っていた。リキがだせる召喚獣は四匹が限界なのだろう。兎のラピに、竜のスイリュウ。鳥のウインドバードに猫のラッキー。それぞれにリキを挟んでの主人がいる。


 そんなにほしいならスイリュウあたりに頼んでみるぴょん、とラピはライハルトに投げやりに提案した。リキとファウンズの間に生まれた水属性のちび竜ーースイリュウ。主人であるファウンズがいないために姿を現せないスイリュウにどう頼めばいいのか分からず、ライハルトは諦めるしかなかった。冗談半分、本気半分程度だったからそこまで落ち込みはしなかった。





 南のトループは、北のフォース西のブリゲイドよりも近寄りがたい雰囲気であり入るのにリキは戸惑った。空気が重苦しく、そこにいる人たちの顔がどこか暗いのだ。

 なんとか南のトループにも渡し、東のエシュロンにも状袋を渡し終えるとリキとユキは学園に戻った。


「全て渡してきたか」

「はい!」

「それはご苦労」


 外で出迎えてくれたサラビエル講師に報告し終える。

 ドラゴンへ危害を加えないようにといった内容であろう状袋を討伐機関に渡した。これでドラゴンが人間に傷つけられる確率は減り、ドラゴンが人間を敵意を向けることもなくなってくるはずだ。

 安心しつつもリキは、サラビエル講師の顔を見ながらこの後は何をすべきか考える。

 フェリスとファウンズはルーファースをドラゴンに謝罪させるために飛び回っている。お互い離れた所を待ち合わせ場所にとしたが、まだルーファースと関わりのあるドラゴンとは会えていないだろう。

 フェリスたちを探して合流すべきなのだろうか。

 何かあったらと、学園を第二待ち合わせ場所とした。最初に待ち合わせ場所にいなければ、ドラゴンへの謝罪を終わらせて学園へと来るだろう。そう考えをまとめてリキはサラビエル講師に訊ねる。


「何か手伝えることはありますか?」


 討伐機関への、ドラゴンを攻撃しないようにと伝える状袋を用意してくれたお礼を兼ねてのことだ。


「お前には悪いと思っている、リキ・ユナテッド。だが礼も言っておこう」


 突拍子もない事を言うサラビエル講師の目の奥が暗く陰っているように見える。

 サラビエル講師が手を宙にかざす。少ししてから「なんだ?」という声が聞こえ、それまでサラビエル講師の動作を不思議そうに見ていたリキはユキを見た。

 ユキの首元で黒い鎖のような物が輪になって回っている。どこかで見たような気がした。


「【|呪いの鎖(チェインオブカース)】」


 サラビエル講師の発言のもと鎖の輪がユキの首元をぐるぐると回る。少しずつその幅が狭くなっていく。


「どういうことですか? サラビエル講師」

 

 嫌な予感がして真意を求める。宙に手をかざしていたサラビエル講師は手を降ろしてそんなリキを見た。


*

 宙に手をかざしているように見えたのは、ユキに手をかざしていたのだ。そして魔法を放った。なぜそんなことをする?

 無表情のままサラビエル講師は何も言わない。沈黙のまま見つめあってそのうちリキが「サラビエル講師……?」ともう一度名前を呼んだときだった。


「なんなんだこれは……っ」


 後ろにいるユキが苦しそうな声を出した。

 振り向くとユキは首元の黒い鎖を掴んでいた。先程まで首の周りをぐるぐると回っていただけの黒い鎖が、今ではユキの首を締め付けている。

 以前、フェリスがあの黒い鎖をしていたときがあった。突然空から落ちてきて苦しそうに暴れて仕舞いには火を吐いていた。燃え始めた木々の消火活動はファウンズが水属性の召喚獣スイリュウの力を使って行い、大惨事にはならずにすんだ。

 あのときと同じ、黒い鎖。

 リキは嫌な予感を感じていた。まさかとも思った。ユキがこうなるまでは。


 ユキが苦し始める。何もすることができなくてリキは様子を伺いながら名前を呼ぶことしかできない。

 あのときのフェリスと同じようにユキは倒れる。苦しそうにしている。

 どうしても苦しみから助けたくてリキは持っている杖で黒い鎖を叩く。

 前にフェリスを黒い鎖から助けてくれたファウンズはこうしていた。剣で一撃で黒い鎖を断ち切った。

 武器は違えど打撃を与えれば解けるものだと何度も杖を振るう。必死に何度も何度も、杖を振るっても何も変化がない。


「どうして……」


 息を切らしてリキは絶望しかける。

 あのときファウンズは簡単に断ち切った。自分も同じようにできればユキをこれ以上苦しめずにすむ。それなのに、自分にはそれをできる力がないのか。


「人間とは……こういうものなのだな」


 苦しそうにしながらユキが目を開けて絞り出すように言う。瞳にはリキと、微かにサラビエルを映している。

 ユキの言葉は、人間には力がないとリキを見て言っているものなのか、突然こんなことをしたサラビエルに対して言っていることなのか。後者だとしたら人間に絶望をさせてしまった。


「ごめんねっ……ユキ」


 あれを、黒い鎖をフェリスにやったのがサラビエル講師だなんてリキは思いもしていなかった。

 だから今もどうしてこうなっているのかわけがわからなくて、ユキを助けなくてはいけなくてでもそれすらできなくて、いろいろなものが頭の中でぐちゃぐちゃしていた。


 感情が溢れて涙するリキは解けない黒い鎖に触れる。


「ーー……ーー」


 それを意識がぼやけてきて他人事のように見ていたユキは、自分のために泣いているのだろうかと考える。お前は悪くない、そう思って言おうとしたが言葉でない。酸素がもうないのだ。

 ユキは自分のために泣いてくれているであろうリキを見て不思議な気分になった。不謹慎だが自分が亡くなることに悲しんでくれる人がいるのだと。


「どうして、こんなこと……」


 静寂に、泣きじゃくる前の子供のような声が聞こえ、リキの背中にサラビエルは言い放つ。


「ドラゴンはいつか人間を滅ぼす元凶となる。それをなくしただけだ」

「ユキは平和を望んでいた……!」


 立ち上がるとともに勢いよくサラビエルに向いたリキは涙ぐんでいた。

 平和を望んでいた。だからこそユキは協力してくれていて。

 突然の裏切りに未だ状況を飲み込めていないが、サラビエルがユキを敵としてこういった行為をしたことは確か。


「他のドラゴンたちにもこんな裏切るようなことをするのですか?」

「だとしたらどうする?」

「……ドラゴンに危害を加えないという文書をサラビエル講師、あなたが用意してくれた。それを全部、討伐機関に渡したのですよ……? それなのに今更……」


*

「あれはその内容とは全く別のものだ。あるドラゴンを捕まえるようにといった内容のな」


 リキは息を飲んだ。

 騙されたのだ。最初から騙されていた。

 サラビエルはドラゴンを消し去ろうとしている。今までドラゴンと和解できるよう協力してくれていると思っていたが、そんな気は相手にはさらさらなかった。


「あなたがドラゴンを傷つけると言うなら、私はドラゴンを守ります」

「どうやって? ドラゴン一匹守れないお前がどうやって他のドラゴンどもを守る?」

「フェリスたちに協力してもらいます」


 言われた直後、言葉が詰まった。今、ユキさえ守れていない自分がドラゴンたちを守るなんてそんな大層なこと言えない。けれどフェリスとファウンズが頭に浮かんで、他人頼りかもしれないがそうするしかないと思った。


「平和を望んでいるお前がこのことをドラゴンに言うというのか? もし私が行ったことをドラゴンどもに言えば、私を殺しに来るだろう。それどころか他の人間も襲うだろうな」

「それなら私は、ドラゴンも人間もどっちも守ります」


 協力してもらうにはドラゴンたちを守るためには、ドラゴンにサラビエルのしたことをこれからしようとしていることを言わなければならないだろう。もしそれでドラゴンが怒って人間を襲うようなら人間も守らなければならない。

 簡単な答えだ。簡単な答えだが、簡単に現実にすることはできない。しようとしても力が及ばないことだってある。




 学園を後にし、行き合った馬車に乗り一番近い北のフォースに向かった。


「あれは手違いで」

「全討伐機関の力を借りたいと書いてあったが」

「だからそれは違うんです!」


 以前、状袋を渡した男の人に声をかけた。

 どうやらあの状袋の中にあった文書には、ある黒ドラゴンを学園に連行するようにといったものが書かれていたらしい。

 リキは全力で否定するが、新しい文書がなければ信用されないようだ。


 どうすれば……。

 途方もない。


 唯一頼りになるユキはもういない。フェリスたちはドラゴン探しを未だしているだろう。

 移動手段でもあったユキの存在がなくなったのは大きい。ドラゴンであるユキの背中に乗ってフォースに来たときは、馬車で来たよりも断然早かった。


 フェリスと合流できるのは何日も先のことだろう。それまで一人でできることはなんだろうか。自分だけでできることなんてあるんだろうか。


「どうしたんだ?」


 考え込んでいたリキははっとして後ろを振り向く。そこには前ここに来たときと同じくロキとユークがいた。

 なぜかその二人の存在に泣きそうになった。




 サラビエル講師の行為をリキは二人に話した。

 ロキは目を見開いてびっくりしていたが、ユークはそれほど驚いていなかったように見える。

 協力する、と言われたときすぐに理解できなかったが、理解した瞬間リキは失望から解き放たれたような気がした。




 馬車の移動中、リキの隣にいるロキが目の前にいるユークに不思議そうに問う。


「なんかお前それほど驚いてなかったよな?」


 リキからサラビエル講師の話を聞いて驚きで言葉がでなかったロキを置いて、ユークは『それでどうするの?』と即リキに聞いていた。


「やっぱりな、って感じだったかな。ずっと前リキがフェリスと旅をすることになったときサラビエル講師が言ってたんだ。人間とドラゴンは共存できない、いつか人間を滅ぼす元凶となるものならこちらが先に滅ぼすまでだ、って」


 これからどうすればいいのか不安に思っているリキとは正反対に清々しい顔をするユーク、納得いっていないようなロキを連れ馬車は西のブリゲイドを目指す。






*

「ロキ、ユークさん! リキちゃんと一緒に来てどうしたんですか?」


 ブリゲイドにてシルビアと対面するとシルビアは一瞬驚いてから輝いた目で一段と大きな声を出した。

 ロキはそんなシルビアと再開したばかりなのだが今まで離れていたという感覚を忘れ、以前となんら変わりない態度をとる。


「おう、なんか間違った依頼を訂正しに来たっぽい」

「しに来たっぽい言うな、他人事じゃないんだからな」


 簡易すぎる説明にユークは背後からロキの頭に空手チョップをくらわす。

 痛みか反射的にか、頭を片手で抑えながらロキは自分より背の高い白銀長髪男性を睨みつけるが、何食わぬ顔でユークは話を続けた。


「シルビアに分かるように言うとサラビエル講師がリキを騙してドラゴン退治依頼の封書を全討伐機関に出させたみたいなんだ。それを訂正するためにまずはここへ来たわけ」

「えっ……と、じゃあユークさんたちのところにはもう話はついているんですか?」

「北のフォースには話はしたけど、新しい封書がないとどうも言えないって言われたんだよね? リキ」

「……はい」


 ユークが顔を傾け確認してきたのでリキは小さく肯定して俯く。

 サラビエル講師がなぜそんなことをしたのか質問する空気でもなくシルビアはこれからのことに重きを置き話を理解しようとしている。

 だからシルビアが話についてこられるように自分が思うことをリキは話すことにした。


「ここでもそう言われるかもしれない。でも何もせずにはいられない、そんなことできないんだ」


 協力してくれることになった灰色ドラゴン、ユキ。人間である自分に協力したために人間である者の裏切りにあい殺されてしまった。

 人間とドラゴンが互いに尊重して生きていける平和な世界を一緒に望んだためにユキは被害にあった。

 平和を望んで行った行動が戦いを生んでしまう。

 そんなことあってはならない。

 ユキのためにもーーそうリキは償いに似た意を決していた。


「フェリスとファウンズさんに合流する前に少しでも押さえておかないと……フェリスにも危害がでるかもしれない」

「かもしれない、は潰しておかないとね」


 危害をださせないとユークは言っているのだろう。余裕のある笑みは周りを安心させようとしているものだろう。




 リキの思いはむなしく機関に話は通じなかった。やはり改訂の文書がなければなかったことにできないらしい。

 それでもとリキとシルビアはドラゴン退治を止めてほしいと、途中で行き合った二人に頼んだ。


「……わかったわよ」

「また二人だなんてね」


 説明を受けたフウコは不服そうにしながらも了解してくれた、ライハルトは苦笑している。

フウコが不服そうにしているのはまた幼馴染であるライハルトと二人で協力することになったからだ。ライハルトが苦笑しているのもシルビアがリキたちについて行ってしまい、フウコとの間に入る唯一の友達がいなくなりまた幼少期と同じ二人きりとなるからだ。




 シルビア、リキ、ロキ、ユークの四人で南のトループ、東のエシュロンにドラゴン退治依頼の訂正に行った。が、状況は良い方向には向かなかった。

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