マイグレイション (3)

 マヤコがフェルトと粘土で制作を始めてから2週間ほどが過ぎていた。

 街の方は既に完成していて、今はステージ上から伸びる長い階段を作成していた。

 これが終われば完成だ。おそらく今日には方が付くだろう。


 ナミヲの報告によると、神田ヒロシも同じくらいのペースで進行しているとのことだった。


 ナミヲは時々マヤコの様子を見に来てくれていた。

 制作の期間中、サチエらとは会ったりしていたが、作っているものについては話ができなかったので、ナミヲが来てくれるのには正直とても救われていた。


 ナミヲがいなかったらマヤコは今頃発狂していたかもしれない。


 神田ヒロシ…というより、ケンタに言われてナミヲはマヤコの様子を見に来いるのだろうとマヤコは感じていた。

 こういう気配りができるのはケンタしかいない。


 ただ、ナミヲには他の理由もありそうだった。

 なぜならば、時々変な飲み物を持ってきて無理やり飲まされていたからだ。

 赤くてドロッとした液体。野菜ジュースのような薬のような変な味がする液体だった。


 ナミヲはその液体について詳しく話そうとはしなかったが、マヤコはわかっていた。

 これはハヤトの血液だ。


 最初は漠然としていたイメージが、これを飲むと、次に作るものがはっきりと頭の中に構築されていくのだった。


「ヒロシさんもこれ飲んでるの?」


 マヤコはあるとき聞いてみた。ナミヲは、にっこり微笑んだだけで答えてはくれなかった。

 きっと飲まされているのだろうとマヤコは思った。


 そんなハヤトの血液のおかげもあって、マヤコは無事に街と階段を作り終えた。


 さて、あとは、住民たちとゲームの時間だ。


 階段を完成させると、マヤコは神田ヒロシに電話をかけた。

 神田ヒロシはすぐに応答した。


「完成したのかい?」


「はい。ヒロシさんは?」


「ちょうどいまできたところだ。」


「じゃあ、明日からですね。」


「そうだね。今夜、全住民に向けて告知がなされるようにマスコミに連絡しよう。この啓示は自動的には行われないようだ。」


 マヤコは電話を切ると、まっすぐに自宅へ戻り、シャワーを浴びて泥のように眠った。

 何時間眠ったかわからないが、電話のなる音で目を覚ました。


 サチエからだった。

 出ると、興奮した様子でテレビを今見たところだと繰り返し言って来た。


 マヤコがテレビをつけると、ちょうど明日から開始するゲームの詳細が繰り返し報道されているところだった。


 ゲームは明日から数日間をかけて行われる。

 地区ごとに割り振られた時間帯に、街の中心部にあるスタジアムへ来てもらい、神田ヒロシ、もしくは篠崎マヤコと住民ひとりひとりがゲームをする。


 先日のイメージで階段を見た人はマヤコと、黒い球なら神田ヒロシと対決する。

 10分で決着がつかなければ、その時点で優勢な方が勝ちとする。


 これで最終的にゲートをくぐる順番を決めるのだが、早ければよいというわけでもない。

 ゲートは2人ずつしかくぐれないので、このように順番を決める必要があるのだ。

 その意図は我々には計り知れない。


 ゲームのルールを知らない者は事前に調べておくように通達がされた。


 そのゲームとは… ≪バックギャモン≫ だった。


 ≪転送まで あと3日≫

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