第2話  思い出の人形

朝起きて、顔を洗って、いつものように日めくりカレンダーをめくる。


今日は12月24日。もうこんな時期か。僕はコートを着、ブーツをはいて     外へ出た。

町はクリスマスでにぎわっており、人もたくさんいた。

あたりがイルミネーションでキラキラしている。


そんな場所を通り過ぎて、僕は人気のないところにぽつんと立っている

一軒の店に入った。


「いらっしゃいませ、ああ君か。」

この店でたった一人の老いた店員が言った。僕は店員に話しかけた。


「今年のクリスマスも町はにぎやかですね。」

「ああそうだな、年を重ねるごとに華やかになっているようだ。」

店員は窓の外に積もり始めた雪を見ながら言った。


「もうあの時からこんなにたつんだなぁ…そうだ。」             


そして店の奥の方に行ってしばらくすると一つの人形を持って出てきた。   


「ありがとうございます。」

僕はそれを買って店を出た。外はいよいよ吹雪が強くなってきている。

寒い風の吹く中、僕はもと来た道を駆け足で帰った。


家に帰ると僕は仏壇の前にあるサンタの人形と、買ってきた雪だるまの人形を

横に並べた。


「やっと二つそろったよお父さん、お母さん」



あれは今日のように雪の降る日だった。



幼い僕はキラキラした町で必死でものをねだっていた。


「買って買って、これ買ってよ!」

「駄目よ、うちはそんな高いもの買えないわ。」


お母さんがなだめるも僕は諦らめられなかった。              


「いやだこれがいいの!」「だってそんな高いもの…」            


お母さんが困っているとお父さんが「そうだ、いい店があるぞ」そう言って連れてこられたのがあの店だった。


その店は古物屋で、クリスマスの物もいろいろ売っていた。


「これはどうかしら。」「こんなのもあるぞ。」               

お父さんとお母さんが色々見せてくれたけど僕の欲しい物はなかった。    


「こんなんじゃいや、あれがいいの!あれじゃなきゃだめ!」


泣き叫ぶ僕に若い店員が言った。

「これなんかどうだい」そう言ってサンタの人形と雪だるまの人形を見せられた。


僕はその人形も欲しかったけどあのおもちゃの方が欲しかった。でも結局お父さんとお母さんもそれが気に入ったらしく、それを買うことにした。

うちは貧しかったから一つしか買えなかったけど。


その時はあまり大事にしていなかったが、両親が他界して祖父母に引き取られてそれは宝物になった。


お父さんとお母さんがいなくて寂しくていつもその人形を眺めていてふと思った。このサンタの人形も雪だるまの人形がいなくて寂しいのではないかと。     


だから僕は大人になって自分でお金を稼げるようになったら必ず二つの人形をそろえようと決めた。


その時から二十年ほどの年月が去った今日。                


「やっと二つそろったよ。お母さん、お父さん。」


うちに雪だるまの人形が来て二人は会えた。人形たちは寂しくなくなったかもしれないけど僕は両親と会うことはできない。


でもずっと寂しいままではなかった。

この二つの人形はお父さんとお母さんのような存在でいてくれた。


ふと時計を見ると12時。


「そろそろ昼飯にしないとな。」


そう呟きながら仏壇の横に人形二つを並べて僕は昼食の準備を始めた。

ほんの少しあたたかくなった部屋で。







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師走物語 紫陽花 @ajisa25

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