第6話「輝ける暗い街」

暁月と光が任務に赴く少し前にも、とある2人が任務に出向いていました。

暁月達は【現代】に分類される土地へ行きましたが、

その2人は【未来】に該当する土地へ赴きました。


「バトルロワイヤルか……だから俺を呼んだのか、夜冬」

「そそ、1人でやれるかな〜って思ったら、2人以上5人未満で組んで来いって言われてさ。この手の時代ならお前の方が分かってるだろ?ユウト」

十六夜夜冬いざよい よると沙慈さじユウトは鈍い灯りが点々と照らされている道の壁に貼られた1枚のボロボロのポスターを見ていました。

「実際、この手の荒事はラクリマさんの方が向いてると思うが?」

「ルナさんはなぁ…お前より強いから頼りにはなるんだが…俺も斬られかねん」

「まぁ、そうか。容赦が無いからな」

「そうそう…」

夜冬は頷いて、溜め息を着く。

「戦力としては劣るが、【未来】なら俺も戦うのは楽だ」

「助かるよ。ターゲットはこのバトロワのチャンピオンだな。後で俺のスーツを貸してやる。情報はその時に」

夜冬の手にはアタッシュケースのようなものが2つありました。

「了解」

2人は暗い空の下、眩しい程に輝いているスタジアムへ向かって歩み始めました。



この世界は【現代】【未来】【過去】と分かれて隔てられている。

それぞれの時代の文明は交わらず、干渉もしない。

繋がっているようで繋がっていない。

不思議な世界。

それぞれの時代にも分岐や特徴がある。

輝かしい発展を遂げ、人々が平和な【未来】もあれば、醜い争いで過去にも劣る、廃れた【未来】もある。

今回2人が来たのは廃れた方の【未来】だった。



「………」

2人は静かに周りの様子を伺います。

遠方にはまるでそこだけが太陽に照らされているかのように明るいスタジアム、その下からも光が伸びている事から住宅か商業区かという感じでした。

スタジアムのある場所がこの世界の中心部であり、唯一活気のある場所です。

逆に言えば、その他の場所は無法地帯に等しいでしょう。

今2人が居る場所は薄暗く電気が付いていますが、もっとスタジアムから離れた所では真っ暗闇です。

いわゆる、スラム街。退廃地区が殆どでした。

そこらは酷いものになっていました。

建物は半壊、割れてないガラスなど1つもなく、道端は痩せ細った人が倒れ、呻き、または死んでいました。

ネズミや見たことの無い鳥が死体を啄み、喰らい、血肉を撒き散らして、糞をして、異臭を放ちます。

そして、中には肉からはうねうねとした寄生虫が姿を見せていました。

「全く……反吐が出る……」

「そこそこ酷いな。まぁこの廃れ方はどの世界でも有り得る話だけど」

2人は軽い会話を紡ぎます。

「腕に注射の痕がある奴が何人も居る…手本のような廃れ方だ」

「あぁ、お前の世界もこんな感じだったよな?」

「そうだな…酷く醜い環境だったよ」

そんな事を話しながら2人はどんどん進んでいきます。


スタジアムを中心にして渦を描くように道が複数敷かれている事が分かりました。

中心に近付くに連れて、住人の健康具合は良いものでした。

喋れる人、立ってウロウロする人、そしてさっきまで死体すら見つからなかった女性達が居ました。

その中にオシャレな男達が財布を握って歩いていましたが、理由はすぐに分かりました。

建物の影や中で淫行を行っていました。

中心部の人間がこの地域の女性と金を使って淫行し、各々の欲求を満たしていました。

しかし、貧しい環境ゆえ体は貧相です。

だから少しでも豊満な体を持つ女性が居ると、男達は寄って集って集まります。

「………」

「はは、良いねぇ。俺はああいうのは好きだぞ」

「悲しいな、女としてなら好きな男に抱かれるのが本望だろうに」

「そんなのは人の自由だからな。まぁ…こんな時代じゃ無理もないな」

「──さっきの地域に女が居なかったのは、こうやって稼いでより良い場所に移るためか…男じゃこんな方法じゃ稼げない。だから野垂れ死んだ」

「でもだ、ユウト。多分この地域も直に廃れる。今度は女性も死ぬ事含めてな。貧相な女性は強引な方法で金を稼いで子を孕んで売って出ていくか、そのまま稼げず死ぬかだからここに少なからず女性は1人は確実に残る」

「やけに詳しいな、お前」

「エロいことに関しては一流だぜ!」

「訳が分からん」

2人はどんどん歩いていきます。



20分程でスタジアムの下にたどり着きました。

そこはまるで光の花束のように輝かしく眩しい場所で、さっきまで通ってきた道とは大きく違い発展していました。

「このスタジアムは観覧席的な感じだな。真ん中に特大のモニターがあって、そこで戦うヤツらはまた別の所で戦ってるそうだ」

「じゃあまた移動か?」

「いいや、エントリー済ませれば待機して、集合時間に俺たちは輸送されて自身でフィールドに落下する。故に落下に対策する必要があるんだ。めんどくさいけどな」

「だから、お前のパワードスーツか……」

「もう他にも着てるやつ居るだろ?俺たちが着るやつとはまるで違うがな」

既にスタジアム付近の所々に参加者と思わしき機械を纏った人間が多数居ました。

腰辺りにジェットパックのような物が付き、体の周りを薄い板のような物で覆う人、体全身を合金で覆い3m程にもなるぐらい大きいスーツを着る人も居ました。

そして【現代】には無い銃や剣らしきものを所持し、中にはスーツに備え付けた装備を武器としていました。

「とりあえず、目的のチャンピオンと同じ試合にエントリーするから当分は待機だな」

「了解」




1時間程経ち、あと数分でエントリーする試合の集合時間です。

「そろそろ着るか」

「……そうだな」

2人はアタッシュケースを背中に回して取っ手を両方の手で左右に引っ張り開くと中には機械が詰め込まれていました。そこからアームが飛び出し体に固定されると、次第に取っ手部分から1枚1枚の小さな装甲が並ぶように指先から肩、背中まで張り巡らされ、そしてアタッシュケースの中身が押し出されそれが胴体から足まで同様に装備されます。

2人はあっという間に体がパワードスーツで隠されました。

「どうだ?合ってるか?」

「あぁ…動きにくいがな」

「そんな事言うなよ~、代わりに防御力は桁違いだぞ」

「任務の時、いつもこれ着てて体痛まないのか?」

「慣れてくると全然だぞ?」

「そうなるのか」

「そうなります」

するとユウトはパワードスーツの装備を確認しました。

「ん…?《グラップリングフック》か?」

「完成したから一応搭載してみた。気に入ったらそれ限定で作ってやるぞ」

ユウトのパワードスーツの左手首に親指と同じぐらいのボックスとフックが付いていました。

「ボックスにフックを飛ばす機構と特製のワイヤーを巻き取る機構がある。一応邪魔にならない程度に小さくしたつもりだぞ」

「有効距離は?」

「20mってところかな、小さい分距離がな…」

「分かった」

2人は喋りながら、スーツに不備がないか見回す。

「そう言えば、防御力は桁違いと言ったな。今回のスーツはどれほど耐えるんだ?」

「美雪さんが持つ《バレットM82》系の対物ライフルを同じ場所に5回撃たれるとやっと装甲が壊れて中身を晒す。それまでは衝撃こそあるけど貫通はしないし、壊れてからやっと中身にダメージを与えられる」

「なんだ、試してもらったのか?」

「着ないと試せないから、ヒヤヒヤだよ。普通より強いエネルギー持つ弾丸が下手して俺の腕飛ばさないか不安だった」

「腕あるから無事だな」

「本当だよ」

そうして2人は装備の確認を終えて、集合場所に向かいました。



集合場所は200人入ることの出来る大型輸送機内でした。

色んな会話が混じり、壁を反響して、機内は随分とうるさい空間でした。

「うるさいな……」

「まぁ全員が乗ってるんだしな」

「この間に目標を仕留めれば良いんじゃないのか?」

「チャンピオンだけど3人構成でオマケにチャンピオンは別輸送機で飛ぶから簡単に仕留められない。他とも違って装備悟られないように優遇もされる」

「行き当たりばったりか…」

「そうだな、面倒だけど試合をやるしかないな」

広いようで狭い中ブザーが鳴り、全員が静まると放送が流れました。

«諸君!よく集まってくれた!君達が今夜の最後の華を咲かせてくれるだろう!»

「「うおおおおおおおおおおおお!」」

中にいる沢山の人が雄叫びをあげます。

«君達は勇者だ!この試合は2年連続チャンピオンのメンバーが居る!彼らに勝ち優勝すれば英雄だ!そうすれば、『女』『金』『名誉』あらゆるものが君たちを囲む!»

どんどん輸送機内の気合いが上がり、選手達の闘志は上がっていきます。

«ルールを再確認だ!制限時間は2時間!今回は広大な夜の樹海マップで戦ってもらう!配布するデータに現在地とマップが表示され、10分ごとに全チームの居場所が分かる!征服させるも良し!いたぶるも良し!殺しても良し!リタイアするも良し!自由に戦ってスタジアムにいる観客たちを大いに盛り上げてくれ!»

「「うおおおおおおおおおおおお!!!」」


普通のようで過激なこのバトルロイヤルは、この世界の人間にはとても刺激的な戦いであり、多くの男の子はこのゲームに思いを馳せ、ここに立とうとする。

そして女性もこのゲームに勝ち残った男に惚れ、その強く勇気ある遺伝子を残そうとする。

言わば、このゲームは殺し合いを伴った求愛行動である。


そしてみな、闘志を燃やし、輸送機内の温度も上がり始めた頃、放送が切り替わり、警告音とアナウンスが流れる。

«マップ内に到着まで10秒、全ハッチオープン。全ハッチオープン»

"プシュー"と空気が抜ける音がすると、左右と後方の搭乗口の壁が開き、そこからは冷気を伴った強い風が輸送機内に流れ込む。

「寒いな…!」

「ユウト、首筋のスイッチを押せば、ヘルメットを出せる!寒いのは顔だけだろう!?」

「分かった!」

スイッチを入れると顔を綺麗に体と同じ素材の装甲が覆い、中にはモニターが現れた。

«ユウト、これからは通信だ。このスーツは中から声が届かない»

«了解、結構寒かったのにヘルメット付けるだけでだいぶ変わるな»

«まぁな、スーツ内は快適な温度を保ってくれる。そして外側も氷結しないから凍ることは無い»

«スーツ無かったら、終わってたな»

«感謝しろよ?»

«そう言われるとする気が失せるな»

2人は同時に深呼吸すると、この任務の始まりを告げた。

«ミッションスタート»


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