第5話「楽な任務」
集落に訪れた日付が変わる直前の夜中に、暁月は部屋で身支度を整えています。
昼とは打って変わって、暗めの色で構成された服装を着込んでいました。
上は黒いジャケットに黒のシャツと紺のインナー。
下は黒のスキニーパンツに膝下までのあるブーツ。
基本的に隙間なく締まった感じで、動きやすさ軽さ柔軟さを重視した服装になっていました。
「えーと…あとは…」
壁にかけてあったフード付きマントを羽織り、腰の後ろのベルトに小さな黒革のポーチを付けて、服装的な身支度を済ませました。
次は机の上に並べられた4本のナイフ。
刀身は既に黒く施され、鞘にも収められ、それらは鞘と共にそれぞれの部位に装備されていきます。
《
そして、最後に壁に立て掛けられた一つの刀。
これも黒が特徴的で、刀身は鞘に収められていました。
その刀も左腰にぶら下げられました。
ポーチに多少の道具を入れていると、部屋の扉がノックされました。
暁月がそれに返事をすると扉が開かれ、現れたのは
コートを羽織り、腰には赤を基調とした刀、双眼鏡とライトのようなものを首にぶら下げていました。
「暁月、準備は出来たか?」
「もうちょっとで終わるよ」
「そうかそうか、今日は俺も着いていくからな」
「え?そうなの?」
喋りながら暁月は手の感覚で腰の鞄の中を整理します。
「今回は駐屯地だが、少し上からの索敵と報告は欲しいだろ?」
「そうだね~意外と今回は楽かな?」
「一人でやる負担が減るから、まぁ楽だな」
暁月は腰を揺さぶって、中身が揺れない事を確認する。
「よし…!」
「準備出来たか?じゃあ行くぞ」
2人は部屋の電気を消し、1階の玄関へ向かいました。
1階にはルナと美雪、アウロラが壁際の座席に居ました。
美雪は机に突っ伏して眠っており、アウロラはウトウトしながら魔力で生成した火を指から出し、ルナはその火を使って焼かれたマシュマロを食べながら、美雪の頭を撫でていました。
そこに暁月と光の2人が降りてきました。
「……さっきも見たけど相変わらずなんだこの絵面」
「マシュマロ美味しそう…」
2人はそれぞれ言葉を発すると、ルナはこちらを見ました。
「行ってらっしゃい、すぐに終わると良いな」
ルナは見送るセリフを言いました。
「行ってきます、ルナさん。美雪とリーダーをちゃんとベッドで寝かしつけといてくださいよ?」
「行ってきます!ルナ姉!」
「あぁ、安心して良い。後で部屋まで連れて行こう。暁月、気を付けてな」
そうして2人はここを後にした。
そして、アウロラは眠気の限界が来たのか火が弱まると、ルナに顔を叩かれ、火を維持し続けました。
「貴様は私が満足するまで、起きていろ」
「うぃぃぃぃ………」
【ノーネーム】
悪行を働く組織や非公式団体、凶悪グループを排除するグループ。
と言っても、そこまで複雑な目的ではなく、ただただ正義を持って戦っているだけの簡単な話。
遊ぶ時は遊ぶ、戦う時は戦う、各々のしたい時はそれをする、そんな話。
依頼等は受け付けていない。
リーダーという存在はあるが、上下関係は無く自由なグループで、メンバーも変化なく結成された時からの《罪の炎》を所持しているほぼ固定面子。
言うなれば、自由なグループ。掴みどころの無いグループ。
故に『
暁月と光は北の山の草むらに隠れて、モヤモヤしている黒いものに近づきました。
「行くぞ」
「了解」
2人はそこへ足を運び、姿を消しました。
このモヤモヤは様々な場所に行く事が出来るようになっており、帰りも同じ所に来ればこの土地へ帰ることが出来ます。
なお、向こう側からこちらへ来る際、《罪の炎》がない場合、即死します。
どういう原理で存在しているのかは謎でした。
モヤモヤを抜けると、そこは森林の中でした。そしてその木々達の奥にはライトで明るく点灯されている目的地の駐屯地があります。
「よし、じゃあ俺は少し離れた所に高台があるからそこから見る。真上からじゃないから死角はあるのは許せよ」
「分かった。じゃあよろしくね!」
「マイク付けとけよ」
「はーい」
光はそう言い残すと、すぐに姿を消しました。
暁月はフードを深々と被ると木の影に隠れながら、素早く前進していきます。
150m程の進んだ頃、暁月の耳に付けてある通信機から声がしました。
『暁月、今俺は南東側に設置された高いスポットライトの上にいる。あとどのくらいで木を出られる?』
「多分、100mくらいかな」
『了解、駐屯地外側のどっかの壁に張り付いてくれ、そしたらこっちで確認する』
「了解」
暁月は前進していく。
森林の中には哨兵が居らず、周りを見ずに容易く前進出来ました。
20秒かけて駐屯地の壁に張り付きました。
『暁月、お前が見えた。そこから左を見て上のスポットライトを見ろ。俺がライトで点滅させているのが分かるか?』
光の言う通り、スポットライトの方向を見ました。
すると強い光に隠れて、弱い光が点滅していました。
「見えたよ」
『よし、じゃあ塀を越えて、すぐ側にテントがある。そこへ行け。その高さなら余裕で越えられるだろう。』
「了解」
コンクリートの塀の上には有刺鉄線が張り巡らされていたが、それを難なくと暁月は飛んで越えた。
越えると光の言った通りテントがあり、そこに伏せた。
『ちょっと待てよ……北方向にヒューズボックスがある。電源を落とせば優位に立てるぞ。待て…お前の近くに哨兵が居る。1人だから始末しても良い』
「分かった。北に向かいながら、道中の敵は屠っていくよ」
暁月はしゃがみながら、素早く移動を開始した。
足音なんてせず、服装の事もあり暁月は闇に溶けて駐屯地内を動き回る。
そして、光の言った哨兵のすぐ近くに来た。
暁月は《望月》を抜き、ゆっくりと近寄った。
明日、持ち場が変わるのに何故警備させられるのかが不満だった。
どうせなら明日に備えて眠らせて欲しいものだ。
通信のマイクを切って、大きく溜め息をする。
こんなに人も明かりも多いんだ、少しくらいサボってもバレないだろう。
とか言ってたら、突然右足首に鋭い痛みが走った。
「イッ…!?」
あまりの痛さに足の力が抜け、後ろに倒れ込んだ。
このまま行くと尻を思いっきりぶつけるが、そんな事はなかった。
何かに優しく抱えられ、口を塞がれた。
「おやすみなさい」
そう耳元で聞こえたあと、俺の首に鋭い刃物が突き刺された。
その瞬間、痛みと恐怖が入り乱れて何も感じなくなった。
ただゆっくりと体はだるくなって、意識も…もうろうとして、ねむく…なって…………
それは一瞬の出来事でした。
哨兵の後ろから暁月は《望月》を哨兵の足首に刺し、バランスが崩れ落ちてきた上半身を支えて足首からの流れで哨兵の首に突き刺しました。
そして絶命したのが分かると《望月》を抜き、血を払って鞘に納めました。
『おやすみ』
屍になった哨兵を暁月はテントの影に隠しました。
ここはあまりに隠せる場所が少なく、野ざらしになってしまうので、バレたら警戒されてしまうでしょう。
「急いで進むね」
『分かった』
しゃがむ事をやめて、素早く移動し始めた。
『最短のルートは哨兵が複数いる。明かりも多いから少し遠回りに行け』
「了解」
多く並ぶテントを抜ける。
中は静かでここはどうやら、仮眠を取るテントらしく、多くの兵士は眠っていました。
『正面に哨兵2人、……そいつら倒したら向こうに行きやすくなるな…スルーしてもいいけど』
「殺るよ」
後ろに手を回して《新月》を取り出し、回して刃を出し、柄を固定して刃側をつまみ、即座に距離を詰めました。
「ん?」
わざと音を起こして、こちらを向かせました。
そのタイミングで《新月》が投げられると、1人の兵士の目に突き刺さり、その痛みや咄嗟の事で後ろに倒れ込みました。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!」
「なんだ…!?」
同時に《七日月》を抜かれると輪に人差し指を通し、滑り落ちないように持つと、もう1人の兵士は素早く反応して銃を小さく腰に構えた。
銃口は暁月の頭を狙って上向きに向いていたが、暁月は全身の重心を前にそして低く落とした。
そして《七日月》の刃が兵士の足首に深々と突き刺さった。
「…!?」
暁月により銃口を狂わされ、そしてタックルに近い形で突っ込んできたので兵士は膝立ちで耐えて、《七日月》で刺された足はまるで地面に釘付けされたように固定されていました。
しかし、それは暁月も同じく、突っ込んだ反動で膝立ちで兵士の足を突き刺しているので動けません。
兵士は素早く反応しました。
暁月の首を掴んで、手に持った銃を再び暁月に向けると、それは発砲されず終わりました。
「ぁ………」
暁月の《七日月》は足首から膝まで紙のように肉を引き裂き、膝から刃はそのまま一直線に飛んで首を裂きました。
ほぼ即座に絶命し、構えた銃と共に上半身もパタンと落ちました。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙……!痛てぇ!」
そして《新月》を投げられた兵士は叫び散らかしのたうち回ります。
『まずい、そっちに複数の兵士が向かってるな』
暁月は静かに《七日月》をその兵士にも同様に首を引き裂きました。
そして声が静かになると兵士の動きも静かになりました。
「バレちゃったなら仕方ないかな…」
『……援護してやるから電源落として来てくれ』
「了解~」
駐屯地内でサイレンが鳴り響き、騒がしくなる。
バタバタと足音が増える。
上官らしき人が指示を出す。
それに従って多くの兵士が行動し、駆け足で駐屯地内を駆け回る。
そんな時、突然あらゆる光が消え失せた。
幸い、テント内のランプや武器のライトを有効活用して光を増やした。
ヒューズボックスを見に行った兵士は、叫び声を上げて次々と静かになって行った。
次に起こったのは、銃声だった。
しかしそれは上に向けられて撃たれる時もあれば、横に向いて撃たれ、誤射を招き、負傷者を増やした。
水滴なような物が顔に付着した。
漂う鉄のような匂い。
それはどんどん淀んで、確実な死の匂いと感ずいていく。
光、足音、熱、気配、あらゆるものが減っていく。
ヒューズボックスへ向かう。
その間に沢山の叫び声、銃声、呻き声、助けを乞う声が混ざり合う。
それらは数秒足らずで次々と減っていく。
ヒューズボックスの電源を入れ直す。
あらゆるものに電気が通る。
そして、光が灯って見えたのは地獄だった。
暁月はヒューズボックスの電源を落とすと、左腰にぶら下げていた刀を抜きました。
その刀身は暗くて良く見えませんが、黒いのは確かでした。
「落としたよ。ここから殲滅していく」
『了解、銃弾には気を付けろよ。俺も降りる』
そこから挟み込むように、暁月はその刀を使って片っ端から斬っていきました。
彼らが暁月を視認した時には遅く、あらゆる部位は撥ねられるか斬り裂かれるかでした。
一方、光は刀はぶら下げたまま、1人1人後ろに這い寄って、首をへし折りました。
1人…また1人……暁月達によって数多く存在した命は絶たれて行きます。
2分すると電源が入れられ、明かりが灯りました。
生き残っていた1人が電源を入れたようです。
暁月はヒューズボックス目指して駆け寄ると、1人の兵士がガクガクと震えながら、駐屯地中心の空間を見ていました。
そこはもう首や腕、足等本体と離れどれが元の体だったのか分からず転がる死体と首があらぬ方向を向き倒れている死体が転がり、血も沢山流れていました。
「あっ……」
「貴方が最後だね。大丈夫。痛みなく殺してあげるよ」
そして、滑らかに刀が振られると同時にその兵士はこの世を離れた。
「あっという間だったな」
いつの間にか後ろに居た光が言いました。
「この前より人の数が圧倒的に少ないし、範囲も狭いから凄い楽だったよ」
「遂行時間は…10分も掛かってないな」
「……うん!早く帰ろう!」
「だが、一応ここを捜索してから帰るからな」
「そっか…分かった!」
2人は駐屯地内にある武器や資料、使えそうな物を探りながら倒れた一人一人の生死を確認して行きます。
そこで得た物は多少の弾薬だけで、特に目立った物はなく、美雪の為の弾薬程度しか確保出来ませんでした。
「ライフル系統の弾が今足りてなかったから助かるな…でも、美雪の欲しい弾かは知らないが…よし帰るか」
「駐屯地だから少ないね」
「まぁ…こんなもんだろ」
片手に弾薬を詰めたバッグを持って、2人は帰路に着いた。
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