第2話

 ちょうどその時、ジョージの父親ジョンが仕事から帰ってきた。ジョンの仕事は、森林警備隊で国の自然公園に指定された地域の森林の見回りをしている。つまり、公園内の動植物が国の許可なく荒らされないように、見回りをして悪い奴らを取り締まっているのだった。ジョンは久しぶりに髭面のロイを見ると、嬉しそうに声を上げて3人のことは全く気にしないで、ロイを奥の部屋に連れていってしまった。その後に、アンナも何だかさっきまでのオオカミの話はどこへやらと思わせるように行ってしまった。それは、まるでジョージのことは何も心配してはいなかったのよというような感じだった。

 ジョージとオリバーは、ロイの言ったオオカミになってしまうという話は本気にしていなかったが、話が途中になってしまったので、ちょっと拍子抜けになってしまった。オリバーは、自分の部屋にもどり、ジョージはいつもの調子で、ポテトチップスを食べはじめたのだった。しばらくして、ジョージはふと今日の月がどんなになっている確かめてみようと思った。九月の中旬のころで、七時過ぎは、まだ、外は明るく西の空に日が沈んだばかりのほのかな夕焼け空だった。ジョージは何だかつまらなくなった。いつもの夕暮れ時で特に変わった様子もなく、いつもの夜になっていく。ただそれだけのことさと思った。また、さっきと同じようにポテトチップスを食べながら、今度は退屈そうにマンガの本を読み始めた。

 ジョンとロイとアンナの三人は奥の部屋で、久しぶりにくつろいだ雰囲気の中、ときどき大きな声で笑い話に夢中になっていた。今は仕事はやめているロイはジョンと同じように森林警備隊の仕事をしていた。話題はいくらでもあった。

「ところでジョン、アンナから聞いたが、ジョージはどうしてポテトチップスばり 食べるようになったのかね。おまえには何か心当たりはないのかね」

と、ロイはジョンに尋ねた。

「ああ、そのことはアンナから聞いていたよ。そのうち飽きて食べなくなるから、ほっといても大丈夫と言ってるさ。さあ、今夜はおいしいベルギーの白ビールがあるから腹一杯飲もう。特別に工場から取り寄せたものだ。ゆっくり夕食を食べながら話の続きをやろう。アンナ、ロイの大好物のチキン料理ができるだろう。頼むよ」

と、そっけない返事だった。

「あなた。食事のことはいいけど、ジョージのことも、そろそろ真剣に考えてくださいな」ジョンは、ロイじいさんの手前ちょっと考えるふりをして、

「うーん、そう言えば一年前の暑い夏のころだったかな。ジョージとオリバーを連れて、いつも仕事で見回りする小高い丘に登った時だったと思う。丘に行く道の途中、オオカミのいる高い山の方に向かうけもの道の入り口にポテトチップスが散らばっていたんだ。その時はだれか山歩きして落としたのかと、気にもしなかったがよく考えてみると、そんなところには遊びで大人や子どもが来るような場所じゃなかったということさ。それだけかな。そのポテトチップスを見つけたのがジョージだったんだよ」

と、これで、まともに答えただろうという顔をして、ロイとアンナの方を見た。それから白ビールをおいしそうに一気に飲み干した。

「そうか、そんなことがあったのか。アンナ、それからだな。ジョージがポテトチップスをよく食べるようになったのは・・・」

「そう言えば、そのころからよ。ちょうど夏休みの途中からポテトチップスをよく食べるようになったのは・・・」

「何か心当たりがあるのかい。ロイ」

「イヤ、何もないんだが・・・。そういえば、おまえにも一度だけ、この長老の話をしてやったな。覚えているか。ロイ」 

「ああ、覚えているさ。結構、本気になって聞いていたけど、おれにはそんな満月の夜にボテトチップスを食べたらオオカミになるなんて、子どもだましのような話は、通用しなかったね」

「オオカミの話はどうでもいいとして、ジョージのポテトチップスの食べ過ぎは体に良くないわ。なんとかしなくちゃね」

「おれが明日、ジョージには話しとくさ。さあさあさ、アンナ、もう一杯、ビールをおくれ。明日のキングサーモン釣りの話をしようじゃないか」

「願ってもないことだ。大物を仕留めたら、また、明日も白ビールで乾杯だ」

こうやって、大人たちは夜遅くまで盛り上がっていたのだった。

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