第2話 昼休みから放課後へ、まさかの告白

「ちょっと! まーもるー、話あるんだけど」


 体育会系女子の絵美から、いきなり声をかけられた。

 昼休み、俺は強引に絵美に腕を掴まれ、廊下まで連れ出された。


 そこには百花がいた。

 彼女はクラスの女子の中でも、おっとりとした優しい娘だった。


 絵美はポンっと百花の肩を叩くと、その場からすぐに離れた。


 いつになく百花はソワソワし、なぜだか瞳を潤ませている。


 待てよ・・・・・・。これってもしかして?


「ごめんね、守君。いきなり呼び出して」

「いや、別にいいけど」


 百花に対して特別な感情があった訳では無いが、俺もドキドキして上手く視線を合わせられなかった。


「あの、実は・・・・・・」


 これ、絶対告白だよな。

 思わず俺は口元がニヤけてしまいそうになるのを、ぐっと堪えた。


「実は、私、そのぉ・・・・・・」

 俺はゴクリと唾を飲んだ。


「もっちゃんに告白したいんだけど!!」

 恥ずかしそうに、百花は叫んだ。


「ぬぇぇぇぇぇぇえええええ」

 俺じゃないんかーい!!!


 と、情けないツッコミは心に収め、俺は百花の話を聞く事にした。


「つーか、なんで俺に言うの?」


「だって、だって! もっちゃん、いつも守君達といるか、食べてるかで、何考えてるんだか全然わかんないし! それにアーサー君は、目付き怖いし」


「あー。ねぇ」

 脱力感に包まれ、俺は正直どうなってもよくなっていた。


「まぁ、もっちゃんは今彼女いないし、学校でも好きな女いないみたいけど」


「ホントに?!?!」

 百花は、途端に目を輝かせた。


 チキショー。

 俺はもっちゃんに対して、なんだか憎たらしい気持ちでいっぱいだった。


 百花が、いくら気立てがよく可愛いらしくしてたって、どれだけもっちゃんを愛したって、この子は確実にフラれるに決まってるんだから。


「んまぁ、でも。どーなっても知らねぇぞ?」


「それでもいいの。もうこの想いを秘めてるのが辛くて。それに燻ってる自分を変えたいの!」

 百花は前のめりになり、顔を赤らめながら言った。


「・・・・・・ならいいけどさ」

 俺は溜め息をついた。


 ○


 放課後、もっちゃんと百花は誰もいない教室に2人きりになった。


 俺とアーサーは、廊下からこっそり聞き耳をたてていた。


 告白する百花のか細い声は、廊下にはボソボソとしか聞こえなかった。

 教室の扉のギリギリ死角から目を凝らすと、恥ずかしそうな様子の百花が、ぺこりと頭を下げるシルエットが見えた。

 唐突にもっちゃんの声が響く。


「俺から好かれたかったら、生まれ直せ!!」


 カラッとした悪気のない声が、残酷さを浮き彫りにさせた。


 俺とアーサーは目を合わせた。


 これには、百花も少し声を荒らげた。

「どーゆうこと?! 私、もっちゃんの為に綺麗になりたくてダイエット頑張ったし、もっちゃんは食べるの好きだから、料理だって出来るようになったのよ?!」


 ギギィと嫌な音を立て、もっちゃんは椅子を引いた。説教じみた口調で言った。


「女子特有のさ、ただ痩せれば綺麗になるって発想って、どっから来てんだよ?!

 あのな、肉体は見た目だけじゃねえ。使えなきゃ意味ねーんだよ?

 ブラジルのサンバ見てみ? 筋肉が引き締まってるだろ!ウエストは細いのに、出るとこは出て、あれぞわがままボディーだよ!!肉体美とはな、あーゆう事なんだよ!!

 ダイエット?飯抜いたくらいでなんだよ。

 細くても、スケールはダイナミックな女じゃねえと俺は勃たねえ!」


 百花は絶句した。

 気まずい空気が、静かな教室に重たくのしかかった。


 俺は心の中で、もっちゃんに話しかけた。

 なぁ、もっちゃんよう。

 ぽっちゃりとした丸い腹に、口元にはクリームつけて、そんなだらしないお前を好いてくれてんだぜ?

 しかもクラスの中でもなかなか人気の女子じゃねえか。

 サンバ踊るブラジル人はおかずにでもしといてさ、贅沢言わずに想いに答えてやれよ。


「もう、いい。クズ!!」

 百花は、走って教室を飛び出した。


 俺とアーサーは慌てて隣の教室に入ったが、百花は俺達なんかに目もくれず、真っ直ぐに廊下を突き抜けてった。

 階段をドタドタと降りていく音だけが響いた。


「おつかれさーん」

 アーサーは、教室の扉からもっちゃんに声をかけた。


 もっちゃんはうんざりした顔で、ピザ味のポテトチップスの袋を開けたところだった。

「お前らも食う?」


「あ、俺カバンに極細ポッキー入ってるぞ」

 俺は肩からカバンを下ろし、もっちゃんの向かいに座った。


「それ食いてえ」

「俺もー」


 机に菓子を広げ、俺たちはどうしたって事もないやるせなさを身にまとい、日が暮れるまでだらしくなく過ごした。

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