第30話 居るはずのない人間



静かな夜




穢れの気配は無い。

壬屋子は、笠峰先輩の事を思い出しながら、近所を見回る。



人々を救う、正義の為



それが先輩の口癖だった。心の底から尊敬できる誠実な人だった。


だが、死んだ。


自分を庇って死んだ。

大量に流れる血、冷たくなって行く身体・・・


まだ、リアルに思い出せる。



「大丈夫か?壬屋子」



修二の声で、意識を取り戻す。

ボーッとしていた、不味い不味い、職務に集中しないと


まだ宵の口・・・


繁華街にはまだ人通りが多い。

雑踏の中、遠くに歩く人影を見て、


「・・・笠峰・・・先輩?」


壬屋子は卒倒する。



そして、走り出す。



「おい!壬屋子!どこ行くんだ」



修二の制止も聞かず、壬屋子の姿は人混みに消えて行く。


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