第29話 生き霊の噂



深夜の夜守支部




1階部分には食堂が設けられ、夜守ならば、安く食事ができる。まだ、宵の口、食堂には多くの若い夜守の祓屋達が集まっていた。



壬屋子は、不機嫌そうに、蕎麦を注文し、他の者から離れた席に座る。修二もため息をつきつつ、それに続く。



壬屋子は、夜守の中で、浮いている。



というか、壬屋子の方が他の者を嫌っていると言った方が正しい。



壬屋子は、祓屋の仕事は正義の為であり、誇り高い仕事だと思っているが、他の者はそうでは無い。


楽して大金が手に入る仕事だと思ってくる者、『逮捕されない闇バイト』なんて呼んでいる奴もいた。夜中に出歩いても補導されない特権を手に入れると思っている者、若い女性や男性との出会いを求めている者さえいるのだ。



壬屋子は、容姿がそこそこ良いので、声をかける男子は多い。その度、



「あ゛?」



クズを見下す目で一瞥する様にしている。



「ホント、夜守も、低俗な奴ばっかりになったわね」



壬屋子は、蕎麦を啜りながら修二に話しかける。



「・・・仲間の悪口はやめとけよ」


「仲間じゃないわ」



・・・先輩みたいに・・・正義感に厚い奴はいないものかな?・・・


六畳の弟子には、そういう部分も少し期待した・・・だが・・・・・・まぁ期待はずれだった。



「笠峰先輩」



修二の口から出た言葉に、壬屋子は、びっくりする。ちょうど彼の事を考えていたからだ。


「この間、先輩の姿を見かけたって話聞いてさ」


「そんな訳ないでしょ」



「・・・だな、悪い、不謹慎だった」



笠峰誠司



壬屋子が過去にお世話になった先輩の名前だ。


そう・・・それは過去の話なのだ・・・なぜなら彼は、穢れに殺されて、すでに『この世』に居ないはずだからだ。




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