001-2-06 幕間、路地裏の殺戮
夜の帳が落ちてもアヴァロンは陰らない。人工の光がいつまでも街を照らし、輝き続ける。
しかし、全てが明るいままではいられない。
それはビル群の一角。建物の狭間のため明かりは届かず、人通りもまるでない路地。
本来であれば誰も近づかないであろう場所に目を凝らせば、いくつかの影があった。それは人。もし、一総たちが彼らを目撃することがあったとすれば、「食堂でシングルの少年を虐めていたトリプルの者たち」と評するだろう少年たち。
ただ、ほとんどは地面に伏して動かない。人としての活動が認められるのは、ひとつだけだった。
動ける少年が泣き叫ぶ。
「やめろおおおおお、やめてくれえええええええ!!!!」
少年は悲鳴を上げながら、誰かから離れようと足を動かす。
見れば、路地の奥から何者かが少年へと近づこうとしている。影差すこの場で、その何者かを確かめる術はない。
すると、何者か――影の腕が一文字に振るわれた。
「ぎゃあああああああ!!!!!!」
少年から先程とは異なった声色の悲鳴が響き渡る。直後、苦痛に苛まれた泣き声が続く。足を押さえていることから、足を負傷したようだった。どうして負傷したのかは言わずとも分かるだろう。
影が少年の傍らに辿り着く。
少年に何かをするようで、地面にうずくまる彼へと手を差し向ける。
この先には死しか待っていないことは、倒れ伏す他の少年たちを見れば分かり切ったことだったが、すでに少年には逃げるための気力も体力も残っていなかった。
「ど、どうじて、こ、こんなごとするんだ!?」
嗚咽に塗れた声で犯人へ問い質す少年。
その行為に意味などない。死に直面した極限の状況で、混乱した思考が咄嗟に口を突かせた言葉だった。
ゆえに、影がそれに答える意味もなかった。
しかし、
「己が行いを振り返ってみろ。食堂での胸糞悪い所業を含めた数々をな」
男性の声が返ってきた。若い、襲われている少年と大差ない年齢と思われる。
それを耳にした少年は声にならない息を漏らす。
「お前、まさか学園の――」
何かに気づいたように少年は驚愕の言葉を紡ごうとしたが、それは最後まで形になることはなかった。
影の手が少年の胸元に重なり、何かが始まる。
「あ、ああああああああああ」
慟哭が溢れ出る。この場に明かりがあれば、きっと絶望に歪ませた少年の顔を目にすることができただろう。
そのうち「ぐちゅっ」という生々しい音が風に流れる。同時に、先程までの悲鳴が嘘のように、路地には静けさが降り立っていた。
倒れた少年は動かない。
彼に手を下した影は立ち上がる。
そして、吹く風で消えてしまうほどの声量で呟いた。
「トリプル複数人を瞬殺……『勇者』殺しも目前か。でも、その前に
音もなく立ち去る影。その場に残ったのは勇者たちの死体のみ。
勇者殺し。彼の者の目的は、すぐ間近まで迫っていた。
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